その四十八 新宿区左門町 『お岩稲荷田宮神社』

sans-tetes2008-05-06

 大物です。大物の基準がよくわかりませんが。
 さて所謂「四谷怪談」で有名な通称お岩神社、そもそもお岩による夫田宮伊右衛門への亡霊の復讐譚は全くの創作で、なぜお岩さんが夫に仇為す亡霊のモデルとなったのかよくわかっていないそうな。事実の田宮伊右衛門、お岩夫婦は当時近所で評判の仲良い夫婦で貧乏御家人世帯の田宮家の繁栄を願ってお稲荷さんを勧進したのが田宮神社のそもそもで、神社勧進後その霊験のお陰か田宮家は裕福になったとのこと。更にはこの田宮家、現在も実在していて、当然当代はお岩さんの子孫とのこと。ご先祖さんがいつの間にか有名な亡霊になっていたってどういう気持ちでしょ。
 いずれにせよ、創建の由来から御利益は確かな当社、芸能界とも繋がりある神社界のビッグネームであることには違いなく、それなり多くの御参拝。私なんぞが訪れた日なんか、境内参拝客でいっぱい、とはいかないまでも境内常に人の途切れず、前の人の御参拝待ちの間、そんなに広くない境内、ぐるぐる散策することなかなか面白く。
 拝殿には縁起に因んだ多くの資料の切り抜き。「ご自由にお取り下さい」の由緒書きと共に、「四谷怪談」として有名なことと、事実との整合に頭を抱えながらも正しい神社の宣伝に勤しむ宮司さんの苦労が忍ばれる。そのどちらにあやかりたいのか、本殿、摂社、手水舎から果ては掲示板に到るまで千社札の数々。その全てに武生発見。さすがは大物。ってだから大物の基準て何?
 参拝のみなさんは、書いてる通り行儀良く「二礼二拍手一礼」を拝殿前にて行って去っていく。実はこのお社、横っ側から入れることみなさん知っているのでしょうか? 鍵空いてるし「ご自由に」みたいな張り神あったので入って良いと思います、たぶん。もしダメだったら御免なさい。けど別に社に入ってイタズラしようというつもりではないので。
 社殿の中は、芝居関係のお供えが多い。明かりは灯明代わりの蝋燭型電灯が神前にあるのみで社内基本薄暗い。元々神社のある場所が閑静な住宅街ではあるが、社殿に入るとほぼ外界と聴覚的に隔絶され存分な静寂を堪能できる。神前に灯明、ぼんやり照らされた鏡と多くの眷属狐、辺りは芝居関係の奉納物、たまに背後で参拝者の拍手。異界だここは、間違いなく異界だ。居心地良すぎて正座してても痺れない。この世知辛い世にこんな粋な計らいを用意してくれる宮司さんに感謝せねば。もう一つ、これから予定あるのにもかかわらず社殿に入ったまま出てこない呑気してる私を待っててくれた同行者にも感謝せねば。