くまのいるまち その1「苫前町郷土資料館」

 僕は小さいころから臆病でそのクセにせがんで買ってもらった水木しげるの妖怪図鑑の時々登場するやたらリアル気持ち悪いのが苦手でそのせいで本に触るのもイヤになってそんな本が家にあることの嫌悪のあまりとうとう学校図書として当時飼っていた鶉が卵を産まなくなり手に入るはずだった卵を手に入れ損ね毎日機嫌が悪かった担任のいる教室に寄付してその後本がどうなったか知りませんが何かの拍子にヤフオクなんか見た時その時寄付したのと同じ本が高値で出ていたりして、ああ何モノにも触れないうちに何モノをも放棄してしまう臆病という性質は大変つまらないものなんだなと、そういえばその後教室のウズラの姿もいつの間にか消えてしまったのでたぶんあれはだれかが食べちゃったんでしょう。
 ところで身近の臆病な動物と云えばタヌキです。北海道だとこれにクマが加わります。タヌキとクマの一番の違いはそのガタイの大きさですが、どちらも臆病なことに変わりなく、例えばタヌキなんかがどうしても必要で車道とかを横切る時は物凄いおっかなびっくりで始終きょろきょろしながら道にのそり出てくるそうです。それでもやはりタヌキですから、実は近くに人間がいた、と云うことはよくあるようで、それに気付いてしまったタヌキは一瞬ビクッて感じで跳ね上がって直後にコテンって感じでその場に気絶してしまうそうです。所謂タヌキ寝入りの語源ですが、その場に気絶しても相手が本当の敵だった場合状況は確実に悪くなるのにそれでもその場に寝転んでしまうタヌキはまるで現実逃避するかのような、謂わばニート型の臆病さんと云えましょう。
 対してクマの方は、臆病さの度合いで云えばタヌキとどっこいどっこいなのですがそのガタイの大きさと内に秘めたる腕力のなせる業なのかその場に気絶するような大人しい行動は取らずむしろ危機回避のためにその豪腕を振り回してむやみやたらに攻撃すると云う行動に出るようです。泣かされたガキがわあわあ言いながら腕をぶん回すアレですね。更にクマの凄いところはその振り回した腕の振り下ろした先に例えばヒトの頭なんかがありますとあの豪腕ですからそれはもう大山館長がビール栓を抜き割くようにいとも簡単にもげてしまいます。すると賢いクマさんはここで学習します。「ヒト弱ぇ、オレ様強ぇ」と。自分の強さを知ってしまった後はもうひたすらクマのターンです。勢い余って吹っ飛んだヒトの血肉が口にでも入ろうものならここで更にヒトは食べ物認定されます。もうどこまでも止まりません。ニート型臆病のタヌキさんに対してクマさんの方は高校デビュー型臆病と云いましょうか、いずれにしてもこの恐るべき高校デビューを阻止するためにクマの出そうな山奥でクマさんとニアミスするような行動を取ったり敢えてニアミスさせるような食べ物を放置するような行動は絶対にやめましょう。

 ともかくこのデビューが過ぎてアレよアレよと云う間に10人近くぶち殺してしまった世界最凶レベルの獣害事件、三毛別熊害事件が起きたのというここ苫前町、その悲劇を忘れぬためか或いは逆手に取ってか判断は付きかねますがとにかく町内クマのオブジェで溢れているという噂を聞きつけ行ってまいりました。

 最初の目標はお馴染み郷土資料館。あちこち郷土資料館巡りをするとわかるのですが、貴重なマニアックな資料の中に秘かに公にその土地がプッシュしたい文化産物がさり気なく時には大っぴらに置かれていることも多く、これがなかなか味わい深い。それが苫前町の場合は当然の如くクマでした。

 お前のせいで羽幌線が無くなった!どーしてくれるんじゃ! と文句の一つも言いたいならまずバイク乗るのやめろよのオロロンラインこと国道232号、苫前町の中心部の辺りから少し山側に入ったところにあるようです。不慣れな道故ちゃんと曲がる場所わかるかなと思いながら

