『喜劇 女は男のふるさとヨ』

 スケベで頼りない金沢(森繁久彌)にしっかり者の竜子(中村メイコ)夫婦が切り盛りするストリッパー斡旋所「新宿芸能社」に、今は旅回りの踊り子を営む笠子(倍賞美津子)が久々に帰ってくる。そろそろ身を固めようと言うのだ。平穏な生活を望んで帰ってきた彼女だが、帰ってくるなり東京まで彼女を追ってきた昔のヒモに拉致され、彼女を取り返しに行った金沢は逆に半殺しの眼に会う。娘とも思う笠子を浚われて亭主までこんな目に合わされて警察は動かない、地域の顔役も及び腰とこのままでは腹の虫が収まらない竜子、仕返しに笠子をさらった連中の根城のバーに汲み取り便所から集めた糞尿をぶちまける。あれやこれやで一応笠子は無事戻ってくるが、一連の騒動に居たたまれなくなり黙って再び旅に出てしまう。その後、笠子の手紙を持って新宿芸能社を星子(緑魔子)という女性が訪ねてくる。笠子を姉と慕う彼女はやがて踊り子を目指すように。一方そのころ笠子は、旅先で出会った生真面目な男・照夫(河原崎長一郎)を連れて旅から旅へと各地を回る生活を楽しんでいた。
 今回の森崎東特集上映で続けて観た『生きてるうちが〜』とか『生き返った〜』で残念ながら散漫な印象を受けてしまう、「主人公だけでなくその他複数の登場人物を中心としたエピソードを別々に進めそれぞれを絡ませての物語展開」が、この作品の場合それぞれうまくかみ合って良く出来ていた。場面場面で別々に中心となる3人の女性、容姿端麗でいつも自らの幸せを掴めそうでいてそれが叶わない笠子役の倍賞美津子、自分の幸福は天然・素直さがきっかけで掴むものの時々それと相反するような女の姿*1を見せる星子役の緑魔子、彼女たちの親代わりとして誰よりも彼女たちの幸せを願う優しく強く一方で亭主を愛することも忘れない理想的な母親像を見せる竜子役の中村メイコ、これが良いいんですね。で、更に時々現れてはトラブル解決にはあんま役に立たず、目立つことといえばスケベっぷりを披露するのみという、ところがこれが物語の作るのに絶妙のタイミングを計っているいるという森繁の役割はさすがと言うのでしょうか? どーしようもない駄洒落を言ったり朝っぱらからトルコ通ってトルコ嬢に愚痴ったり緑魔子のおっぱいを触るだけなのにねぇ。
 途中まで、「(笠子には)コイツしかいないだろ〜」と思わせといて予想外のどんでん返しとなる「真面目な」照夫を演ずる河原崎長一郎の役、とは言っても「あ、やっぱり」というような感じもしてある意味期待を裏切らない印象。一方で、夜のバスの中、運転席に座る彼に対して助手席の笠子が彼を見つめる、初めて好意の視線で持って見つめるシーン、倍賞美津子の妖艶な視線にグッと来るのは当然として、その視線を一瞬だけ合わせた後すぐに反らしてしまった河原崎長一郎、このシーンが何故か一番惹かれた。それと、節目の出番で明瞭に印象を残すのは、森繁だけではなく、伴淳三郎と左ト全も。長い映画の中では一瞬とも言えるシーンにもかかわらず、的確に印象を残してくれる彼らの存在は、良いとか楽しいとか通り越して卑怯にも思えた。緑魔子の相手役が伴淳かよー。

*1:なんつうか、「緑魔子の魅力?」と言えばよいのかな