只見線上条駅

 またもや駅寝です。今度の駅宿の舞台は只見線新潟県側の駅、上条駅です。
 今回何故上条駅を選んだかというと、
 1 只見線の始発列車を逃さないため
 2 屋根と外壁・扉の付いた待合所がある
 3 トイレがある
 以上の情報をWEBで掴んでいた為で、つまりこの条件は「駅寝最低限条件」と云うコトです。これで寝袋があればどこでもばっちこいです。ただし、上の条件見れば解るように「(平面縦長)ベンチ」がありません。つまり今の季節は床に敷くモノがないとキツいです。と云うかちょっと無理だと思います。

 まさか週に2度も上越線の各停で土合駅を通過するとは思わなかった椿事はさておき、県境越えて、付近で最大の駅越後湯沢に30分調整停車の嫌がらせも乗り越えて、辿り着いたのは小出駅

 偶然だと思うのですが、私の乗っていた車両はヒマそーな連中が占拠しているような状態であちこちのグループがそこそこに賑わい。その方々の悉く降りて行った小出駅、なかなかの大きさ、賑わいを見せる駅のようで駅寝は無理そうです。その小出駅、唯一分岐する只見線のホームは今乗って来た上越線のホームと大分離れてあります。上越・只見、両線間に漏れなくホームが揃っているのならかなりの規模のターミナル駅となるでしょうが、実際のところホームなどなく真っ暗闇が広がるばかりです。恐らくその間には待避等で使用する線路が敷かれていると思われるのですが、各線に旅客列車も貨物列車も存在せず、何も存在せんのだから必要はあるまいと照明もない、結果そこの間ただ空虚な暗黒が広がっているようにしか見えず、漆黒の遙か向こうにある只見線のホームが何かキタナイ物でも隔離するかのように存在しているのが非道く印象的で、そのキタナイ物へは足下の暗闇を渡る長い跨線橋を伝っていきます。何せ只見線ですから一本逃せば次は明日? の世界、乗り換え時間に余裕はあるモノの多少は焦って足を急いだ方が良さそうです。お陰で、小出駅下車、明日の只見線行を楽しみに改札を降りる観光客を尻目にまるで近づく者も殆どいない只見線ホームへ一人世捨て人の如く向かうと云う独善的優越感を浸るヒマもなく駆け足で跨線橋を渡ります。

 只見線只見行き最終列車は唸りを上げて待っていました。やはりキタナイです。おまけに古そうです。更にはとても重そうです。総鋼製の重い古い体できっつい勾配の六十里越を毎日毎日に上り下りする様は健気できっと涙が出るでしょう。誰も見てませんが、と言うか見ることができませんが。
 只見線の最終列車には高校生が三人、どこで降りるのかは知りませんが恐らくこれが只見線の現実です。そんな現実に夢見心地の旅人が闖入したのがそんなに珍しいのか、好奇心旺盛なお年頃の少年はじろじろとこちらを見ています。疲れていたので知らない振りをしておきましょう。小出を出て数駅でその少年は降りて行き、後には広い車内に客は私一人、2両編成の後部車両だったので車掌室に車掌。只見線、ワンマンでなくまだ車掌扱いなのです。車掌さん、検札に来ました。正直ナメてた。そんなこんなで1時間足らずの旅程の上条駅下車。

 何もやってないのに知らない内に一方的にナメられてた車掌さんの「ありがとうございました」の声に押されて、気付いたらもはや走っても間に合わないくらい先を只見線は只見へ向かって唸りを上げて去っていきました。

