『二匹の牝犬』

 売春防止法施行のその日、売春婦達がなじみの赤線を次々と去る中、田舎から出てきたばかりでまだ客を取ったことのない朝子(小川真由美)は自らの意志で苦界に身を沈めることを遣り手婆のテツ(沢村貞子)に頼む。時は流れて東京・兜町、見違える様な淑女に姿を変えて株の取引に勤しむ朝子の姿。未だに夜の仕事とは縁の切れないが、「300万貯めたらきっぱりと足を洗って堅気になる」と地道に貯金に精を出す。一方で「それまで恋愛はしない」と自分を戒め、証券会社の担当者・関根(杉浦直樹)とは互いに好意を持ちつつあるも、朝子の方から一線を引きそれ以上の関係には至らない。そんな中、朝子のねぐらのボロアパートを彼女の腹違いの妹・夏子が訪ねてくる。東京で働きたいという。初めは反対する朝子だが、夏子の故郷にいたくない理由を聞き結局住まわすことに。妹にも自分の仕事を偽り、出かけた彼女不在のアパートを、未だに付きまとっては彼女にたかるテツが訪れ、彼女を見るや小声で囁く「あんたならすぐに大金を稼げる良い商売があるよ」。
 絶望して泣き叫んでる小川真由美が大好きなので、後半の自分の絶望を知った朝子が関根に囲われてる夏子のアパートで真由美×魔子のキャットファイト、更に杉浦直樹と刺し違えるシーンまで全く目が離せず。物陰で関根の帰りを待ち息を潜め、乱れた髪が顔半分を覆ったまま部屋を窺う、まともに合ったら死んでしまいそうな目力に惹き込まれる。後々、その大きな目でもって小川真由美とはまた違った印象の目力を放つ様になる緑魔子はといえば、まだそんなでもないけど、デビュー作で与えられたその鮮烈な印象は「魔子」の名に相応しい底知れ無さが楽しい。「昔っから広いおでこですこと」とか思って油断して杉浦直樹を眺めていたら見事朝子と一緒にコマされたのが悔しい。陰で朝子と夏子の運命を変える役で登場する沢村貞子の声色の変化自在っぷりも楽しい。そのどれもが虚業としての彼ら彼女らの生業の性を表す様で、主要人物殆どがヤリ手ばっかの中で主人公だけがちょっと純粋、けど食いモノにされて終わりという普通ならやりきれなさの不全感が残ってしまいそうな所をそのおかげで小川真由美の絶叫が生きてくるという映画でした。