西武、秩父

 日本ではよくごく一部に集中して高山高地の固まっている様を称して「なんとかの屋根」と言う呼び方をする。大きく「日本の屋根」と云われてるのが「日本アルプス」と云うヤツですな。神国日本の峰々に蛮地に住む毛唐の地名を借りようとは情けないお話しじゃございませんか。ただこれが更にやり過ぎてその麓の行政名「南アルプス市」とまで行ってしまうとちょっとこれは誉めて差し上げたくはなりますなこれは。緑の看板に白抜きで「南アルプス」その下に「Minami-Alps」とローマ字英語折衷で読みの書いてある高速のインター名を見た日にゃ唖然として魂まで抜かれて事故の起きないことの方が不思議です。そのせいだけじゃぁございませんがあたしゃぁ未だかつて中部横断道に乗った経験はございません。こんな悪態も実際にそこの住民でないからつけるワケですが。
 と言うことで他人の住む土地の悪口はここら辺にして自分の住んでる埼玉に話題を移してみましょうか。「埼玉の屋根」とは何処のことかてぇコトになるとそんな名称は聞いたことがないので詳しいことは判りませんがまあ順当に行けば秩父の峰々が妥当というこでしょうか? まあ日本一郷土意識の薄い県民にとってみれば埼玉に高い山々があることなど思慮の外と云ったところでそのせいか知人に問うたところ「埼玉の屋根」と来れば連想するのは西武ドームさいたまスーパーアリーナ、はたまた埼玉スタジアムと文字通り本当に巨大な屋根のある施設が思い浮かぶ辺りいかに想像力の欠如した県民性の露呈、これこそ恐れ慮外の空模様の囃し文句の通り屋根あって初めて通う郷土心なんて勢いで書いてみたけど上手くも何ともないな、こりゃ。


 そんなこんなで到着したのは八高線及び西武池袋線東飯能駅、あんだけダラダラと序文書いた割には今初めて目的を明かしますが秩父連山の内さる峠越えのルートは結構面白い景色が広がっていると云うコトで行ってみることにしました。東飯能駅前から国際興業バス名栗村方面行きのバスに乗って一路山の中。

 そこそこ古い街並みの情緒が残る東飯能駅前はあっという間に過ぎると名栗川に沿ってどんどん狭くなっていく道を巨大なバスはモノともせず進みます。こーいうギリギリの取り回しは本当に拍手喝采で賞賛してあげたいバスの運転手さん、ご苦労様です。

 まあいつものコトとも一人行の気楽さとも言うのですが、飯能駅発、東飯能駅経由のバスはほぼ2本を保つ高回転を保っているのですがその行き先「名栗車庫」が実は今回の目的のバス停「名郷」より手前にあったことなど知るよしもなく調べる気持ちもなかったことから当然のの成り行きとして「名栗車庫」で下ろされて歩かされるハメになり、まだ上名栗の集落内そこそこに民家のある中とは云え秩父正丸方面へとゆるゆると不気味に傾斜を持つ上り坂を行くのがかったるく次のバスを待って終点の名郷バス停まで行くことになりました。こんな事になるのなら東飯能駅前でもっとゆっくり、例えば駅前のお稲荷さんとか

 20億貸せるんだったら某プリンスホテル潰さんでも良かったのではと思う名称の金貸しとか
 
 でふらふらしていれば良かったと。

 そんなこんなで名郷に着いたのはもうお昼近く。いかに大雑把に過ぎるとは云えちょっと大分時間のロスで、一人行の気ままさから計画などあってもなくてもよいモノの一応今回の「メイン」と時刻とは結構密接に関わりそれを外れるとここまでの苦労は全て無駄になる*1と云うコトもあり予定を繰り上げここでメシ。この先正丸・山伏両峠方面からの自動車・バイク、そして目的地と方向を同一とする方面へ向かうトラックの吐き出す排気や立てる砂埃を副菜にしながらの食事です。

 せっかくですから周囲を見てみましょう。目的地は写真の方向指示板で右方向を指している「鳥首峠」になります。この交差点の「鳥首峠」方面側、流れる川を渡って橋のすぐそばに「集落のお店」といった風のお店が一件。非常食ばかりでマトモに昼食となりそうな食料は全くと言ってヨイほど携帯してこなかったためこのお店でお菓子でも買って腹の足しにでもしましょう。

