北海道最南端の○○

 天気予報に騙されて、陽の全く出ない内に函館を発ったは良いが、てきとーにのんびりと走っていたおかげで、松前の市街地に着いたのは朝の9時頃。休日ということで仕事っぽい人々はあまり見かけず、まだ早いせいもあり観光客はまだ見かけない。函館から国道伝いに約100キロ、当然の如く函館を過ぎた後はコンビニ・ファミレスなどというモノは存在せずよって朝食を逃したまま未だにありつけていない。逃したのは朝食だけでない。函館〜松前間の旅の中で一番大事な目的が確かあったことを思い出す。つまり「北海道最南端の岬を訪問する」こと。
 理由は3つ。以下反省点も交えて述べてみる。
その1、松前半島の線形に沿って国道沿いの景色があまりにキレイだったので見とれながらバイク運転していたこと。
 初めて北海道を走るのだからコレは仕方のないことだと思う。幸い余所見を見咎めるお巡りもいなかったことだし。
その2、天気予報は「昼から雨」だったので雨が降るまでなるべく距離を稼ごうとしたこと。
 この日渡島・檜山地方は殆ど殆ど晴れと曇り。雨は一部で一瞬しか降らなかった。要するに天気予報が全て悪い。
その3、北海道最南端の岬の名前を知らなかった
 原因としてコレが一番深刻だったと思う。と言うか目的地の名前くらい事前に整理しておけ。

 努力の甲斐あり原因は究明、松前の市街地直前で目的地を行き過ぎたバイクの踵を返し、元来た道を戻る、前に反省・究明の結果を踏まえる事とし、事前リサーチを行うべく市街地の入り口に立てられていた松前町観光マップをよく確認する。それによると松前半島の先端と思しき辺りに「白神展望広場」と言う町で管理している駐車場があるとのこと。目的地の名前「白神岬」は今度こそきちんと頭に入れておいたのでその名を冠する駐車場こそその目的地として間違いは無かろうと再びバイクを福島・函館方面へ戻す。

 途中「白神」の名を持つ集落を過ぎ、右側の海に反して左側いよいよ崖の傾斜が迫る中、覆道の手前に「白神展望広場」と書かれた看板を発見。足踏みしたがやれやれとばかりに目的地に着いたことを安堵しながら駐車場にバイクを駐める。駐車場には海に接した位置に公衆便所がありその向こうには海とそのまた更に向こうには本州の恐らく竜飛岬。確かに眺めはよいが・・・。ここが北海道最南端の地とするには何となく違和感。最南端にしてはそれを記念するような構造物もない。それに何よりも道路の先はここより明らかに南に向かっている。要はここは道最南端の地ではない。あえて言うなら「北海道最南端の公衆便所」。

 ここが目的地でないのなら目的地を目指すしかない。色々とバイク乗るのがめんどくさかったのでここは徒歩で、国道沿いに更に南へ。はっきり言って道路が全く人が通行することに考慮されていないので道路と海との短い隙間をてくてく歩いていく。やはり人が歩いていることなど考慮しないトラックやら大型特殊やらが肩をかすめるようにして通過していくため途中何度か死にそうになる。

 そう言や来るときはあの灯台はしっかりと視界に入っていたのだから、あれが岬だと気付きそうなもんだがとか思いながら灯台下暗しの例えを微妙に誤用して近づくと、実は岬、灯台の下でもない。松前街道沿い、命がけのお散歩は更に続く。

 灯台の先の覆道の中。どうやらその向こうが正真正銘の白神岬。わかんねぇよこれは。

 不親切な扱いに文句の一つも出そうになり、ようよう着いた白神岬。間違いなく道最南端です。

 判りますでしょうか?「最南端」碑の先に本州竜飛岬。ここは素直に来た甲斐がありましたと言っておきましょう。将来の日本のエネルギー危機に際して対価の払えなくなった資源の肩代わりに北海道を露助に取られここがロシア最南端の地となった時にこの写真は貴重なモノとなるでしょう。

 では戻ります。改めて「北海道最南の灯台」白神灯台です。柵がかましてあり残念ながら近くまで行くことは出来ませんでした。こんな柵くらい乗り越えて行くのは何のこともないのですが、一応よしにしておきました。
 後はひたすら「最南端の公衆便所」へ向かえばよいのですが行きと同じく肩をかすめる車が怖くここは焦らずゆっくりと。そんな感じで灯台下の覆道を抜けると。

