『スカイ・クロラ』

 「ようこそ、私は草薙水素。あなたを待っていました。」エンドロールが始まるなり劇場を後にしたせっかちさんへ、残念でした。映画が好きなら映画は最後まで観ましょうね?
 さて、もう大分昔のことだと思うが、小学校の卒業文集の「将来の夢」の覧に私は「大人になりたくない」と書いて、それをボツにした教師のいる学校のあった場所は、当時全国でも有名なガチガチの管理教育を布くことで有名な学区だったそうな。随分と昔のような最近のような、思い出などというものは風化していく一方だ。
 その後いつの間にか大人になっていたにもかかわらずえらく長いこと気付かぬ振りをしていた頃の私の重要な任務は「リセットボタン」を探すことで、そんな見事にロクでもない大人は隙を見せると今でもどっかにあると信じてるボタンを探してしまう。この映画に登場する少年少女達は皆その気になればいつでもボタンを押せてしまうその意味で人類史上最強の人種達なのだが、問題はそのボタンの押し方をほとんどみんな知らないということで、もっと深刻な問題は何度リセットボタンを押しても次に選択できるジョブは「人殺し」以外にないということ。即ちこの映画で表現されている彼らの生活する環境とは体の良い地獄である。
 物語の最後の最後のそのまた最後でそれまで培われてきた疑惑が確信へと変わる時、白日の下に晒される世界の真理。全ての疑問が一瞬にして解けてしまう物語の組み立て方は見事だと思うけど、同時にそれによって明らかになる彼女の立場・・・他より頭一つ抜き出ることによって目下繰り広げられる全ての地獄の監視者であり体現者でもある彼女の精神的負担たるや幾許たるや。となると、作中それまで発したこの世界の真理(=実は現実世界の人間心理)を垣間見せるあらゆるセリフを足した重さの何十倍もこのセリフが途方もなく重くなってしまう、気がした。「ようこそ、私は草薙水素。あなたを待っていました。」
 私がもし、ヒマラヤの山奥とか南米のジャングルの奥地とかでリセットボタンを見つけても、ボタンの色が赤だったら、ちょっと考えてから押すことにしますね。