その八十一 川越市古谷上 『一本杉稲荷神社』

sans-tetes2008-10-19

 国道16号を避けて、川越市街へ向かうに微妙な抜け道はひたすら田畑の中を突っ切って行く。その途上、周り全て田んぼの中で「ぽつん」と小さなお社に鳥居。いつもこの道をぶっ飛ばしながらいつか参ったろ思って幾月、とうとう参拝したこの日は一面の晴れ模様、社の周囲の「何も無さ」がますます際立つ。辺り一面刈るのを早待つばかりに頭を垂れた稲穂が風の吹く度に揺れ掻き分ける様が、水面近くを泳ぐ大魚が波立てるに似る。これほど見晴らしがよいのに、地図で見ると直ぐ近くにある伊佐沼が全く見えないのが不思議だ。ついでに、社名の「一本杉」がどこにも見えないのも不思議。恐らく移転の際に、その杉の木のみ置いてけぼりを喰ったのであろうが。
 まさか物好きが社の扉を開けるものとは想定せず、扉の錠に鍵はなし。ぎぃと開ければ、中に御幣と多くの眷属像。全ての像は外を向かず、中に神体と御幣を挟み互いに向き合う。何らかの勝敗の意図を持ってのこの形であるなら、眷属の数、おまけに奉納額の援軍まで得た左翼の勝ちである。勝ち戦の余裕か、左翼の眷属の内、一番小さな一体だけがこちらを向いてにっこり笑う。
 定期的に社の手入れは入っている様子は見受けられるが、あちこち張りっぱなしの蜘蛛の巣、これは農繁期の忙しさにかまけてと良い方に解釈。その中に奇妙な巣が一つ。多く糸を縒って他より太めの糸が一本、社の屋根から伸び地面近くで小石をぶら下げて風に揺れる。ただの偶然か、何かの意図を持つモノかは伺い知れず、ワケを問いただそうとも巣の主は不在、それならしょうがないので、風に小石が揺られる様をしばらく眺めて後、振動で糸が切れないように気を付けて社を後にする。