『花の夢−ある中国残留婦人−』

 国家が犯した犯罪に翻弄され、過酷な運命をたどったある婦人の話。間違いなく、我々はこのような人々の涙を土台にして立っている。要するに悲惨な話である。
 ところが。この映画を観終わった後、私の心を揺るがすのは、過酷な運命をたどった人々への同情、あるいは詐欺同然の犯罪を働いておきながら、その所業を一瞥だにする事のない腐れ国家に対する憤り、そのいずれでもない。「じんわりと」そう表現することが適切な比較的穏やかな感動。悲惨な話を、柔らかなオブラートで包んでしまい、尚かつ大切なことを観者に語りかけることを忘れない本作は、なんだか不思議な錯覚をもたらす。大変素晴らしい。
 誰にとっても掛け替えのない多くの人生を、自分の意志に反しながらも踏み越え、今日のささやかな生を楽しむ栗原さん、忘れてはいけないのは、我々日本人全員が、多くの栗原さんを、無意識の内に踏み越えた末、今ある生を謳歌しているということだ。はからずも分かたざるを得なかった同士たちの、最後に残した言葉の重みに、私だったら生涯耐えうることができるだろうか?
 それにしても栗原さん、現在、普段の顔が、幸せそうで大変よい顔をしていますね。