拾遺 初詣は東峰神社へどーぞ、歓迎はしないよ


 遠い、狭い、時々テロの標的となる・・・かつて成田空港は我が国の玄関としてまさに相応しい恥ずべき空港でした。その後隣接都県に事実上の国際空港が2基誕生しあれだけの犠牲を払った存在意義を根本から覆しかねないとその恥ずかしさがますます混迷の度を深めるその空港の敷地ど真ん中に日本で一番緊張を強いられる面白い神社があると聞いて行ってきました。どんな神社かはググれば出てくるので勝手に調べて下さい。


 何本かある成田空港直下をトンネルで貫通する道路の内の一つ、この辺りは空を見上げると当たり前の如く飛行機がびゅんびゅん降下してくるのが判り非常に面白く迫力のある景色が拝めるのですが、その飛行機が乗り手来る方へ道が延びているとある交差点を曲がった先

 交差点を曲がるまで結構な走行車量があったのにこちらの道は一転して過疎ってしまいます。そこには「この先空港工事域」みたいな看板が立っているので車量が少ない割には広めの車幅、やはり気合い入れて空港下を抜けるトンネル、あまり使われていないせいか真新しく端にホコリだけが溜まっているのが非常に妙な感じです。

 車道周囲、空港滑走路への視界を完全に遮断する工事現場のような外壁。滑走路の拡張工事をしているというのなら別に怪しむに足りないごくありふれた景色なのですが、空から飛行機がこの壁の向こうへ吸い込まれるように次々と降りて行くのが判るのに、壁の向こうからジェットエンジンの爆音が漏れ聞こえてくるのに、それらがまるでないモノのように徹底的延々と遮断し続けている壁の群れに段々不気味な気配を感じ始め

 それら壁の群れ、全く途切れずに登場する神社の入り口、神社でさえもこの冷たい構造物の一部であるかのようです。間違っても一握の神聖さの欠片もさえ感じることもない、かといって感じるのは冒涜の気配というわけでもなく、あまりに空々しすぎる取り繕い様に思わず生じる乾いた笑い、そんなとこでしょうか。

 その取り繕った「参道」に一度足を踏み入れると白いペンキで塗りたくった側壁が安っぽさにその乾いた笑いはますます高まること請け合い。壁の上には鉄条網、その鉄条網の合間に時々柱の先に付いたセンサーと思しき器機がちらちら見えるのがすごくイヤ。

 道幅1.5車線、車同士がお見合いした時のためにちゃんと待避帯がある、ムダに親切。そう思ったあなた、甘い。何のためにこの待避帯があるのか? この「参道」に優しさなど欠片も考慮されていないこと、それは後になって判ります。

 この道、バイクですっ飛ばしてるので殆ど一瞬で通り過ぎてしまうのですが、歩いてみると意外にグニャグニャと折れ曲がってるのに気付きます。このグニャグニャにある意味ですごく差し障りがありそうなコト、それも参拝が終わって気付きます。

 そんなこんなでやっと着きました、東峰神社の本殿、狛犬越しです。まずはやはり参拝でしょう。社の主様にご挨拶しましょう、御賽銭、柏手、すると柏手の音が周囲の例の外壁に反響してやたら響きます。なんだこれは。

 そして更に、爆音と共に着陸飛行機登場。社殿の屋根を擦るように降下、誇張でなく本当に擦っていくようなのです。これはちょっとびっくりしました。本当にこの場所、本来だったら空港の真っ直中に位置しているワケなんですな。
 まだ神社についてわずかですが、ここまでかなり面白いです。お参りも済んだしさて周囲更に詳しく写真に撮ろうか、そう思って後ろを振り向くと誰かが例の外壁の陰に身を潜めてトランシーバーでどこかと連絡を取っているのが見えます。何でしょうか? と一応言っておきますが当然なんだかすぐに判ります。やっと来たか。

