『トウキョウソナタ』

 失職したその日、妻に会い難くて2階から自宅に侵入。子供の習い事の禁止の理由が「唐突すぎる」。同じく失職してる友人の「家族ごまかし」の手法に感嘆。「俺達の子供がそんな才能あるわけないだろう」。「(家族を)守る」と宣言しながら誘拐されてる妻の前で逃亡。その他。
 香川照之演じる一家のお父さんのあんまりといえばあんまりなダメ親父っぷりにまるで他人事のように感じられず、最後の方で路上に転がって彼が泣きながら叫んだ「やりなおしたい〜!」というセリフ、物語はこのセリフの後「ソナタ」の音色を経て良き方向(たぶん)に集束ワケだが、私的にはこの香川照之が路上に転がりながら叫んだこのセリフの衝撃が強すぎて、「ソナタ」の向こうに見えてきた何かを(頭では解ったようなつもりになっていても)感じることが出来なかった。恐ろしい。
 恐ろしいと言えば、中盤辺り長男(小柳友)がアメリカ軍に志願、入隊のため渡米する彼を空港で母さん(小泉今日子)が見送るシーン、入隊までにかのダメ親父との間のすったもんだの挙げ句の渡米ということもあって「離婚しちゃえば?」との長男に対し「私が出ていったら誰があの家のお母さん『役』をやるのよ〜」、さらりとこのセリフ。出征兵士を見送るのに、その母親からこのセリフ。正直怖かった。全然怖がらせようとした映画じゃない(はず)なのに。恐ろしいのは香川照之小泉今日子の演技? それとも、現実に似てその実ほんの僅かな齟齬をきたすように作られた、いつも黒沢清の描く世界のせい?