渡辺文樹監督作品『政治と暴力』 (第1部『三島由紀夫』第2部『赤報隊』)

 何もここで改めて書く必要などないと思うのだが、一応「模範的な」渡辺文樹映画の鑑賞の流れはこうだろう、恐らく。
 
 1 街中で偶然「渡辺文樹監督映画」のポスターを見かける
 2 そのポスターのデザインの奇抜さ、文言の過激さ、それに何よりも映画タイトルの過激さに惹かれて興味を持つ
 3 ポスターに興味を持って大抵は公の小さな劇場、公民館、或いはその建物内の小さな会議室で平日予定される上映会に足を運ぶため学校をサボったり会社を休む
 4 会場に着くと何故か警官が会場関係者と打ち合わせをしていたり公安らしき人員が立っていたり、その内本当に右翼の街宣車が来て驚いて会場内に入る。
 5 上映開始と共に作品の解説を述べる口上が始まり会場の後ろの方で映写の準備をしているおっさんが渡辺文樹監督その人だと知って驚く。
 6 口上の後始まる映画を鑑賞する
 7 映画終了後、その内容のシュールさに茫然自失とする/或いはムチャクチャな設定と演出に首をひねる/或いはポスターや口上の煽り文句とのあまりのギャップに激怒する/或いは以上の全てを演出の一環と理解して広い意味で騙されたことをも娯楽の一環として満足する。
 
 会場もぎりの際に渡されるのは「入場料1400円」に赤い字で1000円に訂正された入場券、それを高いと見るか安いと見るかは各人によるのだろうが、その対価は映画一本を見ることに対する価値だけではなくこの映画を観るに至るまで周到・・・お世辞にも周到とは云えないのでいろいろな意味も込めた無責任さの元に発生する偶発を期待された準備に対する対価であると理解すれば納得はいくか? 

 渡辺文樹最新作『政治と暴力』は1部と2部に別れているモノの事実上二つで一つの作品、都合3時間にも及ぶ大作である。にもかかわらず最初から最後まで緊張・興奮の持続のまま一気に見切った印象が残るのは、別に「いつ右翼ががなり込んでくるか?」「最前列に陣取るあの観客が持つペットボトル中の塩酸はまだブチ蒔かれないのだろうか?」「そろそろ金返せコールが起こるのでは?」等の映画上映を媒介として発生する映画以外の見せ物に対処するための緊張でもそれらを待ち望む興奮ではなく、映画ソノモノに対する「緊張」と「興奮」であった。この点に於いては今作、ある意味大いに「期待はずれ」な渡辺文樹作品と云えよう。

 「一つ天皇を殺す映画を作ろうじゃないかとカンパで金を集めた」「天皇家の血を引かない今の天皇がのうのうと国民の税金で暮らしている」・・・この作品より前に上映された『腹腹時計』『天皇伝説』の際と同じように本作に於いても映写機を操作する渡辺文樹監督自らによる多分に作品への煽り文句に監督自身の持つ左派的思想を喚呼させる口上でもって開始という「型」は同じである。それなのに題名が「三島由紀夫?」天皇制を誰よりも批判する渡辺監督が誰よりも天皇制擁護を訴えている三島由紀夫の名を映画に冠して? ただこの題名に始まる「意外性」は本編が始まった途端若干薄らぐ。場面切り替えの際は冒頭悉く焦点の合わないまま始まり、登場人物のセリフはトチってもそのまま続行、前作、前々作に比べれば幾分マシとなったとは云えやはり何処かおかしい場面の背景や人物の服装。そして相変わらずの大分論理の破綻してる陰謀論のオンパレードには「渡辺文樹を観ている」という気分を十分満喫させてくれる。そうやって第1部「三島由紀夫」はその題名の通りのクライマックスまで流れていく。
 しかし違うのだ。いつもの様に綻びだらけの映画であるのに、いつもなら失笑、その上で渡辺文樹的演出の一つと理解するその綻びにつまずくことが無く、最後まで突っ走る様に映画は進むのだ。話題があまりに突飛すぎないニュースでお馴染みのネタを拾っているから? 普段殆ど主役「渡辺文なんとか」とせいぜい一人二人くらいしかキャラが立っていないのが本作では印象的な人物が多数いるから? やはり抜けない役者の素人臭さではあるモノの本作では格段に演技している、にもかかわらずその素人臭さが不思議な臨場感と迫力に繋がっているから? ワカラナイ。判るのは本作品、あの「立ち看に騙される」、渡辺文樹監督映画の演出の一部であるこの行為が無くとも十分観るに値する一本であることは間違いないと云う事。もちろんあの立ち看に踊る文字・・・「渡辺文樹」が「三島由紀夫」を「赤報隊」にどう繋ぐのだ? この解かずにはいられない方程式に興味を抱くことから公安と警邏が迷惑そうに巡視する上映会場に足を運ぶのも全面的に「アリ」である。

 そんな「三島由紀夫」がどう「赤報隊」に繋がるのか? やはりそれは実際に観て自身で確認して欲しいので映画の詳しい内容についてはここには書かない*1が端的に、よく言えば「度肝を抜かれる」悪く言えば「金返せ!*2」・・・次に近所で、近所でなくともWEB伝いに上映の機会が瞬時に流れてくるこのご時世に感謝と畏怖をしながら次の上映の機会を逃さず本作を是非。

 オマケとして最後に会場周辺のショットを

 会場前。何やら物騒そうですね

 イカすポスター群

 待ったけどパフォーマーしかいねぇ

 けど任務だから中野電車区敷地内で待機。いそがしーんだよ? おまわりさんは。

 渡辺監督と会場に観に来ていた一水会顧問鈴木邦男氏との思想的に意味不明なツーショット*3。鈴木氏の映画へのコメントは「よくできてるねぇ〜 襲撃の人なんかそっくりだったし」・・・あんたねぇ。と言うかアンタの立ち位置が益々ワカラン。

 終映後、盛況のパンフ売り場

 ごらんの通り今回の会場は平穏そのものでしたが、次の機会はどうなるコトやら、はたしてはたして?

*1:作中大笑いしたので1ヶ所だけ紹介したいシーン。「平岡!もっと速く走れ! 平岡!へばるな! 平岡!顔あげろ! 平岡!平岡!ひらおか〜!・・・」

*2:やっぱり

*3:この写真肖像権等の問題で差し支えあればすぐ消します