その百九 豊島区南大塚『天祖神社』


 徹夜明けのボケた頭にはやはり神社です。都電の初電が走り始めた頃、ぼんやり歩いて出会った神社。
 境内にはいるととたんに周囲の喧噪を妨げる、と言いたいところだがまだ朝早い時間、時々すぐ裏を通過する都電の音以外音らしい音は聞こえない。この周囲のことはよく知りませんが、飲み屋と住宅地とが混在する場所のようで、時が時ならかなりの騒がしさ、その時に境内に入れば恐らく前述の様相を味わえる? かも。
 境内で、一際目立つのは、干支の「子」、全身縁起モノの白、紅を点した口がカワイイが、残念ながらこんなねずみは何処探してもいねぇ。などと文句を言うようなら不信者の戒めに動いてくれれば嬉しいこのネズミ他動くモノは見当たらない。それだけにこの「子」は異彩を放つ。
 そんなネズミに気を取られていると、視界の縁でなんか動くモノ。本殿の斜め奥にある稲荷社の、駒狐と脇侍狐と稲荷社社殿の更に奥にある藪の中からネコ登場。ようこそ、「子」に復讐するあなたを私は待っていました、とばかりにやっと見つけた動くモノを写真に収めようと近づくと近づいただけネコ逃げる。その逃げる間が、ギリギリで撮影出来ない射程を見極めたツボを付いたツボを付いた間。撮影諦めて「子」のところに戻るとネコのヤツがまた最初にいた社の裏辺りまで戻る。こやつ、かなり出来る。コイツがここまで油断ならないのは本来の好物「子」がここまで巨大化して勝ち誇ったかの如く笑顔でいるせいか。
 ほんの少し風が吹いて、手水舎に掛けられたカメの意匠の手ぬぐいが風に揺れ、ないネコ以外動きの耐えた境内、よく見ると随分ふんぞり返って偉そうな狛犬が目に付き、そして時々都電の通る音。このままもう少し、と思っていると鳥居の辺りがにわかに騒がしくなる。そこには多数の労務者さんともろ現場移動でございと言った感じのワゴン車。仕事前の集合場所になっている様子。敬意を欠かすことなければ、どんな形であれ神社がお役に立つのはよいことだ。頃合いと見て去る。もうネコはいなかった。