いしいひさいち『大阪100円生活』

 「運転助手のアルバイト代が封筒開けたらハナシより多かった」「いくら多かったんだ?」(指を二本立てる)「なんだ200円かよ」「まさか、2000円だろ。コーヒーおごれよ」「ゼロが2個多かった」ゲッ「いったい何を運んだんだおまえ!」

 まだ字の読めない幼い子供に、優しい母親は寝る前に絵本を読んで聞かせる。自分の記憶の中で、もっとも古い「我が家で寝る前母親が読み聞かせた本」は何故か双葉社いしいひさいち著『がんばれタブチ君(3)』だったことを弟は覚えているだろうか? 寝る前に読み聞かせる本のセリフは造語と擬音ばっか。ホント何考えてんだか。
 で現在、何故か朝日新聞の朝刊で連載を持っているいしいひさいち。なんだかんだ言ってその真骨頂はやはり『バイトくん』。本書で、ちょっと有名になって小金を稼げるようになった出ずっぱりマンが家とちょっとした編集者の親玉になったかつてのパートナーが、懐かしき東淀川大学と大阪北側の景色をバイト菊池久夫その他ロクでもない東大(ひがだい)の学生達が案内する不景気の世の中に役に立つかもしれない生活本。役に立つかどうかは大阪に住んでみないとワカラナイ。が、そのロクでもない大阪北側市民の生活が、私にとって幼いこと聞かされた子守歌の如く懐かしくてしようがないのは冒頭のロクでもない幼い頃の思い出話のせい。マンガだけじゃなくその合間に挿入される作者自身の(字も作者自身の)エピソードがマンガに負けないこれまたかなりのウイットに富んでおもしろい。ないとは思うがそのうち大阪で住む機会が出来たら役に立つであろう。全然関係ないが、あいりん地区で流通している一流紙は押し紙が流れたモノだそうな。