 マムシ! マムシです。陽の光を求めて無謀にも道路まで出てきて大胆にも日向ぼっこをしています。

 泣きはらしたような赤い眼が哀愁を誘いますがまごうかた無きマムシです。コイツは間違いなく「北海道最南端のマムシ」に違いありません。

 撮影の気配に気付いたのかマムシは寄り自身のコントラストの映える道路の白線上へ移動。さすが道最南端認定を受けるだけあってなかなかの役者振りです。
 こうして暫しマムシの撮影を楽しんでいると不意に後ろからクラクション鳴らすトラックが。あ、私邪魔か。この状況から普通に通行の妨げとなっていると理解したのですが、どうも違う。トラックのおっちゃんなんか叫んでる。
 「くうか! くうか!」
 方言? 初めは何を行っているのか理解できない。その内私のすぐ横にこれから野良作業にでも行く風の格好をしたおっちゃんがトラックを横付けして降りてくる。
 「マムシじゃ! 赤マムシ言うんじゃ! 食うか? 取って食うか? 掴まえて食うか?」
 どうも、私が食糧確保のためにマムシを掴めようとしているという風に見えたらしい。そしてまだ私が事態を把握していない内におっちゃん、長靴履いた足でいきなりマムシを一蹴。
 「どうじゃ? 持ってくか? 食うか?」
 なおも繰り出されるおっちゃんの蹴り。相手が毒持ちだろうが全く躊躇しない。マムシは怯えてそのまま壁際へ逃げる。ようやく事態を半ば理解することの出来た私もおっちゃんのあまりの勢いに少し怯える。つーかどう見ても地元民でない旅行者でございと言った風体の私がマムシをどう持って帰れと言うのか? この間おっちゃんのマムシへの攻撃止まらず、食おうが食うまいが踏み潰さんとする勢い。あんまりにあんまりなのでさすがに止める。「食わないんなら可哀想・・・」。
 するとおっちゃん、執拗な攻撃をやめてあっけにとられてこちらを見る。どうも「マムシ」を「可哀想」と言うことがおっちゃんの中で繋がらない模様。少しの沈黙の後おっちゃんまさにカンラカンラと笑いだし「そうか! マムシ可哀想ってか そうか! じゃ助けるか!」 ようやく攻撃を止めておっちゃん車へ戻る。マムシ攻撃で気付かんかったが、この騒動の間おっちゃんの車、人がいなくて車ビュンビュン飛ばしてる国道の覆道の出口でほぼど真ん中に駐車。どう贔屓目に見てもアブナイ。それにおっちゃん、よく見たら隻眼。これも凄くアブナイ。
 車乗りながらおっちゃん、「兄ちゃん旅行か! どっから来たか? そうかそうか! どこへ行くんだ? そうかそうか!」 ここで私さすがに意見。「国道のど真ん中であぶねぇよ。判ったから早く行けよ!」 おっちゃん、なおも笑いながら国道を福島方面に、覆道の向こうへ消えていく。

 図らずもこの騒動の主人公であった「北海道最南端のマムシ」は壁際でしばし怯えていた後、落ち着いたのかそのままひょろひょろと何処かへ逃げていく。

 その後ろ姿に哀愁。マムシは臆病というのは本当だ。

 この間たいした時間でなかったのに随分と色んなことがあったような気がしてようやく「白神展望広場」に戻る。そしてここで少し落ち着いたところでとてつもない自己嫌悪感に苛まれる。あの「マムシを蹴るおっちゃん」の写真を撮るのを忘れた。いかに予想外の出来事に出会い動揺したとしてもカメラを持っている以上決定的な瞬間は常に冷静に撮っておかねば・・・。こんな立派なカメラを持っていて情けない・・・。今度このようなシーンに出会ったら必ずモノにせねば。けどヘビで失敗したから次に挽回するのはクマレベルでないとダメ?
 そんなこんな色々考えていたらますますヘコむ。仕方がないので「北海道最南端の公衆便所」でウンコして、あまり落ち着かないままに次の目的地松前の市街地へ向けてバイクを向けることにしました。