ネコ啓蟄

 待ち望んだ春の陽気は、そぞろ歩きに相応しく、本日など程良き廃墟巡り日和。
 敢えて旧地名で呼ばせていただく、新宿区柏木・淀橋・角筈地域に、再開発の名で訪れた遅きバブルの爪痕、この地にかねてより注目する友人に便乗して本日探訪。
 人の住んでこその住居、そこで活きてこその建物。その意味で、私は廃墟に嘗ての生活の痕跡を想像する依代としての役割を第一に求める。その、憮然とした、物言わぬ無用の建造物そのものが持つ、「不気味」「異様」さの中に「シュールレアリズム的芸術性」等を感じないわけではないが、私はやはり活きてる建物が好き。その意味で、本日の探訪、その最盛期を知りもしない思い出を探す巡礼者の心持ち、何時しか作業途中のまま放置される重機にイコンとしての宗教的意味合いを錯覚するに至る。
 重機と瓦礫。生きるモノが決して住み易い場所とは言えない。そんな場所を含めて、個性的で活動的なネコに多く行き合う。本日はネコにとっても待ち望んだ日差しの恩恵、肌寒い間は些か怠慢気味でもあったそぞろ歩きを、本日まとめて果たした様子。ネコは恐らく廃墟が好き。別に何ら根拠はないが、ふとそう思う。