その百二十二 台東区池之端 『花姫稲荷神社』


 住宅地・・・本当に住宅地しかない場所でカメラを持ってウロウロする一番の目的はネコ。じっさい、のんきに日向ぼっこしているネコ数匹と遭遇、コレは縁起がヨイ。と言うことでいい加減にしておけばよいのに住宅地エリアの、古い家、新しい家、小さい家、大きい家、ちょっとお目にかかれないような家、どこででもお目にかかれそうな何の変哲もない家・・・ネコだけでなく住宅地近くは実に楽しく散歩が出来る。
 何となく辺りの地理感は持っているので、もうそろそろ上野公園(動物園)に行き当たりそうな、だんだんと池の周囲の木々が大きく見えてくる辺り、家と家の間、普通なら「この先行き止まり」と書いてあるのが自然な細い路地の入り口に古ぼけた鳥居。鳥居に掲げられた「花姫稲荷」の額、コレが正しければ路地の突き当たりは即ち社である。更に言えば稲荷である。ネコを探してキツネに当たる、此即ち僥倖といふ。
 稲荷名物の赤鳥居の回廊はここでも健在。鳥居は全て氏子の奉納だろう。このような場所のお社は全て氏子の篤志の賜、境内にある建造物は全部奉納されたモノ。「昭和53年」の文字がある改築を記念する奉納額、「社殿」「照明設備一式」「鳥居」「金五万也」・・・それぞれが思いを込めて奉納した品々、現在ここにある構造物は殆どがその時に建てられたモノだろう。30年の時を経てさすがに皆色あせて一部補修も考えても良い頃であろうが、住宅地の奥でひっそりと存する社の姿にこれはこれでよく似合う。額に描かれた奉納の品は更に続く。「清酒 壱本」「ビール 一打」「菓子パン 五十個」「林檎 壱盛」・・・菓子パン五十個はイイな。甘物は眷属殿にお下げ渡しなさるのでしょうか? お酒も好きで甘物も好きで何でもアリの花姫稲荷サマ、どうかお体にはお気を付け下さい。
 この頃は、下町の社を訪れてどーしてもしてしまうのが「武生札」の確認。既に参拝済みか、上手く出し抜けたか、密かなバトルは私の胸中でこの日も繰り広げられる。さすがの武生もこの住宅地の奥深くに鎮ずる社の存在には気付かずと見えてこの日はまんまと武生を出し抜く、しめしめ。
 社に武生の千社札は見当たらないが、並んだ鳥居の一番先頭の鳥居に氏子からの注意書き掲げた札アリ。「犬にふんをさせないで下さい 罰が当たりますよ」 至極当然の切実な訴え。私はこの注意書きを見て思ったのは昨今のモラルの低下ではなく、最後の文字「よ」、「当たります」で切らずに「よ」と付け加え呼びかけることが物凄く怖かった。