『愛の予感』

 全然関係ないけど、舞台になった旅館、良いな。
 冒頭、後に「たった二人の出演者」であるこことがわかる男女二人、別々のインタビューから始まる。その中で、別々の、ほぼ正反対の立場で語られる二人の言葉から、この物語のそもそものきっかけが語られる。
 その後に続くのは、インタビュー後ほんの少し時間が経った後の二人の生活。ひたすら、繰り返し、繰り返し。生きてる様を表すのに、至極単純にしてこれ以上はない的確な表現。セリフの入る余地の無い程に透過された二人それぞれの生活は、一見薄っぺらに見える日常の中で、それに合わせてそれ以上に薄く、光を捉える影を生み出すことのできないほどに引き延ばされた二人の苦悩が、やがて起こるであろう「その予感」を何となく感じさせる。二人を近づけたのは恐らくその苦悩なのであろう。当然、映画の中でその様な演出などいっさいない。映画の中で、二人が近づいたのは、何と言うか、別々の空間をそれぞれに生きている二人が、お互いはまったく動くことなく、ただ二人の間に介在する別の空間と言うか空気と言うか、それが少しずつ少しずつ歪んでいくことで、いつの間にか二人が近づいていって、その予感を確として予感ではなく感じるときにはもう取り返しが付かなくなっていた、様な感じ。