網走巡礼 その1

 せっかく網走に来たので、と云えばさもスカした風に聞こえますが、本当はこの目的で来たのです。

 かの石井輝男監督の眠る墓所網走市内潮見墓園内にあると云うコトで、せっかく東の果ての方*1まで来ましたことだし、市内各観光地が開く前の早い時間にお手を合わそうとオホーツクから上ったばかりのお日様がだんだんと強くなりつつある網走市内でも高い方、網走市潮見、グーグルマップに「潮見墓園」と書かれた場所までやってきました。お彼岸近いと云うコトとお天気も良好というコトで多少の同行者を期待したのですがそこは平日朝7時台、イヌの散歩野郎さえ行き合うコトはありませんでした。

 「この場所の何処かに石井監督は眠っているのかぁ」案外に簡単に目的地に着いたことに多少拍子抜けの感もありながらやはりその場所を目の前にしてみれば瞼の裏に目くるめくは石井輝男ワールドの数々、海から遠くないなだらかな斜面に沿って涼しげな風の通り抜ける静かな墓地が徐々に極彩色に染まり始めたのを打ち消して、まるで見られてはマズいコトでもしているかのようにすみやかに監督のお墓を探しますが。

 無いのです、どんだけ園内を歩き回っても。もしやどこぞの脂ぎった素デブが「あいしてるんだよ〜ん」とか言いながら嘗めてるウチに溶けて無くなったか、或いは夜になると昼間は見えない蛍光色に塗られた監督のお墓だけが浮かび上がる仕掛けか、いずれにしてもWEBの情報で墓所の様式(?)は大体把握しておりあれだけ目立ちそうな墓石なら直ぐに見つかるだろうとタカを括っていたのが見事に空振りです。終いには並んでる殆どの墓を虱潰しに見てみてそれでも見つからずならばと「なんならどれか適当なのお見立ててくだせえ!」、いやそれ幕末太陽伝だから全然関係ないし。

 墓地をウロウロしているだけで2時間くらい経ってしまう。墓荒らしでも墓地マニアでもない私はいい加減疲れてしまい、一応ぱぱっとお墓参り後に済ますはずだった次の予定に望みを託すことにします。次の予定とは言うまでもなく「博物館網走監獄」、網走来たらやはりココとばかりに単にB級臭漂う展示物を楽しむつもりだったのが石井監督墓所の秘密を解くための鍵まで探すコトに、コレでヒロインがいてアクションが加わればまるで〜線地帯シリーズみたい、言うのはちょっと調子乗りすぎです。

 こちらの博物館を象徴する「鏡橋」。苦界と娑婆の架け橋渡ると

 お目当てのナゾを解く鍵は博物館正門前に堂々と建立されておりました。

 確かに網走と石井輝男監督の縁を物語る記念碑、そして「網走市内潮見墓園」に監督の墓がある旨きちんと記されている。なのにどうして?

 これはやはり中に入って獄卒なり看守なりに道を尋ねなきゃならんか。ところで私『網走番外地』シリーズ未見の作品があるのでここから先そんなネタに期待しないで欲しいあしからず。正門前に立つ制服がエナメルの如く嫌らしく照る獄卒は人形なので話しても何も出ません

 博物館は有料なので当然入口で入場料を払わなければいけません。手っ取り早くこのもぎりの人にお墓の場所を聞いちゃえばいいと思いま、密かに大友純演ずる怪しいデブか土方巽みたいに近づくのも恐ろしい痩せぎすがもぎりやってたら面白いなと思いながら自販機で買った切符を持って行くとごく普通のおじさんが出てきたのでやめました。おじさんはちっとも悪くない

 博物館内見学経路が決まっていてきちんと矢印が立っており見学者が迷わないように配慮されておりますが、刑務所じゃねぇんだし興味あるモンを見学するのにいちいち他人の言うことなんか聞いてるのも癪なので早速ルートを外れて本来真っ正面に立つ監獄正門(再現)手前の

