たまの休みに珍しく家にいると

 訪ねてきそうな人などいないはずなのに、なんかお呼びでないお客がよく来る。
 高確立で来るのはなんかの請求。もうよくわかっているのか新聞屋なんか必ず来て契約とかしていく。なんか、今後契約のおまけに金券の類はくれなくなるそうだ。他のおまけってあんまり意味ねえよな。平山夢明先生曰く「あいつらは我々に貢ぎ物を持ってくるために存在するんだ」そう言って新聞屋から可能な限り搾取していた先生の家には、契約更新の時期になるとちっちゃい子供が更新のお願いに来るようになったそうだ。初期のゴミ鍋で語られていたエピソード。
 もう一つ、よく来るのはNHKの集金屋。例の騒動後、自粛してるのか一度も来てないが、その前は休みの度に必ず来ていた。「腰の低い爺さん」「弱そうだけど目つきのよくないおっさん」「ボス格なのか場違いに若い兄ちゃん」。共通の特徴として「うちにはテレビがない」ということを絶対信じてくれない。いらねえじゃん、あんなもん。必要でないから我が家にはない。それを正直に言っているのにどうやら「悪質な世帯」とマークされてるらしく、と言うか一時期うちのアパート誰も払ってなかったらしく、その中で最後に残ったラスボスがうちだったようで、休日家にいると必ずと言っていいほど頻繁に来るようになった。目的は皆同じなので最初に言うことは判を押したように同じ。こちらも何らやましいことはないので慣れてくると相手をよく観察してみるようになったが、なんか妙な奴が多かったな。無駄足なのに、大変ご苦労様です。
 宅配便もよく来るな。ただ単に平日の日中に捕まらないからなのかもしれないが。
 で、なぜがその連中、よりにもよって当方がトイレ入っていたり、シャワー浴びてたり、すぐに玄関には行けなさそうな状況の時に好んで訪れる。それはもう素晴らしいタイミングで。やはり、トイレから出てきて玄関を見ると郵便受けに不在通知が刺さっている状況には腹が立ってしまう。
 本日の招かざるメインゲストもそんな状況で現れた。上に述べた招かざる客三人集にこいつらを加えて四天王となる、最強の刺客である。本日、私がクソをしている最中、呼び鈴に呼ばれてケツを拭くのもそこそこにズボンを履き直し、開けた玄関先にはなんか休日なのにキッチリとしたワイシャツにネクタイをして、髪の毛もキッチリ真ん中で分け、左手には口が開いてなんかのチラシが入っていいるのが見えるビジネスバッグ、そこに立っていたのは40位の男の人。当然知らない顔。挨拶に続いて出てきた言葉は「聖書について興味はありませんか?」。おもむろにバッグから取り出した冊子上のチラシには「めざめよ!」の言葉。そう言えば最近ご無沙汰のモルモン教徒さんでした。熱心さと勤勉さは認めますが、ゴメン、わらかしの材料以上に何の興味もないわ。でもまあ、なんか興味あるようなそぶりを見せると必死になって食いついてくるのでいつもなら少し話してしまうのだが、本日はクソしてる途中で呼び出されたのでそんな余裕ないわ。でもまあ、「聖書知ってますか?」の質問に「読んだことあります」って答える当たり、私も本当にお人好しだな。案の定目を輝かせて食いついてきた。そりゃーねえ、パッパラパーでなければ聖書くらい読んだことあるでしょ。正直おもしろいし。けど信仰の対象として読むのとは大分違うと思うよ。けどまあ、そっち系の教えを信奉の基礎とする人達は、ある意味優位な位置に立っているよな。何せ「(自称)世界一のベストセラー」が武器なんだから。他宗にとっての過去の賢人をボロクソ言ったりするけど、これだけ広く彼の本が広がったのは他でもないその人達の努力の賜なんだから少しは感謝しても良いと思うよ。例えばどっか系の団体がそれを真似て、調伏する時に「あなたは立正安国論読んだことがありますか?」なんて質問そもそもが無茶だし。
 モルモンじゃないけどあっち系の韓国人は別れ際必ずハグるよな。日本人であってもモルモン系の人と別れ際に手を差し出すと凄く喜んで帰っていくよな。決して他意があるわけでなく、むしろ先に述べた理由であんまりお話が出来なかった申し訳なさもあって、自然にそうしてしまったのだが、ごめん、手ぇ洗ってなかったんだわ。ネタになってしまった。ヒンドゥー教の人だったた殺されても文句言えんは。
 どうも、この熱心な信者はうちのあるアパート全部を回ってるらしい。当然うちの次はお隣へ。そう、同じく異なる熱心な信者宅へ。どんな対応するのか、聞くしかないでしょ?具体的な調伏の仕方って知らないけど「国賊!我が国を侵略しに来たのか!」とか、敵に対しては安国論ばりの激しい反論をするのかしら?
 今少し、トイレに戻るのを我慢してドアに張り付いて耳を傾ける。あ、どうやらお隣は在宅らしい。ドアを開けたようだ。・・・ほとんど話すヒマもなく、冷たく拒絶ざれて速攻ドアを閉められたらしい。・・・普段知らないところで階段を掃除したり、誰も管理してくれないアパート内のことこまごまとやってくれてるみたいなのに、やはり単純に敵の区別はつけているらしい。これ以上敵視されないように、もう少し気を遣って生きることにしよう。
 トイレに戻って、もらった冊子を読む。・・・役に立つことは何一つ書いてなかったが、意外におもしろかった。ので、捨てた。