『カルラのリスト』

 旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷にて辣腕を振るう検事達の活躍を、検事長であるカルラ・デル・ポンテを中心に描いたドキュメンタリー映画
 「人道に対する罪」の容疑者として挙げられながら、逃亡、起訴することのできない旧ユーゴ構成国の民族主義者を追うため、紛争当事国を初めとするヨーロッパ各地を飛び回り、更に超大国アメリカと際どい交渉をこなす。まさしく「正義」を実行するために全力を尽くす彼女らの行動は、さながらスーパーマンのようであり実に痛快で格好良い。国の権限を越えたところで動く彼女らのような存在は、まさしく無くてはならない存在で、その存在自体に色々と物議を醸す国連という組織のもつ能力のまさしく真骨頂であろう。珍しいお仕事に密着した映画ということで、おもしろい映画だと思う。
 とは言え、見終わった後に物凄い不全感を抱いてしまうのは、「正義」に対して常に穿った見方をする資質を持つ私だからというわけではあるまい。その理由は何よりも、「一番の大物2人が依然として(2007現在も)逃亡を続けている」という事実であろう。それは当然カルラ自身にも通じる不全感であり、各国の思惑によって「正義」が実行されないという、まさしく現在の国連自身を象徴する不全感が浮き彫りになる。更には実際の被害者達、その残された遺族達の気持ちについても、結果として置いてけぼりを食った感は拭えない。カルラ達、検察官らのどのような努力に対しても、掛け替えのない人々を亡くし、その遺体でさえ何処にあるかもわからない人々の気持ちは癒せない。その遺族達が語る諦め感が何ともやるせない気分にさせる。
 本来ならこのようなバカげた役割など無いに越したことはない。人間はいつまで経っても肝心なことを学ばない。