その六十七 渋谷区宇田川町 『宇田川地蔵』

sans-tetes2008-06-24

 センター街の成れの果てのような道に沿って真っ直ぐ行くといつの間にか、今やマスゴミの代名詞と化したNHKに辿り着くというのは、出来損ないの都市伝説のようである。その途上、渋谷ネイティブと思しき古っい一軒家がちらほら現れる。その中の一軒、母屋と共に低い塀に囲まれ、入口は勝手口といった雰囲気の鉄柵を押し開けた先、庭の一角のような佇まいに、三体の地蔵を奉る地蔵堂・野良道の名残、顔の欠けた馬頭観音・石仏の背だけ残ったモノか、銘の読めないほど摩耗した石碑。いつ見ても、それぞれきちんと花が生けられ、ここまで聞こえる繁華街の喧噪にこの場が乱れることのないよう重しとなっている。
 別にここを通るのは初めてではない。が、この場所、常に入り難い雰囲気で支配されている。この場の主の成れの果てか、ただの居候かとにかく、いつも先客がいて近寄れない。この日、先客はお堂の奥の方に引きこもっているらしく気配はするが姿が見えず、代わりにネコが庭の敷石に佇みジッとこっちを見る。絶好の好機、進入させていただく。お堂のあるお庭の横側、母屋の方は窓という窓全て雨戸が閉じられており人の住んでる気配がない。地蔵堂に近寄ると、お堂の下からネズミが母屋の方に逃げる。ネコは追わずに反対方向へ消える。
 お堂のお地蔵、よく見ると小さいお地蔵がスミにもう一体の全部で三体。真ん中の一番立派なお地蔵は大分新しいモノらしいが、脇の三体は台座もなく、顔も擦れ、辛うじて笑顔の解るお顔立ちが慎ましやかで可愛らしい。四体そろって赤い前掛けの標準装備。
 地蔵を見て回っていると、なんだか先客に動く気配アリ。別に悪い事しているわけではないが、なんか気まずいので目的を果たして早々に立ち去ることにする。先程のネコは先客に付いて回っている。先客はペットボトルに水汲んだりしている。間違いなくただの先客だと思う。が、この場への崇敬は十分自覚しているモノと見える。バカが無遠慮に入ってきて荒らしてくよりは100くらいマシ、とするべきか。