『ヘンリー・ダーガー展』於原美術館

 品川って駅外に降りるの初めてだ。23区内に新幹線の途中駅あるって未だに信じらんねえな。品川駅はジェットコースター鉄道京急のイメージが強烈すぎてピンとこない。
 当然原美術館も初めて。高級住宅地の一角、入った印象は都立庭園美術館と似たような印象。案の定、昔の金持ちの邸宅だったとのこと。なるほどまあ、ゆったりとした庭を備え、一日時間をつぶせそうな良い雰囲気。ちっ。

 では、内容にについて。
 一点目から、いきなり大迫力のコラージュのみの大作から始まる。『なんとかの戦争』なんとかは忘れた。すまん。が、初めてみるその絵は圧巻。ダーガー部屋の壁に長いこと掛けられていたということでかなり痛んではいるものの、不思議とそれが戦争というモチーフである所の更なる凄惨さを醸し出しており、なお一層の貫禄を持っている。しかし細かく、なおかつきっちりとした仕事で、コラージュでこれだけの細かく、巨大な物は初めて見る。コラージュという方法、ダーガーが自ら絵の才能がないと信じるが故に採られた言わば苦肉の策であったというが、一方で自身の表現者としての才能をこの絵によって確信したのではないのではないか?それと、後に「少女が前面に立つ作品」の印象が強い『非現実の王国で』を取り組むことになるダーガーがおそらく一番最初に取り組んだと思われる大作のモチーフが「戦争」であることは非常に興味深い。右手に少女、左手に戦争、これでエコを語れば初期の宮崎駿だ・・・。
 ところで、先週話題にした澁澤龍彦先生、所謂「アウトサイダーアート」について触れた著作はあったかしら?年代的にまだその価値が確立される頃に亡くなってしまったから触れる機会はなかったのかもしれない。もし機会があり、興味を持ってもらえたなら、是非コメントを寄せてもらいたい。
 いずれにせよ、ダーガーの頭ん中を解く上で重要な核を少しだけ理解できた。「少女」「神への信仰」そして「戦争」。すでに言われてることだがダーガーは「神の代理人たる作中の少女に対して、常に愛情を持って慈しみ神に代わる強大な力を与えているというわけではなく、現実世界の自分が置かれた立場と、感情に基づいて、その試練を与えた神に対して復讐するかのように少女達を作中で虐殺」している。万能であるようかのように見えて、実は意外と脆い存在で簡単に死んでしまう、それでいていつの間にか復活していて次の活躍をする・・・新約聖書に記されたイエスのイメージにも思える。

 毎度の事ながら、ダーガーの作品の特異さから、いかに上手く見せようか、美術館の工夫と努力には頭が下がります。本日の解説会で説明してくれた学芸員さんが、なるべく均等にわかりやすくダーガーを語ろうとする中で、ダーガーについての個人的な嗜好・好み、それに伴う意見に触れる場になると目が輝いてくるのがわかるのが面白かった。本当に好きでこのお仕事されてるんでしょうね。
 私個人としては、今回改めてみるダーガーの色遣いの素晴らしさにちょっとハマリそうになった。特に最後のギャラリーの「少女と花園」の数々、確かに毒々しく、観ようによっては悪趣味とも取れなくもないが、それが大変私好み。
 もう一つ、「王国の旗」の「太陽らしきモノが描かれた旗」可愛くてウケタ。同じ並びの別の旗で、「線状に並んだ何色もの色の中に、一定間隔で無数の点が描かれた旗」、なかなか神経症的表現に見えて、「この国の国民が、旗を作るときに大勢で神経症的な顔をして一生懸命旗に点を付けている様子」を思い浮かべて笑ってしまった。
 今回は意図的に数を少なくした感があるが、当然「アウトサイダーアート」らしい少し脅迫的・悪夢的な絵、色彩が大いに私の心の中の黒いとこを刺激して、まあ満足。少しでもこんなのなければねえ。何でも今回は「少女が捕まってはらわたほじくり出されてぶっ倒れているシーン」は除外したのだそうだ。

 絵・文共に何せとてつもない量があり、まだまだ整理しきれていないだけにこれからも新たにお目にかかる機会もあるでしょうが、一度にすべてが公開できるとも思えないし、今後も今回含め今までと同様小出しで公開せざるを得ないのでしょう。来る度に見に行けば、あと50年もすればだいたいほとんど観れるだろうから根気よく通っていきましょう。