 さて目的通り辿り着いた上条駅。便利なので上の写真を使って駅周囲の様子を説明しましょう。正面ホーム左の柵を挟んで隣にあるのが駅舎と云うか待合所と云うか、ともかくおそらく今回の主役。その奥の薄暗い建物が便所で、この駅での駅寝の命綱と行っても過言ではありません。写真では切れてしまっていますが、その奧にあるの駅のご近所床屋さんがあります。周囲意外と建物多く、この床屋さんなんかつい先程までちょきんちょきんやっていたような様子でお店を片付けております。この点「只見線の駅」=「どーせ周囲何もないだろう」と上条駅を正直ナめていましたので反省しきり、反省はよいとして駅寝するにはちょっと衆目が気になる立地、この点前回*1とは異なり積極的官憲発動率が高そうで、陽の高いウチはおろか辺り真っ暗になって終電行った程度の時刻では周囲人家の活動率高くしばらくは目立たぬようにしていた様が良さそうです。
 その目立たぬよう息を潜めながら尚も注意深く辺りを見回すに、床屋さんの他にもいくつかの商店。材木屋さんがあって駅前通りが只見線と並行する国道にぶつかる両脇に酒屋さんとガソリンスタンドさん。酒屋さんとガソリンスタンドさんに飲料の自販機。これで小銭さえあれば飲料にコト欠かないと思いよく見るとガソリンスタンド側の自販機にはカロリーメイトが売っている。何気に最低限の食いモノにも不自由しないことも発覚。もひとつ特筆すべきは酒屋さんの方、お店の目の前に「石清水」なる看板あり、一塊になった小さな岩の間にちょろちょろと清水が湧いている。飲んでイイのか?ご自由になのか? 清水の前に湯飲みが置いてあるので間違いなくご自由になのと踏んで遠慮無くいただく。ああ美味し、だけでなくつまりココ上条駅での駅寝は口に入れるモノという点で意外な充実を見せる。駅寝駅寝言ってその実何のことはない、山裾にある人里の外れで野宿するという環境と何ら変わらんのだ。実際目の前の国道には時々車が通り、決して未だ宵の内であること教えてくれて。

 道沿いに官憲の巣。

 集落の外れにはなんか食堂だか飲み屋だかがあり、なんかどんちゃん騒ぎの音が聞こえてきたりする。嗚呼、近くに食堂があると判っていれば来る途中の電車で駅弁の食いだめなどしなかったモノを・・・。外気温5度はまだそんなにたいした寒さじゃ無いのでしょうが、まもなく訪れる厳しい冬の気配に今夜の宿の厳しさを思い、そして官憲の目を思い駅方向へ戻る。冗談でも何でもなく、何か目立つことしでかしたらすぐに官憲が飛んでくる場所にあることを知ったのもちょっとした収穫でした。

 ところで駅前商店の面々。よく見ると「酒屋」「材木屋」「ガソ屋」は同じ名字を冠している、どうも一族経営の様子。駅前の一等地に多くの店舗を構えているのだから昔はブイブイ言わした地元の名士と言った感じなのでしょうか。名士とかそんなことより私が気になるのは未だ木造の酒屋さんのお店の造りが素敵でいたく楽しく鑑賞し得ることです。昼間来て何か買いたかったなぁ。

 人ん家に向かってあんまりカメラ構えて官憲の登場しようモノならまためんどくさくなるのでここらで大人しく逼塞していようとヤサ*2に戻ると丁度小出行き最終列車が停まっていました。これが行くと本当に何処も行けなくなります。

 その最終列車が行った直後でしょうか? 駅前唯一の独立資本と思しき床屋さんの入り口に人の影。しかもこちらを窺っているような? これはマズイ。急いで隠れよう、と云ってもこちらの駅舎も終電行っても電灯付けっぱなし。と云うコトは一晩中付けっぱなしと云うこと。これは油断できません。いい加減、段々寒くなってきたこともありココは駅舎へ潜り込みましょう。

 改めて見ると悉く「田子倉」が何かしら引っかかっている只見線只見方面行きの時刻表。明日その鬼門を突破するためにもういい加減寝ましょうか。
 と、ココで大変なコトに気付く。駅舎に二方向に付いている扉、その内のホーム側の扉が完全に閉まっていないのです。そしてその隙間から冷気がどんどん入ってくるのが座っててもワカル。これはマズイ。どういうコトかと云うと、このサッシ製2面扉、片方の扉を閉めると既に閉まっているもう片方の扉を引っかけてしまい結果ほんの少しだけ閉まっていた方の扉が開いてしまう。ほんの少しだけ開いたもう片方の扉を閉めても同じように今度は先程閉めた側の扉を引っかけて少し開く、開いた方の扉を閉めるとまた片方の・・・とこの繰り返し。僅かな隙間とは云えこの冷気を抑えるべく何とか対処法を考えなければ恐らく眠ることが出来ないは必定、ただどうやっても「自動閉まる開く」の繰り返しは自然には改善のしようの無く、或いは紐みたいなモノでふん縛るか何か長いモノを立て掛けてしんばり棒代わりに強制的に閉じてしまうことも考えたが、万一駅舎のアヤシイ動きを察したご近所の地元民さんらが夜警団をくんで押し寄せたり或いは公権力にすがり官憲の来襲を受けた際、「ふん閉まっている」コトは大変不利な要素となりかねない。ここは大人しく、扉他方が動かないようにそっと閉めてそっと離れましょう。こうすれば静かに過ごすコトにもつながり自らの戒めとも出来ますし。このカラクリ、もしも外の線路を貨物列車なり轟音を立てて走り抜けていく列車のあろうモノならたちどころにして瓦解してしまう非常に脆弱なカラクリであるのですが、そこは只見線、最終列車が行ってしまった後この線路を走る列車など間違ってもありやしやせん。嗚呼よかった、やはり東日本での駅寝は只見線よろし。

