鶴見の給水塔、数景

 大体国道1号線こと第二京浜道路はUターン禁止の交差点が多すぎて、途中面白そうな景色とか寺社とかあっても容易に近寄れず、仕方なしに脇道へ入ってから向きを変えようとすると、そこは横浜、主要道路を外れて少しでも脇へ逸れようモノならば待ってましたとばかりの急峻な坂道、こんな坂の途中バイクでUターンしようモノならコケるは必定、バイクを駐めて様子を見ようにも後続怒濤の如くの車の列に狭い道にバイクと手駐めるスペースは確保できず、半ば強制的に鶴見の山の方をウロウロと走らせられた挙げ句、住宅地の中突然登場したノッポな坊主頭にこれは奇縁とバイクを降りて近づいてみるコトにしましたとさ。

 正しくは「横浜市水道局鶴見配水池」の「配水塔」と云うそうな。

大きな地図で見る 実際に歩いて近寄ると桂小枝の「桐灰貼る」のコマーシャルの如き異様な坊主頭がにゅっと飛び出たいかにも奇景然とした姿、地図で見ると意外や広大な配水池の脇に「ポチッ」ってな感じで盲腸のように立っているだけなのに拍子抜けする。

 市のライフラインを与る重要な施設につき当然の如く周囲は柵に囲われ極近への立ち入りは制限。仕方がないので柵に沿って近寄れるだけ近寄ってみてその雄姿を収めてみることにしてみました。

 柵越しに眺めると手前の広場には水道工事で使用するであろう夥しい数の管パイプの類、「給水塔」と「パイプ」、一見何の繋がりもないようですが互いに守るは空と地と、言うなれば互いに欠けてはならない相手同士というヤツでして、戦時で言うと前線と銃後と言った所でしょうか、要は関係あるモノが並んでいる、和歌で言うと「縁語」と言うヤツでございます。かの業平公一行が東下りの折この場所を通ろうモノなら間違いなく「かきつばた〜」に並ぶ良歌をこしらえたに違いない、そんな景色ですな。

 配水池正面入り口に掲げられた看板。木の板で書かれている所にある程度の時代を感じます。落ちないようにせこい針金で縛り付けてあるトコロも見逃せません。

 恐らくここらが直近で拝める給水塔のお姿、逆行が後光のように差し神々しさを増すと書けば聞こえはよいですが、ただ単に光が眩しくて見難いだけだけなんですな。
 ですので角度を変えて

 一命「給水塔と昼の月」でございます。一見コンクリートの造成と見える給水塔、「給水塔」という機能そのものからそこそこな年代物であること窺い知れようモノですが、現在実際に使用されているモノなのかどうかはよく解りません。

 直近に給水塔が拝めるのも束の間、少し歩くとすぐ隣にある水道局員用の社宅に遮られて塔はその特徴的な頭しか見えなくなります。更に離れるととは視界から完全に消えてしまうのですが。

 可能な限り給水塔を収めてみようとグーグルマップにも載ってないような路地に進入して裏側から給水塔の姿にアプローチしてみようと思います。

 すると予想外の邂逅。「おじさん何してるの?」

 すげえ格好良い表札・・・

 「だからおじさん何してるの?」

 そうでした。おじさんはこれを探しているのでした。

 こちら側からは広大な配水池越しに給水塔を望む形になり、殆ど頭の部分しか給水塔は見えませんが、却って配水池の広大さがよく解ります。

 旧坂の途中に段々に並ぶ住宅地やそこから眺める横浜方面の景色が面白かったりして別の部分が面白かったりしたりします。

 この地形、毎日通えば体力付きそう・・・ネコにとってもすごく住みやすそう。

 とか言ってる間にまた出たなこの野郎。


 悪態を察知したネコは素早く急峻な斜面を駆け下りる。彼の屋島の合戦の折、鵯越を駆け下るのがシカでなくネコであったなら、義経鵯越を駆け下るのを諦め平家の命脈もしばし保てたであろうに・・・。

 肝心の給水塔、今度は斜面に阻まれ頭しか見えず。配水池が離れて給水塔が再び近づいたのにこれでは。

 仕方がないので斜面を登って柵際まで近づいてみることにしました。私にここまでの勇気をくれたのは先程のネコのお陰、もしも私が義経で崖を駆け下るネコを見たらこう言っただろう「猫も四つ足なら馬も四つ足。猫に出来て馬に出来ぬはずがない。皆の者九郎に続け!」「いや九郎ちゃんそれ無理(落語の源平風に)」
 
 柵越しに、給水塔。上ってみるとこちら側にも配水池が僅かに干渉して足元を少し隠している。

 こちら側からの給水塔の眺め、坊主頭に謎の窓の様子がよく見えるのと、塔の下の方、葛だかなんだかの植物が浮き出た血管のようにへばり付いてるのとで廃墟然とした様子がうかがえます。ただ単に日が傾きかけているだけのせいかもしれませんが。

 日が傾きかけて、元の場所へ。今来た道が給水塔最近接のルートのようですが、そんなこと考えてこの道を歩くヤツはいないと思う。

 所で冒頭の給水塔の全容をほぼ一望できる「鶴見配水池交差点」、給水塔の対角にちょうど給水塔と向かい合って馬頭観音像を納めた祠があります。

 この馬頭さん、ずっとずっとこの位置に立っていたとするなら給水塔が出来る様もずっとずっと見続けていたのでしょうか? 馬頭さんの前に積まれた小石がひどく長い影を作っていたので振り返ると

 お日様は給水塔の向こうに落ちかかっておりました。