 でっかいニポポが涙を流してる! 人が死ぬ! オホーツクに消ゆ*2

 その後ろの林で朝イチ運動中のエゾリスさんが行ったり来たり、動物に弱いの。

 コイツがなかなか止まらず上手く写真撮らしてくれん。動かないと冬眠するか死ぬしかないモンな、君たち小動物は。

 さて、小動物にかまけて結構時間を潰してしまったのでいよいよ本編(?)へ。掃夫さんご苦労様です。彼も囚人

 博物館内建物は雰囲気を出すために煉瓦造りの塀で正面側を囲ってそれらしくなってます。中には移築されたモノ、忠実に再現されたモノ、多くの建物があったはずなのですがどういうワケか私のカメラには撮れてなく、撮れていたのは尽く人形やら人形やら人形と云った有様で、よほど焦っていたのでしょうか? 別に好きで勝手にレポしてるだけなんで自分の好きなモン勝手に撮って勝手にコメントしてるわけだから良いんだけど

 そんなお人形さん方、これは庁舎(復元移築)入り口で見張っている衛視さん

 今生の別れになるやもしれぬ、思わず母の視線を逸らす

 面会は隣にいらないおまけが付いて来て一つたりとて自由にならない塀の中

 ホンモノのニポポはオーラが違います。

 その内人形撮るのも億劫になってきたと見えてお人形も、よっぽでインパクトあるヤツしか撮らなくなってきて、そんな中で撮った建物ですから選りすぐりの建物です、懲罰小屋

 要するに塀の中で悪い事した人を更に懲らしめる折檻小屋と云うワケなのですが、まあ、お肌に悪そうな小屋でした。厳冬なら本当に死にますね

 所変わりこちら印象に残ったのは打って変わってお人形一体たりとも展示されていない教誨堂。文化財指定のホンモノです。

 一番突き当たり、かつては説法なり発する場であったろう場所に現在は受刑者供養の観音像。展示物は偉大な教誨師に関するモノ、歴とした文化財にかかわらず私以外だれも見学に訪れません、板張りの床を私だけの足音が響くこの場所は博物館内で一番印象に残る場所でありました。それにも関わらず建物外観写真のし。

 以後人形の撮影も極端に少なくなりますが、と云うことは撮っているモノは選りすぐりと理解いただければと思います、たぶん。まずは網走番外地のワンシーンを彷彿とさせる浴場。くりからもんもん

 何故か建物外観一部撮っていた「五翼放射状舎房」。五つの監謝が放射状に延びた文字通り最も刑務所を彷彿とさせる場所です。

 入り口入って直ぐ五寸釘虎吉やらの所謂「脱獄王」のコーナーがありましたがコレも無視。確かテレビで某脱獄王を演じた緒形拳の写真があったような。緒形拳とは関係なく写真はその五寸釘さんが「味噌汁かけ」で留め金に錆を浮かせてぶち破った上に肩の関節を外して脱出した鉄格子(再現)。横には味噌汁が置いてあって見学者は口に含んで好きなだけ吹き付けることができたり懲罰房に寝転がされた女囚の顔に柄杓でぶっかけることができますなわけねぇだろ。

 建物内、外見通り五本に及ぶ各房がそのままに再現されておりまして当然牢屋もそのまま。ただし、数百メートルに及ぶ監舎内全てを再現するのはその後の管理が面倒臭いのでしょう、五翼中ほとんどが途中まで、中には入れないモノも

 途中このような
[
 房内再現人形が思い出したように置かれていて、確かに全部に配すると結構面倒臭く、訪れる見学者の方も大抵が五翼中一翼の途中まで来て残り見かけ全く同じと見極めて他の四翼には足を踏み入れずに去ってしまうコト多く

 そうなるとこのように飛び道具的な配置を見逃すことになる。いくらエンディングに不愉快な音楽が流れていても何かオマケがあるかもしれないから映画館では最後まで席を立たずに観ようね、と云うコトなのでしょう。ちなみにこちらが先程入り口で展示のあった脱獄王中緒形拳が演じた白鳥由栄氏の、頭突きで屋根ガラスを破りそのまま半裸で雪中を脱走するのエピソードの再現です。

 確かに全てに飛び道具が仕掛けられているとは限りませんので途中で帰ってしまうのは効率のよい方法ではあるのですが、

 貧乏性の私は一応全て見ておかないとひどく損した気分に苛まれるのでどんな隅っこの方でも見ずにはおれません。映画は当然エンドロールが終わるまで席を立ちません。そんな私以外誰も近寄らない五翼最後の房に再現された暖房設備。廊下は暖かいの、房は寒いの、冬は若気の至りのヘルペス性神経痛がとても浸みるの。おやあの看守さんは?

