『忍術児雷也』

 日課と化した『若山富三郎×勝新太郎の軌跡』をテアトル新宿で観ていて、なんかもう外に出るの面倒臭くなって惰性のように居残って観た作品。
 時は室町、足利氏に従った功により尾形氏・鯨波氏・諏訪氏信濃・北陸の地を治めることとなる。時は流れて戦国の世、鯨波家の策略により尾形氏は攻め滅ぼされその領地は鯨波氏の物となり、尾形家の遺臣達は在野に逃れ、主君の遺児尾形周馬(大谷友右衛門)を守りながら捲土重来の時を待つ。一方、尾形家の復讐を恐れる鯨波将監(市川男女之助)は、領内に跋扈する山賊、「北陸三太郎」達を懐柔して尾形家の遺児と遺臣を根絶やしにせんとする。山賊達の襲来によって遺臣達のほとんどは討ち取られるが、生き残った周馬は迷い込んだ山中深くで大蛇に襲われる大蝦蟇を救ったことからその力を得るにいたり、妖術を駆使しお家を滅ぼした鯨波氏・諏訪氏に復讐せんとする。一方、周馬に撃ち殺された大蛇の霊は北陸三太郎の一人である大蛇太郎(田崎潤)に乗り移り妖術を授けて己を殺した周馬に復讐しようとする。これにもう一人、尾形家の遺臣の娘で周馬とは別に主家復興のために動く綱姫(利根はる恵)、同様に深山でナメクジの精の力を得て周馬に加勢すべく山賊達が隠る砦を目指す。
 当時の子供向け大特撮スペクタル映画と言った所らしい。「ヘビ」「カエル(蝦蟇)」「ナメクジ」と言う三竦みの縁にある妖術使いを核に描いたお家再興の苦労譚。それぞれの術をカマす場面で存分に発揮される、当時の技術の粋を集めたと思われる特撮映像は恐らく当時一番の見所で、当然の事ながら現代の目から見ると技術的には陳腐この上ないんだけど、それがまたすごくシュールですごく楽しい。仮面ライダーで言うところの、変身ポーズの結びが「印」。「うんっ!」「えいっ!」の掛け声と共に登場するのは焦点の定まらない口の裂けた大蛇で、脈絡無く口から延々と火を吐(きながら恨み辛みの台詞も吐)く。妖術を使って姿を消して城に忍び込んだ尾形周馬が逃げるときは何故か蝦蟇の姿(やっぱ焦点は定まらず)でのそのそ城門を出ていく。巨大なナメクジに舟のように乗ってふわふわ水の上から現れる・・・。それら術を駆使する姿が物凄くシュール、でいたって真面目に演ずる役者さん達。これが物凄く楽しい。登場人物の相関関係が(少なくとも私には)ちょっと複雑、事の起こりを説明するナレーションを始め、話しの筋の説明の部分が急テンポな感があるので途中で内容を整理しないと何がなんだかわからなくなりそうになる。これは、常時上映されて普段から当たり前のように時代劇を観ていた当時の人達が持つ「時代劇脳」を現代を生きる私が持ってないからなのかな? と飲み込みが悪いのを時代のせいにしてみたりもする。
 で、今日これを観ることが出来たお陰の若山富三郎は、諏訪家家中の若い侍の役。登場シーンで山賊に襲われる女性を助けたり、後日その女性の敵討ちの手助けをしたり、妖術使いの跋扈に悩む家中を静めるべく偉い坊さんの大日坊(大河内伝次郎)から妖術封じの宝刀を授かったりと結構見るところあって重要な役で、妖術を使えない普通の人の中では多分一番強い。妖術使いの連中がある意味笑いを取ってしまうので、「マトモ」な斬り合いの中では一番「マトモ」だったけどそれ以上の感想は・・・。映画そのものがコアな若山富三郎ファンでなくても楽しめてしまうので。