 ところでこの駅舎、正直余りキレイではありません。寝床*3を敷く段になると尚のことこの汚さがワカルのですが、特に夥しい虫さん達の死骸、クモの巣、ホコリの類がコンクリの床に積もっていて、コイツ等を寝てる時にでも吸い込んでしまおうモノなら急性の喘息にでもなりかねない勢い。これはよろしくないと云うコトで寝る前に辺りをお掃除。駅舎の角端にお箒とチリトリさんが立て掛けてありますので使わせてもらいます。これだけ人里に近い駅舎なのに余り使用されている様子の見えない割合キレイな掃き掃除セットでもって心を込めてこれから使う寝床をお掃除します、サッササッサ・・・。さて、一通り掃き終わりチリトリさんに集めあそばした塵芥を外へ放りますガラガラ・・・あ、扉開けてしまった。また閉め直し。

 予想通りの展開なのですが、案の定駅舎は一晩中電気付けっぱなしです。こんな事も予想していましたのでアイマスクはきちんと持参です。しかもSuicaペンギンの緑仕様のヤツです、管内駅寝に相応しく、売れ残りの最後の一個だったのですがまさかコイツも管内タダ寝で使用されるとは思ってもみなかったであろう、どうせなら仕事の出来そなビジネスマン辺りに新幹線内で使われたかったか? 調子乗ってやたらグッズ作りすぎるからだざまーみろー、とそんな風に調子乗ってた逆襲か、夜の1時を過ぎた頃だろうか*4凄まじい底冷えで寝ていられなくなる。寝袋内に入れている白金カイロの暖気が全然効かないのだ。扉はちゃんと閉まっていて風が入ってくるわけでもないのに、これが冬の駅寝かー。仕方なく更に多く新聞紙を動員して何とか急場をしのぐ。それにしても土樽駅で会った「長野さん」はちゃんと元気に帰宅することができたのだろうか?

 起床は初電の1時間ほど前。お外当然の如くまだ真っ暗。駅前の家々も真っ暗で明かり付いてナシ。これなら比較的堂々と行動できる、と云ったところで出来ることと云えば朝飯のカロリーメイト食って便所行って歯磨くくらいの・・・お水はまた例の「石清水」から拝借しよう。

 扉を開けると冷気が一気に入り込んでくる。寒い寒い震えていたのに外の冷気に比べれば本当にカワイイモノだったのねと改めて屋根があることの偉大さを実感する。

 小出発只見行きの列車は定刻通りに上条駅ホームへ。晩秋初冬の頃とは云え、まもなく霜の降りる時期にこの駅で駅寝したコトとこれから向かう田子倉駅徒歩行とどちらが過酷だろう? 同じ老雄とは云え昨夜乗った車両とは微妙に異なる列車には昨夜上越線でやたら騒がしいまま小出駅で降りていった面々のみが乗客として乗っていた。あの時刻に只見線のホームに向かうことに皆妙な顔をして見送っていた奴が本日中途半端な駅で乗り込んできたことにまた妙な顔をして迎えいる。ある程度、同好の交わる部分もありそな集団であろうが色々と面倒くさいので別の車両に乗ることにする。が、この先他に乗客の乗り込んでくる確立は限りなくゼロに近いこともあり互いの行動はイヤでも筒抜けになると思う。その微妙な距離感の中で私が田子倉駅で降りる時彼らは間違いなく三度目の妙な顔をすると思う。よう知らんけど。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sans-tetes/20101107

*2:正式には駅舎と云う

*3:シュラフ・下敷き・新聞紙その他

*4:ちなみに9時半頃にはさっさと寝た