 すると音もなく四駆車が登場、先程てっきり待避帯だと思っていた道路脇の出っ張りに車を駐めて中から2名、厚手のジャケットを着たのが登場。声をかけてきます。「こんにちは」
 声をかけるや否やバッジをちらつかせてもう有無を云わさず職質、と言うかいきなり身分証提示を求めてなんかの照会です。「ここは過激派がよくいるから」の声掛けと共に。
 本来なら任意のはずですがこの神社での職質、「ここは過激派がよくいる」から「いつも空港警備員が見張っていて」「人が来ると通報することになって」いて「身分証見せてもらって照会することになってますから」。言い切りました! さすがにただの地域警邏とは違います。人を見たら過激派と思えの雰囲気に満ちた対応、恐らくなんかの法律に「東峰神社に限り職務質問は強制が可能」みたいなコトになっている、のでなければ説明の付かない行動です。まさか国民の生活と安全を守るけーさつ様が法令に反した行動をするワケがありませんからね。

 けーさつさま「こちらには何の目的出来たのですか?」
 おれ「初詣に来ました。面白い神社があると聞いたので」
 けーさつさま「こちらにはどの位の時間滞在されるのですか?」
 おれ「飛行機の写真も撮りたいので20分くらいでしょうか?」
 けーさつさま「わかりました。(後ろの車両の同僚に)○○ちゃん、20分だって。その間に照会取っといて」

 以上のようなやりとりの間にも頭上を飛行機が降りてきます。そして着陸後転回して向こう側のターミナルに向かう飛行機の垂直尾翼が神社のすぐ向こうを通り過ぎていくのが壁越しにもわかります。おもしれぇ。けーさつさまのごこういでありがたく20分の滞在許可をいただきましたが正直20分は短すぎます。まあけど仕方ないのでその間写真を撮っていましょう。

 とは云っても鳥居のすぐ向こうでけーさつさまは睨んでてさすがに緊張する、まともな写真撮れない。社の上の飛行機ももっとマシに撮ろうと思っても失敗ばかりする、神社全体像撮るの忘れたと散々の状況。注視されている中で千社札納めるのもやりにくい。ここ至ってはっきり言うとうぜぇ。だからというワケでも無いですが、お社の閂を抜いてご神体を拝ませていただこうと。この状況で絶対やらなければいいことはわかっているのですが。

 するとご神体無い。けど、安心はしました。なぜならご神体の代わりに電池とかコードとか時計とか金属製の筒とか、そんなモノが置いてあるようなマンガのような状況はさすがに無かったからです。ご神体のあるべきはずの場所には何もありません。
 ただ社殿内を覗いたり写真を撮ったりしているとさっきから注視しているけーさつさまがなんか声をかけてきた。「この神社は地域の人が大事にしている神社だからあまりいじらない方がよいですよ」うむ、もっともです。しかし「だから、こんなコトやってるのを過激派の連中に見られたら後で因縁をつけられるからやめておいた方がよいですよ」。意味わかんね。そうならないために今けーさつさまが付いているのではないのか?
 なんかもうどっちが因縁だかわかんないけどめんどくせからおとなしく従います。すると「飛行機はもうよいのですか?」と、もう明らかにはよ帰れモードに。だってねぇ、飛行機動くから上手く撮れんのです、ですから次来たら頑張って上手く撮りますから、みたいなこと言って境内の写真撮っていたら。「あっ、飛行機来ましたよ」とけーさつさまが飛行機の飛来を教えてくれる! そんなおもしろいコト言わないで下さい! 吹くの堪えてたらまたまたタイミング外します

 もう仕方ないんでこれで参拝終わりにします。

 神社を後にして再び「この先行き止まり」の入り口に戻ると入れ違い(?)に着陸の飛行機が「この先行き止まり」の方向へ飛んでいきます。本来有り得ないような歪な場所に位置する神社のおかげで有り得ない風景を拝むことが出来ます。おまけがウザイのが大変なネックではありますが、その場所まで行かなくてもこの神社入り口辺り、飛行機ウォッチャーが結構車で乗り付けて見学してます。けーさつさまはそいつらまで職質する権限はないようです。よってそこまでしか来ない飛行機ウォッチャーの方々はつい目と鼻の先でそんな掟が支配する神社があることおそらく知りません。飛行機が優雅な機体を見せて飛んだり降りたりしていれば満足なのです。不思議なことに今までの成田の縮図がこの神社の周囲で体感出来るようです。WEBで調べるとこの神社、元々は航空殉難を憂えて建立されたとのこと。本当に不思議なことです。