 このようにしっかりとクマさんが教えてくれます。

 クマさんに誘われて向かう先、市街地に入ってしまってちょっとわかりにくいかなと思いきや心配御無用

 怖い顔したクマさんが門前で教えてくれます資料館は旧苫前町役場庁舎を利用

 ところで門前のクマさん、何か殴ったが如く指先へこんでますね。きっとデビュー後自らの力量顧みずやんちゃが過ぎたのでしょう皆さんも気をつけましょう

 入る前から物凄い勢いで威嚇してくる博物館入り口、ここに云う「復元地」とは実際に事件が起こった場所のコトです。現地今尚洒落にならない場所である事十分すぎるほど教えてくれて心引き締めて博物館の門を潜ります

 直後お出迎えにクマ登場(もちろん剥製です)

 この威嚇にビビって客が帰らぬようよく分からないけど可愛いクマがフォロー

 受付はまさに適職でございと云った風なおばちゃんが一人、やたら話しかけてきます。目的クマだと話すと見学後にビデオを見せてるから声をかけろとのこと、ではお言葉に甘えて見学の後に。

 資料館本館、ほぼ半分がクマのためにスペースが割かれかなりの力の入れ用。まず目に付くのが数体の剥製

 最大のクマはコイツ、その名も「北海太郎」。

 500キロってつまり1トンの半分? 動物として想像外のデカさに全然ピンと来ません。こんな巨大で体力有り余ってそうなヤツを剥製にできる程度に傷口少なく撃ち殺した猟師の腕に驚愕。もう一頭もうちょっと小降りのヤツと並んで慰みモノとして亡骸を晒しております

 その他名も無きクマたちも数頭姿を晒しておりますが穏やかな表情で穏やかな表情のクマはもふ類の一種と見まごう位可愛くね? と勘違いさせるような展示の仕方がとても印象的です

 ここまでですでに博物館内十分すぎるほどに露出の高いクマども、その目的は史上最凶の熊害事件「三毛別ヒグマ事件」に彩りを添えているに過ぎません

 事件時に仕留められたクマの毛皮や骨は現在残されていないという事で下手人クマの姿そのものはありませんがそれを補って余りある豊富な文献資料、特に多く使われているのは苫前町自らが研究及び総括として発行した資料集で、

 事件のあらましと原因の考察、在りし日の犠牲者一家の写真、生き残った人々のその後、

 そして事件解決に導いた孤高のハンター山本兵吉氏の生涯について、写真資料を交えてよくまとまった良書で博物館窓口にて購入可。因みに私は購入しましたが引っ越しのどさくさに紛れてどっか行ってしまい現在手元にありません。何処かで見かけた方は御一報を。

 巨大なクマにとって藁葺きの壁など無いに等しいモノでしょう。安全で、暖かい、「HOME」の幻想が一瞬で崩壊する現場をみて思い浮かぶのは『時計じかけのオレンジ』のワンシーンです。

 角度を変えて。照明効いてて結構怖い

 ご丁寧に見取り図まで。博物館の力の入れようがよく分かります

 ここで救村の英雄、老マタギの登場、となりそうですが場内展示中明確にその場面を再現する展示はなく、その代わりなのでしょうか「漁師と羆」と云う物陰からヒグマを狙うマタギの姿を再現する展示が

 果たして見事クマを仕留める事ができるのでしょうか?この表情がこれまたとてもイイ

 と、ここまでなかなかの緊張を見せる展示なのですが、

 なぜかマタギの傍らにタヌキ。しかも二足歩行。マタギのペット?

 全体図こんな感じ。剥製みんなかわええし、このなるとクマもかわええし、もう何がしたいのかよく分からん

 何がしたいのか分からないと云えば有名な沿岸バス。なんか本当にこんなポスターでかえって感心。そういや留萌から幌延までこいつらのテリトリーでしたね。

 バスじゃなくて羽幌線の痕跡が見たい! そんな方にはちょっと古いですが大正時代の苫前市街地地図。苫前駅に羽幌線、しっかりと健在

 実はこちらの鳥瞰図にも羽幌線が記載されているのですが今では痕跡しか残らない羽幌線に変わり幅をきかせる風力発電に占拠されている。紙粘土製のどう見ても手作り、恐らくその本数を忠実に再現する事が主目的なのでしょう。一本増えるたびにそーっと置いていく様が容易に想像できます。ちなみに旧羽幌線苫前駅跡はこのこの博物館、旧役場のすぐ裏手と云うコトですが跡地がどうなっているのか不覚にも見逃してしまいました。

