『吸血鬼ゴケミドロ』

 副機長として杉坂(吉田輝雄)が搭乗する飛行機に爆破予告がされた。機長の命令によって乗客の荷物を調べているとその中の一人、寺岡(高英男)が突然拳銃を取り出し客室乗務員の朝倉(佐藤友美)を人質に機を沖縄に向かわせようとする。混乱の中機は突如として現れた謎の光に包まれ制御不能となりいずこかへ不時着する。生き残った、どれも一癖ありそうな面々、異常事態に当たり口々に勝手な主張を繰り返し混乱の度合いは増す。そんな中、気絶していた寺岡は目を覚まし再び朝倉を人質に取って機外へ飛び出す。するとそこには巨大な光る物体の姿が、やがて寺岡はその物体へ吸い寄せらるように歩いて行き、物体より現れたアメーバ状の生物が額より寺岡の体内に侵入していく。
 
 これがタランティーノを魅了する・・・確かに濃いわ。
 何が濃いかってテロリスト→ハイジャック犯→吸血鬼と書くだけでも素敵な役をこなしてる感満載の高英男、役そのものの濃さもさるところながら高さんのご面相の造形が元々濃いものでその役と場面の濃さとで3倍増。「吸血」モノというと「吸血鬼の男が美女の首筋に噛み付き・・・」と言う構図が想像しやすいのに本作の吸血鬼、高英男が首筋に噛み付くのは「殆どが男」で「しかも皆おっさん」という凄まじい構図ばかり。中でも金子信雄に噛み付くところなんか血じゃなくておっさん成分の光る脂分を吸い取ってるようにしか見えず本当にアリエナイ*1。作中での金子信雄は極限状態においてただ自身のエゴを発露するだけに留まらず、それまで内包して頑なに包み隠していた愛憎相半ばする複雑な心情をこの異常事態を機に上手くはき出す様子が凄く上手く表現された演技(と顔のテリ)が光り格好良くさえある。挙げ句の「おっさん同士の抱擁」なので「印象深い」と言う意味で意外に美味しいところをさらっていたりしている。
 「かくて地球は終わってしまいましたとさ、チャンチャン」的なラスト、私は特撮モノ、或いはテレビアニメには疎いのでこの「その後、あちこちで使い回されて陳腐なオチとなり果てた」との事実は同行の友人からのレクチャーでうかがう。つまり私は無知。それが故にこのラストの結末は面白くも感じた。何故かというと、普通「世界を覆い尽くすキノコ雲」は「地球の終わり」のサインとされる場合が多いのに、本作ではその後「(更に)地球に向かう多くのオレンジ色に輝く円盤」でラスト、「(潜在的な核の脅威による)キノコ雲」場面を地球の最後にしなかった事は人智(人の造った核)越える存在である「地球外生命体」の脅威を強調しての事だろうが、そんな浅はかな読みに鉄槌を入れる 「地球は終わり」の演出は「地球に向かってオレンジ色に輝く無数の円盤が飛来」する場面。このオレンジ色の物体、仕組みは判りませんが人を呼び寄せる効果があり、「その」最中、不思議なコトに誘い込まれた人は光り輝きブレてしまう。この「ブレ」のシーンがやたら長く「随分と冗長に不思議な場面を流すモノだ」と思っていたらこれも事後のレクチャーによると「カメラのミス」だとの事。それにしても、世の中判らないコトだらけだ。
 判らないコトだらけと疑問を湛えて臆面のない本作、場面も殆どが「採石場」とそこにある(不時着した)「飛行機内」と云うコトで、いかにも「低予算でござい」と見せかけて、飛行機のセットなんかは結構しっかりできている印象。墜落したヒコーキのコトなんか知るか! とばかりに乗客達のエゴのせめぎ合い、オマケにエイリアン襲来と、予想外に脈略無く起きるの出来事がキてるのに、なんつうか、飛行機のあまりにどっしりと良くできている本物のような鋼鉄然とした様子が時に密室の恐怖を、時に見えない敵への恐怖を、良く伝えてくれる必要以上の役割に感心した。それだけに、自殺志望の男が持ち込んだダイナマイトで自爆、機の側壁が破壊されて大穴開い(てついでに吸血鬼化した高英男も死亡し)たシーンは悲しかった・・・。それにしても「ゴケミドロ高英男の額から入り込む*2」シーン、高英男の人形は「あの眉だけは譲れん」とすっごく頑張ったんだろうなこと、尊敬に値する*3。最後、あれだけ「何処に墜落したのか判らない(どう見てもただの採石場!)」「所在が判らないので捜索を打ち切った」「どんなに逃げても採石場を抜けられず、そのウチ吸血鬼が追ってくる」つまり、途中まで密室的恐怖の中で繰り広げられていた劇が吉田輝雄と佐藤友美だけが残った段階であれだけ抜けられなかった採石場を簡単に抜け出すって(しかもすぐ近くに高速道路のインターがある、結構開けた場所・・・)、この「今までの全悲劇全否定」と云うある意味ぶん投げっぷりはは凄くてこれも感心(半分唖然)。そこに上記の「かくして地球は終わり・・・」に繋がるのですが、確かにこれは後追いしてパクリたくなるわな。映画のオチがこうなので感想の最後もまとめません*4

*1:吸い終わって立ち上がった高英男のソース度合いが更に増していたらどうしようとか、「摂りすぎた」とか言って余分の脂分が額の傷からどろりと流れ出しやしないかとドキドキしながら見ていた

*2:ホントは額からゴケミドロ(スライムみたいなヤツ)が絞り出ているのを逆回し

*3:にもかかわらず、後半別人で同様のシーンの段では構図からゴケミドロの流れ方まで全く同じでどーしてこの人形の工夫が構図等に生かされない? と悩んでしまう

*4:いつもだろ! とか言わないどいて下さい