『盲獣』

 ファッションモデルの島アキ(緑魔子)が自分がモデルとなった写真展に訪れると奇妙な光景を目にする。写真には一切目をくれず、中央に飾られた彫刻を一心不乱に触り続ける男(船越英二)の姿。気味が悪くなりその場を離れた彼女だが、その後、彼女はマッサージ師に化けたその男に誘拐される。彼女が気づいたのは山の中の倉庫。彼女をさらった男・蘇父道夫はその目的を語る。目の見えない慰みに気に入った女の体の一部分を彫刻することが趣味であること、そして彼女こそが彼にとって理想の体を持つ女性であること。だからその体をモデルに彫刻を作らせてほしいこと。その言葉通りそこには壁一面の顔のパーツに地面には巨大な女体の彫刻。この気味の悪い部屋で気味の悪い申し出をする気味の悪い男の提案を彼女は当然の如く拒否するが・・・。
 究極の快感を追い求めて破滅していく男女の様子を描く。視覚を失われたことにより得られる指先の鋭敏な感覚が性感帯になるまで高められるかどうか良くわからないけど、めくら役で登場の船越英二の手つきがのっけから性感帯を意識して凄くいやらしいのは良くわかる。めくらなので常に周囲に手を当ててないと空間の感覚が得られないのは良くわかるけど、「モデルになってくれ!」と巨大な女体像の乳頭をこねくり回しながら緑魔子を説得する行為は意味不明。拒否して逃げ回る緑魔子を追ってる時も障害物*1をバシバシ叩きながら追いかけ回してるシーンには笑った。「口」「鼻」「腕」「脚」「目」の彫像で囲まれた悪夢的セットは前半の見所*2の一つで、その中で寝食してる緑魔子の異様な生活とすぐ外では農家の納屋みたいな空間で普通に暮らしている道夫・しの(千石規子)親子との生活のギャップが異常さを強調してまた面白い。クレジットに登場する役者は船越英二緑魔子千石規子の三人のみで、途中話の展開を促す触媒となるべく存在感を示し始める千石規子の役所は侮れず、さすが。
 後半の急展開、触覚の快感に溺れるのみに陥る二人の男女の表情の変貌振りは良いよね。それまでに時たまキチガイの片鱗を見せてる船越に対して、180度変わっちゃっておまけにめくらにもなって視線の焦点が完全に合わなくなってしかもずっと半裸の緑魔子の姿にほぼ釘付け*3。オカシクなってもオカシクなったなりの魅力が何とも言えない。それに対抗しなくても良いのにもう人間じゃないみたいな表情の船越もってイイ。ナイフで刺すことを懇願する彼女に対してのセリフ「そんなにやって欲しいか?そんなに痛い目に遭いたいか?」とか一番最後に「手足を切り落としてほしい」と言う彼女の懇願に包丁とハンマーを持つ時の表情! 無上の快楽を彼女に与える喜びとその引き替えに大切なモノ失ってしまう悲しみとが同居する最高のキチガイ面に感動。事ここに至り、あれだけ趣向を凝らしたセットなど既に吹っ飛んでしまって千変自在のイキモノの姿に魅了されてしまうのでした。それにしてもあんた、メクラが好きねぇ。

*1:と言っても障害物は女体像のみだけど

*2:マッサージしながらどうやって目の造形を写し取って彫像にしたのかは謎

*3:ここから彼女の独白という形のナレーションが多くなるので更に彼女の変化に注意を仕向ける様な最大限の演出がされているのだけど