『リダックテッド 真実の価値』

 「銃撃や爆撃は良くてレイプはだめなのかよ」。戦時強姦殺人の容疑で取り調べを受けるアメリカ軍兵士は、取り調べの最中カメラの前でこう嘯く。通常、物語のテーマとなりそうなこの重い(同時にイラク戦争を象徴するかのような無責任な)セリフも、今作の中では随分と霞んで見える。彼らが「祖国を守る目的」でここにいることを含め、このような事件が起こっても「さもありなん」で済まされてしまいそうな日常が、今や新たに「アメリカ的」と呼ぶことができるであろう戦場だろうと兵舎だろうと「アメリカが関わる」場所ならどこでも置かれる「機械の目」によって紡がれる。そして、その「機械の目」よって紡がれた事実は、削除してなかったことにするのも容易。
 多くの作品で語られているこの戦争のマヌケな大義について、その大義が実際にかの地でどのような騒動を巻き起こしているのか、この作品の中でも十分に書き込まれていて、作中で起きた事件はそのマヌケな大義の延長線上で起きたように描かれている。ただし、この作品で最も伝え皮肉りたいのは、その大義でも大義を忠実に実行する祖国の食い詰め者でもアメリカンドリームの幻影を実現するための大義への荷担でもなく、機械の目が張り巡らされることによって地球の裏側の事でさえリアルタイムに覗けるようになっているにもかかわらず、そこで起きている事を自身と同様の目線で見ることができない彼らへ、おそらく「映像の向こうから傍観者としてしてしか事実を見ることができない君たちは、実際に目の前に事実が起きたとしてもそれに対し積極的行動がとれない傍観者にしかなり得ないんだよ」との、普通に暮らす私たちへのメッセージ。この件に対して、私たちは半分眠っていると考えて良い。だからこそ、あのパルマ*1なラストは、半分眠っている私たちに対してこの上ないメッセージになってしまって、いいのか?これで。
 それにしても会場は結構な入り。結構な入りは結構なんだけど、1000円デーとは言え、皆さんなにもオバマが次期大統領に決まった日に、ねぇ。

*1:てきとーに言ってみました。「パルマ的」なんて言葉よう知らん