『鉄本』

 毎週のモーニングには『誰も寝てはならぬ(サラ イネス)』『とりぱん(とりのなん子)』『エレキング(大橋ツヨシ)』『ポテン生活(木下晋也)』『かみにえともじ(本谷有希子榎本俊二)』『ひとりごはんの背中(能町みね子)』『35才のハローワーク(梅吉)*1』がないとイヤなんです。うち『鉄本』にはとりのなん子さんと大橋ツヨシさんと能町みね子さんと梅吉さんが書き下ろしてますから(一人だけ「切り下ろし」)割りはすごく良いと思う。現在、モーニングを買ったら真っ先に読むサラ イネスさんが『鉄本』にないのは残念だと言いたいがふつーに考えてこの人は無理だろ。鉄道ネタの登場人物に何故かヘンリ・トイボネンとかユハ・カンクネンとか、と云う以前にこの人鉄道絶対似合わん。木下晋也さんの『鉄本』は読んでみたかった。
 その代わりと言っちゃ何ですが大好きな松本英子さん、寄稿してます。山の中歩いてます。解ります、あのツラさ、心細さ。夏焼集落の神社、私も目指したのですが時間がなくて引き返したのでこの部分は正直激しい嫉妬に駆られました。その分私は飯田線全線乗り通しで関東に帰ったのであいこだな、って相手がテツじゃないと全然嫉妬されないし、実際嫉妬されると困る。
 それだけでも買う価値あると言ってもヨイのでしょうが、他のラインナップが私好みで当に心憎い。寄稿者の中でも大物がうえやまとちさんとか安田弘之さんとか吉田戦車さんとかというところも何というか、搦め手から大突撃されるようでイイ趣味してると思う。ともかく安心したのが、序列的にモーニング系列一番の大物の人のエラそうなマンガが載らなかったこと。本当に良かったと思う。
 各マンガ内容的に、「鉄オタの編集者に閉口しながら引っ張り回される先生」の構図が目立つ。と書いて判るようにこの『鉄本』、書き手と作り手がガチのソレで両者が取っ組み合って作ってそれを更にアレなのが読んで唸るという類の本ではなく、「興味無し」から「せいぜい中級」者向けに視点を合わせて描かれているのでその辺は読みやすいかも。ただのることのみを描くのではなく、色塗りとか廃線とか「ノリ」にこだわらない興味深いお話も。一方で滅びた路線の心象を描いた幻想的な作品から同じ想像の上での路線でも大分妙な路線、作者だけが体験した鉄路に込められた物語まで、基本「鉄」に因んであちこち回るお話ですが、ずいぶんとバラエティーに富んで、飽きませんでした。勿論旅のガイドにもどうぞ、『鉄本』。
鉄本 ―テツモト― (KCデラックス) (KCデラックス モーニング)

*1:連載終了。現在は『The★本音マン』連載