 話は館内に戻りまして、その鳥瞰図近くに展示の「小学生の習字」。文言のクールさは脱帽モノです。私はむしろ泊村の原発関連施設に飾って欲しいと思うがどうか

 話題は再びクマに戻ります。何のかんの云ってもクマが捕れればそれなりに潤うとクマの生態について

 一通りクマについてのレクチャー終了。いやー、くまってほんとにいいもんですね。クマの剥製の顔を見ていたら全盛期の水野晴郎のお顔が思い浮かんだもので。

 ココまで殆どクマ一辺倒。さすがに飽きもきて心はそろそろ外界のクマ事件再現地へ向かいつつあり、事実このように資料館そのものも煽る煽る

 そのなかだるみの心に活を入れてくれたのはかの沿岸バス名物萌えポスター、ではなく

 東映作のテレビ映画『羆嵐』の鑑賞。入場の折「希望あれば」と受付のおばちゃんが勧めてくれますので希望あれば申し出ましょう。お茶も出ます。観賞場所に供してくれたのは苫前町旧町長室。ふんぞり返って鑑賞。

 主演の三国連太郎三国連太郎だな〜って感じでいつもの前田吟前田吟の方が逆に印象に残ってます。テレビ放映を目的にした割にはそこそこの血まみれが垂れ流されて保存の悪ぃVHS画面のくすみ具合がマッチして、なんだか家にVHS再生機も買えない昔の水飲みが役場への用にかこつけて町長の目を盗んで農協のじじい連が陳情の上京の際歌舞伎町で手に入れたという裏ビデオを見ているような気分になってとても切なくなりました。上映時間約45分。あなたのハートには何が残りましたか? 

 映画終了後、根本的に再生機の使い方が判らないと見える受付のおばちゃんの手助けに再生機からソフトのサルベージに成功した後は再び館内見学に戻ります。

 途中ヒグマ以外の展示があってそこには往事の開拓の様子、ニシンとかの事、トドの剥製等あったような気がしましたが

 その後に登場したこちらの特別展示の印象にすべて吹っ飛んでしまいました

 見ての通りこちらの展示、開拓の様子から

 厳しい冬に備えるべく

 人も冬ごもりの準備

 そこへもってクマ登場

 ひょえ〜!クマだ〜! クマさんでちゅ〜!

 おのれクマめ!

 我が家の庭を我が物顔で荒らすか!

 どひゃ〜! 壁突き破って来たよぉ〜!

 と云う風な事件のあらましをそこら辺の雑貨屋で売ってそうな素材だけでミニチュア再現していると云うクマもびっくりな展示。事件のあらましが寸劇風に再現できてしまう力作です。

 以上で苫前町郷土資料館見学終わったのですが、内容非常に濃い! 正直クマに偏向しているのですがどうも町全体の雰囲気が「クマの町」を打ち出してるようなのでコレは仕方ないかと、なぜなら資料館を一歩出てそこらをふらふらするといきなりこんなクマの旗。何故かかわいいし。

 更に町内散策していて現れるのが現苫前町役場前にある巨大クマ像。

 全長3メートルほど。可愛さの微塵も無い、まさにクマの猛獣としての表情を前面に打ち出した、三毛別事件のあった苫前町の本気を感じさせる造形となっております、が

 近づくとなんかおかしい。裏から見ても同じ体勢、同じ表情コレは・・・

 両面宿儺(リョウメンスクナ)!?

 何が恐ろしいかってある認識した物体が実はその認識したモノと似て非なるモノであった時ほど恐ろしいモノは無いワケで、その意味で意表を突く苫前町役場前の「たぶんクマ」の像。この不意打ちも含めて「三毛別羆事件」の再現をこの像に期待したのでしょうか?イヤホントに怖ぇえよこのクマ。目の前ではためくかわいいクマののぼりとの対比がまたおかしいし、そのかわいい方が警察関係という皮肉に気がつけば、もし狙ってやったとしたらこの構図狂ってるとしか思えない。と云うワケで次回はその羆害事件の再現地及び町内点在する各種クマオブジェを見て回ります。(つづく)
 
 苫前町苫前町郷土資料館・・・http://www.town.tomamae.lg.jp/section/kyoiku/shakaikyoiku/lg6iib0000000lu6.html