 何となく先日ケツ捲ってテレビから消えた某チンピラ芸能人の面影が。明らかにお前の居場所は廊下でなくて房内がお似合いですがどういう皮肉なのでしょうか? チンピラの悲哀、せめて人形だけでも上部組織の上に立ちたいとどっかから手を回したのでしょうか?

 そうなると房内囚人中に菱関係の顔の売れた幹部さんの面影のある人形が紛れていると云うことになりますが、そんなに詳しくないのでわかりません。例え知ってても知りません。

 なんだかんだで結構時間かけて見学しました五翼放射状舎房、見終わる頃にはすっかりお日様も高く上がり、なんか遠くの方に地味に励んでいた野外労役の図が映えます

 この頃になると最早人形撮ることさえ飽きてきて何の建物を見に行くのかも興味が薄れつつある中、これはかなりインパクト強い、なんか「鳥を追ってる」労役。定期的に銀色の鳥がぐるぐる回って捕まえようと捕まえられない様子を微妙に表現。必死に追いすがる囚人を尻目に一定時間無意味に鳥がくるくる回る様はなんか胸に来ます。

 くるくる回る鳥のせつかれて入った建物は、旅の記憶の薄れた今となってはなんだかさっぱり解りません。中には監獄食を食わせてくれるスペースや、映画『刑務所の中』で使われた場所とかあったような気もしましたがよく解りません

 最早人形だけでは客の興味を引けないと博物館側も察したか人形に加えてジオラマなんかも登場します。高所から下々の野良仕事の様子を窺うなんてまるで仁徳天皇にでもなった気分です。網走監獄とはなんの関係もありませんが。

 先に紹介したジオラマは他だの野良仕事労役の図ですがこちらは先の脱獄王の脱実際の脱獄の図。ドタマで瓦葺きの屋根突き破って脱出したのです。建物と人のバランスが変ですがそれに目をつぶってもエライことだと思います、私は。

 エライことと言えばこちらの建物の一番奥によくわからないゼンタイ姿の人形。遠目に見た時にはゼンタイ姿の宇津井健でも展示してるのかと思いましたがなんのことはない色付きのマネキンに拘束衣やらを付けて実演してるだけでした。

 皆が並んでる所を見るとなんかの映画のワンシーンのようですが、そのなんかの部分を忘れてしまったので唯々虚しさのみが胸に去来する拘束の図。

 映画と云えばそもそも私は石井監督の墓所の情報を求めて来たはずでしたのに。

 この後、監獄の歴史全容を網羅しているような館内で一番博物館らしいなんとか云う建物内を一通り回りましたが石井監督に繋がりそうな情報は唯一こちらの『網走番外地』シリーズポスターが掲げられているだけでした。こちらの建物、終始照明を抑えた薄暗さの中展示資料映像資料交えて北海道の網走だけでなく道内の監獄・矯正施設にまで範囲を広げて知識の涵養を促す大変意欲的な展示コンセプトでしたが、私はもう既に飽きていたので写真はほとんどナシです。

 それにしても石井監督の墓所の情報はどこに行けば得られるのでしょうか? そういえば私の知人は成田三樹夫墓所を詣でるためざわざわ松方弘樹にお手紙を送って教えを請うたとのことですが、私もそれを見習って高倉健にお手紙を送って教えを請わなければいけないのでしょうか? 帰ったら私もその知人に三樹夫さまのお墓がどこにあるのか聞いてみましょう。

「博物館網走監獄」http://www.kangoku.jp/

*1:日本にはもっと東の果てがあるので控え目に「の方」としておきます

*2:ちなみに前夜駅寝を強行した鱒浦駅近くにはもっと巨大なニポポが立つドライブインがある。泣いてないけど