『喜劇 とんかつ一代』

 「あ〜♪とんかつを〜♪食えなきゃ死んで〜しまいたい〜♪」・・・映画の冒頭、サクサクに揚げられていくとんかつの姿をバックに流れるのは「とんかつの歌」。正直、このオープニングだけで幸せな気分満載で頭がぽや〜っと。
 上野でとんかつ屋を営む久作(森繁久彌)は元々上野の名門洋食店青竜軒」にコックとして勤め、コック長・伝次(加東大介)からも見込まれた腕を持つ。ところがその伝次の妹・柿江(淡島千景)と駆け落ちして店を飛び出し今のとんかつ屋を開くが、そんな経緯から今でも伝次とは顔を合わせ辛い。一方伝次はと言えば今でも腕の確かなコック長として一線を張っているモノの、その職人堅気な頑固な性格から周囲と衝突してばかりいる。そんな中持ち上がったのは青竜軒の買収話。その買収相手は昔伝次の恋敵だった大陸(益田喜頓)、その元で買収・経営の指揮を執るのはあろう事か伝次の息子の伸一(フランキー堺)で、かつて青竜軒でコック見習いとして働いていた伸一、親父に無理矢理やらされていたということもあって飛び出してしまい、以来伝次との関係もしっくりいかなくなっていた。コックならぬ経営者として青竜軒にかかわることに伸一は依存はないが、買収の暁には社長の大陸の娘の婿にと縁談が持ち上がっており、今付き合ってるとり子(団花子)と別れることは忍び難い。とり子の父親は世界でも一二を争うほどの腕前を持つ屠殺師の仙太郎(山茶花究)、これがたまたま久作のとんかつ屋の常連客にして友人。甥と友人の娘、2人の仲を知る久作と柿江は2人のために一肌脱ぐことに。
 以上、主要人物は「血縁」と「料理の縁」で複雑に繋がった関係にあり、これに更に伝次の後妻の連れ子・琴江(池内淳子)とその夫で「未来食料クロレラ」の研究に打ち込む復二(三木のり平)の本筋と直接は関係しないギャグ専門の夫婦をもいてとああややこしい*1。これだけ糸が絡まって繋がれているのだから、そのどこか末端で起きた騒動をきっかけに、複雑に絡み合った関係の糸を手繰っていくが如く騒動の影響が全体に波及、結果それぞれの人々が、それぞれ居るべき場所に収まっていく、その過程の人情交えたドタバタを、役者の皆さん明るくテンポ良く演じている。今作で概ね騒動の中心に位置しているはフランキー堺で、今作における彼の笑いが実に生き生きと冴えてる印象、特に川島雄三映画では初登場の三木のり平との絡みが最高に面白い。娯楽映画の「安心して観てられる」感というのは、あまり考えず笑いに集中できるというということであるし、その集中に堪えうるだけの質の高い笑いが随所に盛り込まれた面白い、観て絶対損はない映画だと思う。

*1:この関係の複雑さそのものがフランキー堺三木のり平の掛け合いの中でギャグになってるくらい