 山間に来たことも関係しているのでしょうがここに来て空に雲が増してきたのでお店のおばちゃんに天気予報を尋ねるとわざわざご丁寧に調べてくると奥の方へ向かわれました。その間店内をウロウロしていて見つけた集英社とか亀有だかで見たことある様な錯覚を起こすお菓子(くじ?)。なかなか侮れず。

 結局お天気は判りませんでした。ところでよく地方を旅する皆さんならおわかりだと思いますが地方に行ったらなるべく現地のお店でお買い物をして訪問の記念に地域にお金を落としましょう。都会の方が安いからと地元からお弁当とお茶くらいならともかくジャンク系の菓子や自販機系の飲料など一切合切わざわざ持って来る様なせこいマネは止しましょう。商店でもガススタでもよいから都市部と比べて地方のちょっと割高の商品をご祝儀だと思って一回以上は利用しましょう。自動車で来るだけ乗り付けて、一銭も地元に落とさない、あまつさえゴミさえも持ち帰らない方々、そーいう了見でレジャーを楽しむな。来るな。便利だけが万能なら家でじっとしてろ。

 峠道に向かう途中の貴重な商店だけあってハイカーやチャリンカーが時たまこのお店を利用してお店の前にあるベンチで休んでいくことも多いようです。そのためでもないでしょうかお店の回りは植木やらお花やらお店のおばさんこまめにお手入れの模様。せっかくベンチでチャリンカー共が休んでいるということで丁度目的地「鳥首峠」方面から来たチャリンカーにこの先がどうなっているのか聞いてみます。すると。
 「しらない」「わからない」「何故だかトラックの通りが激しいが理由はわからない」・・・運悪く話しかけた皆さんの中に「パスハンター」系のチャリンカーがおられなかったせいかちょっと要領を得ません。この先に何があるのでしょう? 謎が謎を呼びます。本当は知っているのですがここは敢えて謎としておきましょう。

 向かう道の先の明らかにどん突き感満載の方向へ向かっていよいよ向かいます。

 こんな傾斜でもきついのが埼玉南部平地にお住まいの萎身でございますが、道の途中まで集落は続き中に民宿

 その内集落が終わると修験系ぽいお社。

 そして噂通りこんな狭い道にもかかわらず道幅ほぼいっぱいを占拠するトラックが突っ込んできました。果たして彼らの目的はなんなのでしょうか? 謎は尽きません。

 その内に川側、キャンプ場とその先にバンガロー登場。利用シーズンは十分到来しているはずなのですが先頃までの寒さのせいでしょうか? 利用者ほとんど見えず。

 バンガロー第一番目の愛称は「すぎ」。ひらがながポイント、最初から飛ばしてます。

 キャンプ場の中にはちょっとした渓谷が存在。きちんと管理されているようで本格シーズンが到来したら家族連れにはちょっと大変楽しめそうですね。

 すっかり摩耗してお角もお顔も綺麗にすり切れた馬頭さんを境界にキャンプ場が終わり

 後はこんな味気ない道。実用には供していると言う感じはしますがね。

 けど道の脇にはこのように普通に滝とか渓流があって、この先水流豊富な山の中という雰囲気を醸し出しております。滝に向かって徐行しなければイケナイのはさすがです。

 こんな感じの道がしばらく続き、更にも一つキャンプ場を通り過ぎた更にその先、道のどん突きと思しき当たりに山中周囲に明らかに異質な建物がちらりと見えますあれは?

 そうです、先程からこの山道に不釣り合いなトラック共が向かっていたのはこの工場、果たしてその目的は? この山間に突然登場するこの威容、悪の組織の秘密基地の例えが一番しっくり来ます。

 おあつらえ向きにジープが停まっていたので構図に入れるとますます秘密基地。組織の厳重な監視を潜り抜けこれから命がけの潜入を・・・

 ちゃんとハイカー用に道が整備されております。悪の組織すごく親切。

 脇に社名の書かれた小道を通過後

 登ります登っていきます。

 たぶん日本屈指の頑丈なハイキング道。雨風ガレも平気だが雪と凍結が重大な弱点。

 横目に特殊な造型を見せる工場の建物が眼に入ると思えばその下にこんなハイキングコースらしい表示看板が。なかなかのカオスです。

 そんなハイキングコースを跨ぐ妙に気になる形の建物に

 道の脇にはどこかで見た事のある形をした杭。これは・・・

 とココで工場のチェック。写真撮影のために今登ってきた道をまた降りて下にある事務所で許可を取らなければなりません。最初に書いとけばよいのに・・・これは工場稼働日の平日にもかかわらずバシバシ現れるバカ共へのささやかな嫌がらせですな。

