『フツーの仕事がしたい』

 ここで言う「フツーの仕事」とは、社員に正規の給料と超過時間分の給料を支払い社会保険にも加入させてちゃんとした正社員として遇する会社のこと。私は努力がだいっきらいで、とにかくやらなくてはいけないことから逃げてきて、運だけで世の中渡ってきた結果現在いろんな意味で崖っぷちに立っているけど、一応「フツーの仕事」しかしたことないのでこの映画に登場する「フツーの仕事」をしていないトラック運転手の皆倉信和氏の悲哀は厳密にはよくわからない。自分の経験をリンクさせるという意味で厳密に理解できるのは彼が難病に倒れ体のあちこちに管刺されて死にそうな思いをしている場面だけ。
 では、自分の身の回りに起きていることとは今のところほとんど関係ないお話が描かれたこの映画が面白くなかったかというとそんなことはなく、「物凄く面白かった」。で、何が面白かったのかというと、やっぱ皆倉氏の加入した労働組合が彼の労働環境を改善するべく彼を直接雇うブラック企業とその親会社・更にその注文元と次々に乗り込んでガンガン団交かます様子。特に、下請け構造の頂点に立つ住友大阪セメントの本社にまで乗り込んで現地の組合員も動員して自作の映画まで流して圧力かける様に「大爆笑」。だって、大阪弁の組合員が会社囲んでボケカス言ってるこれってヤクザ右翼とどう区別するのよ〜。最終的に元請けの大元が動いたお陰で皆倉氏を直接雇っていた会社は潰されて皆倉氏は無事「フツーの」会社に就職できてめでたしめでたしで終わるわけ(それを勝ち取るまでの一連の出来事が映画の流れなんですけど)ですが、それを勝ち取るまでの組合員達の行動は私のような「一般常識(要はめんどくさい理屈は避けて「企業の常識」に忠実なことね)」に縛られた人はちょっと眉をひそめるような方法。法的に問題があるというわけではなくむしろ「厳格な法の適用」がなされているかどうか調査、なされていなければその点を徹底的に糾弾するという、まあ理屈の上では至極真っ当。けど、その過程で今まで上の指示でその点をなあなあにしてきた現場の人間を徹底的に糾弾して泣かせそうにしたり*1、会社の前で街宣したり*2等「私の常識」では計り知れず。にもかかわらず、最後まで彼らに反感なく観ることできたのは、最初に「仕掛けた」のが企業側だったこと、それも暴力団まがいの人間を会社に入れて皆倉氏を脅したり、皆倉氏の母親の葬儀会場まで来て暴れたりとかなりあこぎな様子を散々見せられていたので、企業側に対しては初めからかなりの悪印象。*3
 そもそも、皆倉氏が組合と関わりを持つようになったきっかけが、それまでもかなり不当な労働条件で働かせていたにもかかわらず更に締め付けを厳しくするような不当な労働条件を労働者に課すような動きを企業側が見せたワケで、搾り取るのも程々で止めときゃよかったのに欲張りすぎるから。挙げ句社内に暴力団みたいなの入れたりと企業側(皆倉氏を直接雇っていた下請け運送会社の社長ね)があまりにも頭が悪すぎるのが大変印象深い。で、今まで下請けの横暴を野放しにしてきていざとなったら切り捨てちゃって、たぶん大元の原因だけど上手く逃げてる大元受けの態度。頭が悪い者がバカを見る。社会の縮図が分かり易くて清々しい。そんな社会で、弱者である自分がどのような力を持っていて、強者に対してどのように「闘う」のか、この映画はその実例を紹介し最後に「労働三権*4」を改めて紹介することで締めくくる。この権利・法的根拠を義務教育の間にきちんと教えないのは小学校で英語を教えないのと同様政府の陰謀だと思う、とか書くと私も遂にアカに染まったかとか言われるので書かない。が、恐らく先人が闘うことで勝ち得たこの権利は、それを受け継ぐ立場に当たる我々も闘うことでしか維持できない、ということはこの映画を観て十分感じる。
 すいません。(いつものように)大分穿って観てました。

*1:けど法的に間違っていないもんで言われる側にどちらかと言うと非がある。だからちゃんと反論できないで大の大人が泣きそうになる。これが見た目ほぼガチのイジメで、それがまた面白くて仕方ないんだけど

*2:街宣のやり方が映像作品上映したりと一部凝っているのは感心した

*3:まあ、『蟹工船』を意識した恣意的編集と言ってしまえばそれまでですが

*4:団結権」「団体交渉権」「団体行動権