ゆる眼医者

 (※一部フィクションを含む、かもしれない)
 昔の医院って、待合いがカーテン一枚でしか仕切られてなかったりして、前の順番の患者の問診がまる聞こえだったり、「腕は良いが乱暴な」医者が辣腕を振るってる様子が体感できたりと、今からしてみるとかなりスリリング。今ではそんな待合いやってる医院なんてさすがにほとんど無く、あったとしてもじじい先生が見かけそのままボケボケでワケわからなかったり「心配ない心配ない」とか言って触診より先に自分の杖を探すとか違う意味でスリリングだったりする。
 この度訪れたのは、駅前のビルの中に入っている眼科医院で、同じ階のお隣でメガネとコンタクトを売っている至極一般的な眼医者の稼ぎ方をちゃんと心得ていて、ちゃんと眼科専門医もいてまあマトモ。当然診察室と待合いは扉で仕切られプライバシーにちゃんと配慮してある。はずなのだが、診察券と保険証を受付に出して「しばらくお待ち下さい」と椅子に座るとギョッとする。視線の先に、モニターに大写しされた巨大な眼。
 眼科の診察室って眼球の特性上、診察しやすいように暗くしてます。資料と記録が置かれた先生の机の上だけがライトで照らされ、スイッチオフでお部屋はいつでも完全な暗室に。眼球観察用のレンズには同時にカメラが仕込まれていて、バックベアードみたいに巨大になったおめめがカメラに繋がれたモニターに大写しにされて先生の観察を助ける、プリントアウトのおまけが付いた高機能。診察を受けている患者は先生の診察に釘付け状態なので、当然の如くモニターを通じて自分のおめめを観ることができない。ところがこの眼科医院、患者自身には観ることのできないおめめのモニターが、変な角度で外側を向いている。恐らく同席の家族にもわかるようにとの配慮であろうが、この医院の取り次ぎ担当の事務がいいかげんで、診察室の扉を時々閉めない、で「お待ち下さ〜い」とか呼ぶもんだから診察待ちの患者の眼は暗闇に浮かんでぎょろぎょろ動く眼球に釘付けに。・・・「みんな貞子」。気付いてないのか、他の患者が無反応なのも怖い。
 これは本気でヤバイだろ。前耳掃除してもらった時みたいに「自分の一部」だったらスゴク観たいけど、他人のだからおもいきしプライバシーの侵害だし、要するに風呂屋の扉が開けっ放しのようなモノで、そう思うと他人の眼球に大変なエロティシズムを感じてしまう。実際生きてる組織はエロい、・・・のか? 
 因果応報というわけで私の診察の番。ああ、自分の眼がどのように人に観られているのか気になる気になる。先生の言ってることが全然耳に入らないぞ。そのせいかやたら診察が長い、ああ、これは恥辱!?「よく解らないので目薬差して検査しましょう」とか言われて、更に延長。
 検査後、再度の診察時にはなんだかすごくハイになっていて、より解りやすいようにプラ製の眼球模型を取り出して説明する先生の行動が「面白くて仕方ない」。頭ん中で「ゼリー状の物質って入ってねぇじゃん」「眼球が横に伸びて近視!?てなんだそりゃ〜」とか、何がおかしいのかよく解らないが、まるで初めて理科室を掃除した小学生みたいに無知な興奮が頭の中をずっと支配していて、笑いをこらえるのに必死で、先生の言うことなど何一つ頭に入らず。
 なんか帰るとき「3ヶ月後に再検査に」みたいなことが書かれた紙を渡されたので、恐らくまた行かなければいけない、ということだけが解る。何しに行ったんだお前は。