警察に二度事情聴取された日

 別に好きでされたんでないですけど。
 とりあえずバイクやられて半壊。その瞬間はやっぱり「あ、sans-tetesさん死んだ」って思ったところが、なんか暴走気味の自己愛を現してて今思うとすごく恥ずかしい。それでもって立ち上がれることがわかると自分の身体より、なんかこっちにお腹を見せてひっくり返っているバイクがものすごく気になって「あ〜あ」って感じで、身体の痛みに気付くのは暫く経ってから。なんか右手の親指の付け根が痛い・・・その瞬間思ったことが「折れてたら下手するとバイク乗れねえ」だから、今考えると、えらく余裕、というか救いようがねぇ・・・。こういうときは本当に自分が出る、曰く「私は自分の身体より物質を愛す」、ということに気付かせていただく。まあ、深刻な怪我でないことの裏返しなんでしょうが。 視界が広がると、思いもよらぬ、というかごく当たり前の光景が広がっているのに気付く。相手の車のおばちゃんはものすごく取り乱して泣きそうになって「大丈夫ですか〜!」とか連発、冷静に安否確認したり救急車呼んでいるのは通りがかりの兄さん。「私もここで事故ったんですよ」とかいいながら、結構冷静に対処していたのは、なんか慣れてるなぁ・・・って決して悪い意味ではなく。
 なんか、当たり前のように救急車が到着。「歩けますか?」。「歩行可」、というわけで救急車の横から乗り込もうとすると「後ろから乗ってください」と静止。なんか、細かい決まり事があるみたい。意識のある搬送者なので救急隊員はしきりになにやら確認しながらバイタル撮ったりしている。その間私は呆然と・・・そうだ、今日はバイク直しに行くところだったんだ。背中のリュックに折れたサイドミラーが入れっぱなし。現場のバイク、サイドミラーないし後で不自然?それより「整備不良」がバレてこっちが不利に事情聴かれたり、保険の過失査定で不利になったらどうしよう?・・・「ちょっと用あるんです」とか言って現場にこっそりミラー置いてこようかな、とか、まさか隊員さんも収容者がこんなこと考えているとは思わんだろな、とか小賢しい策を練っていると搬送先病院決まる。
 まあ、大したことないとは思うが、一通り問診と検査、「何処も折れてないですね。診断書は本日は出せないのでまた明日来てください」。どうも、ありがとうございました。本日は事故多発状態らしく、管内唯一の整形外科医師在中の某病院は医師も看護師もてんてこ舞いの様子。
 わたしゃあ本日、ほぼ遊びに行くのが目的で途中出会った事故だったのだが、相手の人、なんかお家で重度の介護を要する母親のお世話をしているとのこと、介護の合間に買い物に出かけたら今回の事故に、とのこと。うぅ、こんなならず者さえ遊びに行こうなんて思わなけりゃこんなことにならずにすんだのに、却ってこちらが申し訳ねぇ。
 なんか足腫れてるし(でも折れてない)、仕方ないので相手方の親族さんが運転する車に乗って警察署へ。休日という当直時間帯、ガラガラの窓口奥深く、交通事故係と書いてある扉を開くと、お巡りさんが次から次へ無線から流れる事故情報にいっぱいいっぱい、事情聴取の最中も片方の耳は無線を注視、メモ片手に大変な状況でした。連休最後にお天道様気まぐれに良くなったおかげで出てくるのはちと早めで危険な路上啓蟄といったところか。それぞれの事情聴取が済むや否や、「すいません、先程事故で・・・」。千客万来で結構なことです。
 病院行って、警察行って、バイク屋電話して引き取り決めて、最後にここらで一番おっきい神社行って、拍手した手の痺れの治まらぬ内から「保険屋にどうゴネよう」とか邪なこと考えて、とりあえずは「お互い因縁なく」相手の方とは別れる。腰になんか変なイヌとヒヨコの模様が描いてある変なヘルメットをぶら下げながら帰路を歩いていると大変な歩きにくさを感じる。「首は打ちすてい!」古の武士の戦の首の重さに堪えかねて・・・、笹の才蔵は真の戦人だなぁ、とか考えてるとまだ掌が痺れる。ってこれってもしかしてヤバイのでは・・・。


 「宮代へはここをまっすぐで良いんでしょうか?」。だいたい事故の直後に5キロ先のバイク屋まで歩いて行こうっていうことがいろんなことを冒涜する行為で、案の定こんなことに行き会う。
 ここは見沼区。「宮」の字を冠する小字ならいくつかあったような。このお婆さん、そのどっかと間違えているのか、それとも本当にそのまま件の地名があるのか。よくわからず、歩みを止めてよくよく話を聞いてみる。「おばあちゃん行きたいとこ、本当に宮代?別の名前じゃない?宮ヶ谷塔とか」「宮代だよ、あの動物園がある」・・・。あ、これ本気。うーん、本気で困る。とりあえず警察を呼ぼうか。
 「宮代に独り暮らしで、家の裏には工場がある。息子は二人いて埼玉と千葉に・・・」どっかの食い物屋の駐車場に腰掛け、お婆さんの注意が再び無謀な強行軍に向かないように話し相手になる。こういうお年寄りは色々パターンがあるが、このように「人の話を聞く分別がある」パターンは非常に安心。落ち着いてさえいればたいがい言うことは聞いてくれる。その内話題は、目の前の交通量が半端でなく、道幅も狭く、目的を失って歩くにしては過酷と思われる道路に向く。「車がたくさんでずっと数珠繋ぎ、みんな大変だねぇ」。お婆さん、さっきまで下手したらあなたの方が大変だったんですよ。などと思いながら道路を見ていると、遙か向こうから県警のパトカーが、恐らく制限速度を一キロたりとも犯すまいぞという気概と共に、自らの後ろを延々と渋滞する車共を従えて、ゆぅ〜くりと近づいてくる。私が手を振ると助手席の警官が私に敬礼。誰にでも敬礼なんだな、でも私は民間人ですよ。
 なんかもう決まりの事情聴取の後、お婆さんはパトカーに乗せられて保護。良かったねぇ。では私は私の目的を再開・・・と思ったらパトカーがもう一台、先程の駐車場に入っていく。恐らく、間違いなく、先程のパトカーと同じ目的。お婆さん1人にパトカーのダブルブッキング。う〜ん、なんて平和な光景だ。

 がんばれ公僕。でも警察組織は大っ嫌い。