いせやのやきとり

  夕方以降、吉祥寺通りを吉祥寺の駅から井の頭公園へ向かう。公園の樹木が見え始めると、同時にニオイ付きの煙幕に包まれて視界が怪しくなる。これ、謎の「和風」建築物・いせや本店から放たれる煙幕で、たぶん建物が燃えてても判んねぇじゃねんかという感想は、初めていせやを訪れた際のお約束。
 吉祥寺にある焼鳥屋「いせや」本店、新築・改装のため仮店舗に移転していたのが、この度本店新築が相成りめでたく開店したということなので、吉祥寺在住の友人を無理矢理誘っていせや本店新店舗に行ってみる。
 仮店舗の頃足を運んだこともあるのだが、黒ずんだお品書きがそのままだったり、客捌きも相変わらずだったりと、ただ狭くなっただけで雰囲気が全然変わっていないことに半ば呆れながら飲んでいた記憶がある。
 さて、ネオいせや本店、場所は当然おんなじ場所。煙幕もいつも通り。立ち飲み専用カウンターが路面に面して酔客を収容、半ば放置気味の順番待ち客が路上に溢れ、あまりと言えばあんまりな雰囲気に押されなかなか店員に声を掛けられない客が隣の薬局の脇でおろおろしていたりと、「雰囲気何一つ変わってねぇよ」、で嬉しくなる。
 店舗、以前と同じように2階席まであり。単独行動が多い私は残念ながら旧店舗の「遊郭の2階」の様な部屋の造りをお目にかかる機会はなかった。新店舗、実はビルの1階、2階が店舗で3階以上は恐らく住居のビル。2階まで和風の基調を現すために、飾り程度の瓦葺きの屋根様の庇が付いているのだが、その瓦葺きの屋根から普通のビルの壁が生えていて以上上階に続き、それがスゴイ違和感。友人は「インチキな表参道ヒルズみたい」との感想。存在そのものがインチキな表参道ヒルズが更にインチキになったのだからそのインチキ加減やどうであろう。私は落語「あたま山」の頭の上から桜の木が生えその下で飲んだり食ったりどんちゃん騒ぎしているしている様子を想像。どうでも良いけどこの落語の内容やべぇよな。とりあえず、ここの住民は夕方以降さっさと洗濯物を仕舞った方がよい。
 案内されたのは一階のテーブル席、南側の一番奥、旧店舗で入口があった場所で、一応その場所に自動ドアがあるのだが自動で開かない、要するに入口ではない。たぶん入口にしようと思って途中で止めたミスの跡。誕生していきなりトマソンと化している。だが旧店舗で入口だった関係で、開かない自動ドアを無理矢理開けて何人もの客が入ってこようとする。が、テーブル席に座る客の背に阻まれて店内に入ることが出来ない。それでそこからの進入を諦めた客が開けっ放しで戻っていくもんだから、そのテーブル席に座った客は絶えず自動でない自動ドアを閉めなければイケナイ。使わないんだったら鍵くらい掛けとけよ。
 内装。「普通の焼鳥屋」っぽい内装は一応未だキレイ。さすがに「あの」再現は無理なのでしょう。仮店舗にも張られていた「長年の焼き鳥の煙が染み付いて黒く煤けて恐らくタレ付ければ食べることのできる」位年季の入ったお品書きは残念ながら張られていない。記念に振る舞ったのかしら? その代わり、カウンター席上にはめ込まれた木目のお品書き、何故か所々千円札の束が画鋲で張られて謎の札束の列を為す。店員に聞くと「御祝儀」とのことだが、何故こんな所に御祝儀を晒して燻すのか全くわからん。
 要するに、「建物は新しくなったが中身は何一つ変わってねぇ」というわけである意味安心。未だ新しく真っ白な店の壁が黒く煤けるのも時間の問題と思われる。また来ようと思うが、実は私いせやは本店ばかりで公園店は未だ経験ない。友人曰く、なんでも「中でジャッキー・チェンが暴れた様な造り」なそうだ。それが事実なら間違いなく現法上は違法建築だと思われるので早いとこ行っておきたい。というわけでまたよろしくお付き合いを。おもしろかったー。