『食人族』

 VHS版の『食人族』のパッケージには、柱に縛り付けられた首と腕のない女性の姿が描かれていた。当時実家の近所のレンタルビデオ屋では、レンタル開始直後からこのビデオはAVの棚に置かれたりSFの棚に置かれたりで店内の扱いが定まらず、最終的には何故かドキュメンタリーの棚に落ち着いて、そのお陰かこの間処刑された彼が起こした事件時、店内の「ホラー」の棚が一掃される中、NHKスペシャルとかのビデオに混じって食人族が並んで置かれていたあのビデオ屋、その後新作の入荷がほとんどなくなり、間もなく店のオーナーはそのままに何故かペット屋になってしまった。「あなた、食べる?食べられる?」別にビデオ屋からペット屋に鞍替えした店のオヤジの口からこんなセリフは出てこない。
 さて『食人族』、スプッラターが好きか嫌いかとかカニバリズムを許容するか否かとかそんなお話の以前に、「映画が好き」なら一度見ておくべきだと思う。この映画が登場して20年、テレビで語られる言葉を鵜呑みにし、派手な煽り文句を疑うことなく見世物小屋を訪れていた当時の僕たちと比べれば、今の僕たちには純真さのカケラも残されていないかもしれない。それが進歩ということでしょうか? 当時、第一に残虐性、更にその表現方法に観る者を唸らせた名作も時と共に大分擦れてしまった僕たちが今一度見てもただただ陳腐なだけなのかもしれない。「死体がおかしい」とか「毒蛇が噛んだのは足の先ッぽだけなのになんで足全部切断する〜」とか「人間の生のレバーは不味いだろう」とか、もはやいちいち突っ込む気にはなれない。だからとりあえず、映画の中の一番最後のセリフ「現代人と食人族、果たして残酷なのはどちらなのだろう?」これを聞いて考える。20年の間に人間は進歩したのかな? とかいうことは別にこの映画を観ながら考えなくても良い。諸人この映画を観てどう思うか? やっぱみんなに観て欲しいな。