『ロシア革命アニメーション 1924-1979/ロシア・アヴァンギャルドからプロパガンダへ』

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 題名通りこのアニメーション映画の目的は
「同士諸君! 前進だ! 五ヶ年計画だ! 革命は継続されるべきなのだ! ファシストと資本主義の侵略から祖国を守のだ! 指導者レーニンを讃え同士スターリンと共に歩もう! 党の指導は常に正しいのだ! 社会主義の兄弟国は連帯を深めよう! そして戦時国債を購入しよう!」と、こんな感じであることは間違いないであろう。当然の如く各作品ともその目的に従い、その主旨に反する作品は一つたりとしてない。国家の、党の、基本的方針として決してぶれることのないソビエト賛美がアニメーション作品としての不動の骨格としても、その骨格を覆う肉付けとなるアニメーションそのものについては無愛想・重厚という言葉が似合いそうな社会主義国家の教条的・官僚的硬直さとは一線を画する。おそらくは「国家・党の方針を周知するという機能さえ担えば、表現について口は出さない」とのお墨付きを得ていたからだと思われる。その意味でこの一連のアニメはにっかつロマンポルノに似ている*1
 「アニメーション」という手段でもって思想の啓蒙行うことはおそらく「純真な(あるいは無知蒙昧な)大衆をわかりやすく訓導する」という目的が第一に思い浮かぶ。実際に各作品を鑑賞してみるとそれぞれが持つ「言いたいことはわからんでもないが、もしかして違うこと言おうとしてない?」とも言うべき感想が思い浮かぶ。それが、「許される裁量の範囲内で、全ての作家性をここに注ぎ込んだ」感が、凄まじく力強い*2
 これらのアニメ、恐らく、戦時は地区党本部に満遍なく動員された、平時は長編映画の幕間のニュース映画のように、もしくは娯楽映画との強制二本立てによって民衆の目に触れ、その時のために強い作家性にそれに見合うだけの国家予算がふんだんに注ぎ込まれた世界一贅沢なアニメーション映画に違いない。「啓蒙」という国家による上から目線で与えられる映画を鑑賞する当時の民衆の中で、自らが今置かれている状況に気づいている程度の知性を有する一部の人々はほどほどの、あるいはかなりの緊張を持ってこの映画に望んだことであろう。文化施設といえども実用オンリーの何の遊び心も持たない思想でもって建てられた冷たいコンクリート造りの映画館で、大衆より一段高い席より党地区幹部の強面が無言・無表情のまま要所適所で拍手する。最後列に座るガタイの良い連中はもしかしたらKGBの職員かもしれない。そんな緊張感を想像力で補いながらこの一連のアニメに接した夜、執拗に訪れる「赤いフラッシュバック」に心地よさを感じるかもしれない。とりあえず、このアニメには素面で接しよう。
 以下、各作品の一言以上の感想

 (Aプログラム)
 『ソヴィエトのおもちゃ』
 そうだ、要するに吊せばいいんだ

 『用心を怠るな』
 「用心を怠るな! 戦時国債を購入しよう!」の矛盾は置いておいて、アジテーターが格好良すぎて思わず郵便局に走りたくなる。

 『ファシストの軍靴に祖国を踏ませるな』
 豚の横分け髪が動きに合わせてそよぐのが何げに細かい

 『百万長者』
 敵国に置いてキャリアにおいての「上がり」に等しい上院議員になったブルドックを「それで良いのか!」と投げかける社会主義のセンスがようわからん

 『予言者と教訓』
 資本主義国に対抗する国家の象徴が「労働者が振り下ろすハンマーより生じた星」という表現に大笑い。その後に登場する「ロシアすげー」の大仰な映像のわかりやすさもツボ。映画の教訓を生かせなかったのがソ連だったという30年越しのこれからを想像するとロシア人のスゴサがわかる。

 『狼に気を付けろ』
 主人公の少年が笑うことが出来なくなったように、正直笑えない。観賞に子供も動員していたと思うともっとシャレにならない。

 『電化を進めよ』
 線路脇の電信柱を会話させるに留まる宮沢賢治を遙かに凌駕するぶっ飛んだ「送電線」。肉食ってれば幸せになれると信じている風があって、取り敢えず地方へのご褒美に肉送っていたブレジネフが頭に浮かぶ。社会主義の同胞にチトー健在のユーゴでさえも小さく入っていたにもかかわらず陸続きのすぐお隣り中国・北朝鮮ガン無視なのが笑った。文革中の中国に電気なんかいらねぇもんな。「電気が来たらお湯が沸かせる〜♪」ソリに乗って現れるの少年の合唱が泣かせる。

 『射撃場』
 Aプログラム中の白眉。共産党プロパガンダとしてだけではなく、ロシア・アバンギャルドの極致としての表現に本気で洗脳される。作中、実際の映像で見せるニューヨークの街並みは全て赤いフィルターに包まれているのに、アニメーションで再現された謎の裏通りと謎のニューヨーカー達の完成度の高さは自由で平等で検閲のないどこの資本主義国にも勝る。資本主義国の住民なら日本の菊並にタブー視して間違っても手を出してはいけないねずみ殿下もここなら大手を振って無許可、な様子を見てグローバリズムに対抗するのはやはり共産主義か、などと考えてしまいそうな今尚衰えない思想洗脳力に戦慄。サントラCDがあれば購入検討するほど、サイケなロシアンジャズ(?)のサントラも良かった。

 (プログラムB)
 『惑星間革命』
 火星にまで革命を輸出しようとするのは火星がアカいから。シチュエーションもキてるけど、アニメーションもイカレっぱなし。

 『レーニンのキノ・ブラウダ』
 レーニンと体制賛美の影にちょろちょろ現れるスターリンの影が恐ろしく不気味。

 『勝利に向かって』
 ちょっと寒いから、朝からウォッカ飲んでても達成できる五ヶ年計画スゲー。

 『映画サーカス』
 注意 「ドイツのファシストを揶揄する場面では全員一斉に大声で笑わなければいけません」

 『ツイスター氏』
 「私レニングラードへ行きたいわ」「バカを言え!」←このセリフ、なにげに制作者の本心が出ているような・・・。

 『株主』
 「キャッシュと月賦」哀れな失業者は、途中で登場したロシア製ネコの貯金箱の強烈なインパクトにぶっ飛ばされて、話の主点とか誰が主人公であったか忘れられてしまいましたとさ。

 『生かされない教訓』
 「そう来たか、ベルリンの壁」。今は完全に「ベルリンの壁」の認識がないので、更に「東側からの認識」によるベルリンの壁の登場はある意味新鮮で凄く戸惑った。

 『前進せよ、今がその時だ』
 色と言葉の洪水が圧倒的すぎる。既に色彩自体が警告色の意を成しているのに更に畳み込むように流れてくる革命詩人の言葉がとんでもない刺激に。なので、一連の「濃い」アニメーションにぶん殴られ続けて衰弱しきっている大トリがこれだと正直ツライ。折角の*3強烈なメッセージとアジが頭に入ってこなかったのは残念。なので単独でもう一度観てみたい。

*1:「エロが入っていれさえすればよい」

*2:今回のイベントには意図してそのような作品ばかりを集めただけなのかもしれないが

*3:映画そのものが本来目的とする