「船の科学館」その一

 東京都13号地その1、周囲空き地、空き地を取り囲んだ海、その中にある船の形をした建物、建物の脇に二式大艇、入館のための公共の交通機関は何もない、それがこの博物館に対する私のイメージだった。もう一つ、私の住んでた学区の小学校では、ネタが無くなる・雨が降る、都合が悪くなると遠足にこの場所が選ばれる傾向にあった。「晴天時筑波山、雨天時船の科学館」という遠足のスケジュール、今考えると開会式直後に豪雨、なのはな体操しかできなかった運動会並にキケンである。
 さてそんな久々の「船の科学館」、現在は随分と垢抜けた場所に建っていて、最寄りの鉄道駅も出来交通には困らない、ただしあのインパクトある二式大艇は撤去、随分と変わった印象であるが、入り口は相変わらず入ったら出ることの出来ない強制自動ドア、無理矢理入場させられていた先、東京湾埋め立て地にまで来て何もこんなとこに、と思うほどの結構な人出。東京湾埋め立て地に来たは良いが、何処も多くの人で堪えられず、仕方なく、とは同行者の説であるが、親子連れの子供、父親、共に目を輝かせ展示品間を歩き回る様子、必ずしも「仕方なく」という事ではないらしい。スイッチ一つで動力・原理の瞬時に解る大がかりな仕組みはなかなかの見応えで、同様に所謂「産業遺物」を対象としながら、開演直後国を挙げての大プロパガンダにより今やモンゴル人までも観光名所として認識している鉄道博物館と比べても遜色無い。ただしこちらの博物館のコインロッカーは有料。博物館のクセに・・・。
 そんなこんなで現在における船の役割、そこに至る歴史、そして船の仕組みを精巧な模型と絵画、他では見ることのできない巧緻な実験器具、そして巨大な実物の機関によって余すことなく紹介してくれる船の科学館




展示場の半分を見終わった時点でほぼこの目的は達せられる。では、残りの半分は何が・・・。おそらく、この博物館の初代館長の強い意志は、決して年老いた母親を背負って785段の階段を登って金比羅さんを詣でることに留まらず、「世界は一家、人類は皆兄弟」の思想を広く日本に、特に子供達に啓蒙せんとすることにある。残りの半分はこの思想の啓蒙に当てらている。
 重大な学習の場を前に、今でも忘れてはならない人類が嘗て持っていた海への恐怖と今では誰も信じていない海洋博当時の希望に満ちあふれた海洋開発の様子を30年間(おそらく面倒くさいから)変わらない絵と模型でもって出迎え心を和ます。




そしてその後は、船の科学館で最も新しく展示された、今後の目玉となる展示物が登場。この展示物「にっぽんの海」については博物館のwebページの一番最初に紹介されているのでその紹介文を引用。
 「船の科学館では、開館記念日にあたる7月20日(金)に新展示コーナー 『にっぽんの海』をオープンしました。  わが国は四面を海に囲まれ、古来より海に資源を求め、また船による輸送の道として海より多大の恩恵を受けて来ました。しかし、近年では、その海の恵みを脅かされる問題に直面しつつあります。  新展示コーナーでは、わが国の海はどこまでかを知り、そこに迫る問題と、 海を守る活動について紹介します。」
 実際に観てもらいたいのでここでその内容の詳細は割愛するが、そこに展示されているモノとは要はコレ↓
 わざわざお台場くんだりまで来てしかこーいうコトを学べないというのは確かに問題であると思う。が、このコーナーの一角に置かれた某不審船模型のケースを前に、
不審船に向かってガシガシ攻撃を加える映像が流れ、その意味を知ってか知らずか奇声を挙げて子供達が遊び回る図は微笑ましい。気付く人は気付くのだが、これまでの展示物の中で、実は船舶・海洋技術の粋中の粋を集めているというべき「軍艦」についての展示は全くない。この「にっぽんの海」コーナーで日本の海防の現状が大いに語られるのを境に解禁されたかのように嘗て日本の海防を担った海の英雄達がおおっぴらに次々と姿を現す。そして今でも、子供達は軍艦が好き。数々展示された軍艦の模型の中でも、嘗て一世を風靡した『ウォーターラインシリーズ』で、更に全て最終形態で再現された連合艦隊はなかなか圧巻。

 本日開演中の特別展示「アホウドリ」を適当にスルーした先にある、満遍なく笑みを浮かべた全然似てない笹川初代館長の胸像に一応挨拶。ちなみに博物館玄関先には母を背負う会長の銅像。嘗て野外に晒されて展示されていた引き上げられた不審船は残念ながら今はない。

 展示後半にある船のラジコン、有料だが子供達とお父さん達に大人気。ここでも人気は軍艦だが、タンカーとフェリーと戦艦と潜水艦が同一スケールで氷山の周りをぐるぐる回る中、一カ所だけ置かれたゲートボールのゲート状の「ゴール」、なかなかシュールだ。始終商船と潜水艦が衝突するのも微妙にヤバイ。いい天気なのでここから屋外の階段を伝って上がれるとこまで上がる。
最上階は展望台だがさすがにそこまでは上れない。「灯台としての設備」のあるところで中に入る。利権資本民間資本なのに一部を灯台設備として海上保安庁に管理させている、初代館長のとてつもないコネのなせるワザであろうが、確かにこうすることでお国のお役に立っている、同時に簡単にはツブせない、見事なやり方に同行の友人と感心する。感心するといえば、この階の、船形の建物の丁度艦橋部に当たる部分、舵等そのまま船の指令部を再現している。友人の父親は嘗て国内線の船長で、「船」という乗り物に実は大変縁の深いとのこと。性格上、何処に行っても気になる神棚のこととか私のどーでも良いような質問にいちいち造詣深く答えてくれて感心する。船形の建物のてっぺんにエレベーターで登るとお台場・東京湾が見渡せる展望台。予想通り通り、一本調子の女性の声で周囲の景色を延々と説明している。「13号地」の頃は本当に何にもなくて面白くも何ともなかったんだよ、とは今は昔、建てては壊して、壊しては建てしている周囲の様子、おそらく一日ここにいても飽きない眼下に広がる東京の街並み。