 と言うワケで許可取った許可取った。それでは。

 ゴトンゴトン・・・ちょうどタイミング良く出てきました。目的はアレです。そうですココは秩父山系に豊富に埋蔵された石灰岩を採取する鉱山の一つで、未だに坑内掘り及び坑内への所謂鉱山鉄道が現役で稼働している鉱山なのです。秋田や長崎や北海道と嘗て栄えた日本中の鉱山で既に絶滅して久しい鉱山列車がなんとほぼ東京のお膝元埼玉の山の中にこうして未だ現役で稼働しているのです。チルチルミチルですね。

 構内そんな青い鳥たちばかり・・・といいたいところですがそこは歴とした鉱山鉄道、当然用がなければ地表に登場することはありません。用とはつまり採掘してきた石灰岩の積み込み回収に他ならないのですが、今回私の見る機会のあった唯一の機会であるこの写真での列車、ちょっとタイミングが悪く坑口方面から出てきた時点で私はまだ遙か下の方におり慌てて上って来ると既に編成先頭の機関車が向きを入れ換え再び坑口の方に戻っていく最中で、路線はこのデッキ丈になった終着点の手前で長い屋根の下に入ってしまうため具体的には鉱物をどのように積み下ろしているのか等の詳しい作業の様子はわかりませんでした。唯一判ることはこの鉱山列車今でも作業のために供されており定期的に坑内と地表とを行ったり来たりしているということです。そしてその様子はタイミングさえ合えば鉱山・工場にほぼ密着して隣接しているハイキングコースから直に目の前で見ることが出来ると云うことです。埼玉の山奥に未だトンデモない登山道があったモノです。

 地表に見えるレールの部分には殆ど傾斜はないようです。ですから当然のことなのですが上の方へ登ることを目的としたハイキングコースとはこの部分で全く相容れず、ハイキングロードと鉱山鉄道(及び鉱山・作業所)が間近に見えるのはごく身近い間なのですがそれでも上の方から一部路線の様子と作業上を含めた鉱山の様子を見ることが出来ます。時間の有り余っているおヒマな方はこの全景を見下ろせる場所で腰を据えてメシでも食いながら列車の行き来の様子を眺めたり何日か続けて居続けてみたりして列車にダイアが存在するのかどうかとか考察してみるのもよいかもしれません。私もそれを考えましたが一応建前として「峠越え」の目的がある本日あまり時間を経て日が暮れてそうなんでもしたらコトなので鉱山列車の行き来はここら辺にしておきました。ちなみに私がここらでウロウロと撮影に興じている間に何組かのハイカーの皆さんが通りかかりましたが眼下の絶景には特に興味は無い様でした。

 後は望遠のカメラをお持ちの場合望遠鏡代わりに線路の続く方を覗くと線路は坑口らしいシャッターの向こうに消えていることが確認できます。その斜め上には信号機がありますのでこの注意してみればこの位置から列車の出入りの確認は可能です。

 これも望遠からの風景、神社が見えます。落盤等の事故を避けるための山の神様を奉っているのでしょうか? お好きな人以外には殺伐以外のナニモノでもない鉱山風景の中で心和む風景です。最も「お好きな人以外」がこの風景に気が付くことはほぼ無いというのが一番の問題ですが。

 鉱山で働く現代の山の男達を横目に平日登山のヒマ人達はこの後もハイキングコースに従って上へ上と向かい名残惜しく愛おしいこの風景はどんどん遠ざかり行く先はますます深い山の景色と相成ります。

 最後にもしもこの記事なんかを見てちょっと行ってこようかな? なんて思ってるバカ共に注意。

   記事中の写真、本文にあるように撮影の際は必ず事務所に断ること。
  事務所で受けた注意は必ず守ること(撮影場所について注意を受けます)。
  当然のコトながら路線内や作業所敷地内への許可無き立ち入りは絶対に行わないこと。

 嘗て同じ飯能市内に現役で稼働する鉱山列車が許可を取らない大バカヤロー共のお陰で二度と撮影禁止という憂き目にあった例があります。そうでなくても「ある目的のモノをその目的外に興味を持つ」人々の存在というモノは多く疎まれるモノです。それが守れずに「目的外に興味を持つ」人々は遠慮はいりません、正丸峠から飛び降りて死んで下さい。正丸峠限らず日本には人一人消えても骨になるまで見つかりにくい場所は他にたくさんありますので何処となりお好きな場所をお見立ての上死んで下さい。死ね!

*1:まだ苦労してないが