田子倉駅・大白川駅間の六十里越 田子倉駅編

 前日の宿*1があまりにあまりだったのであまり疲れの取れた気もせず、けど数少ない只見線の列車が来ちゃったので乗ることにした乗ってしまったこの日のマトモな記憶は目的地の一つ手前大白川駅から始まります。

 理由はよくわかりませんが只見線田子倉駅で降りてお隣の駅まで歩いて向かうことになったこの日、頼みの綱の只見線、これから向かう田子倉駅手前の大白川駅で長めの停車時間を設けています。まるで新潟・福島県境越え、通称「六十里越」の難所を前に旧国鉄時代からの老雄ディーゼル列車が「かったり〜わ」ってだだをこねている、と云うワケでは全く無くただ単に只見駅小出駅行き列車の行き違いのために行き違い施設のある当駅で時間をとっていると言うだけです。この待ち時間を利用してちょっと周辺を見て回ることにします。

 大白川駅周辺の名所と云えば駅構内只見側に佇む蒸気時代に使われていたと思しきこの鉄製の給水塔でしょう。

 どう見ても有効な用途があるようには見えませんが錆びに塗れた全容、どの角度からフレームに納めても絵になります。それだけで充分に存在の意義を供しているこの鉄櫓はこのまま朽ちるまで佇んでいるつもりなのでしょうか? 出来ればそうあってもらいたいと思うのは私だけではないはずです。

 東の方・・・つまり福島側、更に限定的に言えば田子倉側から明けてきた陽の漏れ出でる頃、列車もようやく発車です。この日、新潟福島共にところにより大雨の予報、そんな中で多少は保つんじゃないかと期待させてくれる仄かな光は

 長い長い六十里越トンネルによってすぐに視界から塞がれてしまいます。光だけでなく線路のすぐ眼下を流れる破間川、川両岸の妙なえらいこっちゃな渓谷の風景、そんな中をゆるりゆるりと登って行く列車、乗ってみなければ判らない、乗る価値充分。峠のキツい傾斜をゆっくりゆっくり一生懸命登って行く列車はトンネルに入るとさらに轟音強く、ある地点を境に急に轟音緩み峠越しの終わったコトを後はそんなに力込める必要のない下り路の軽快さ、油断をしているとトンネル終わり、右手に水面、左手にガケ、頭上を無骨に覆うナゾの屋根、田子倉駅へ到着です。

 かつて在原業平はかの東下りの際、遙々この地まで来たことを「おとにきく だごくらえきの やえむぐら わがおもうひとは ありやなぎやと(訳 「かの有名な田子倉駅は所々絡まった蔦に覆われてひどい有様だ。果たして私の想い人は落語『二人旅』に出てくる旅の飯屋『やなぎや』に無事着いただろうか?」)」と云う歌に詠んで遠い都を偲んだといいます。うそです。ともあれそれから幾星霜、歌枕の地は今や誰一人として降りる人のいない秘境駅となり果て、今や過去一度もなかった往事が偲ばれるばかりですまだ云うか。

 こーゆーえきで降りる時注意しなければいけないのが列車の運転手、車掌共に降りる客の想定が全くないというコトです。さすがに勝手に通過は無いでしょうが、あと数日もすれば冬期休業期間に入ってしまう当駅、万一という事態にも備えて降車時は一番最後の車両から降りて車掌に降車をアピールしましょう。

 そうこうする間に列車は去って

 後に残るのは悔悟の静寂

 初めて田子倉駅に降り立つと、先程のトンネルに入るまで仄かに見えていた晴れ間の徹底的に消え失せて、ご丁寧にも駅の屋根をやたら叩き付ける雨音が金属質の音を立てて秘境感、と云うかとてもぞんざいな造りの当駅の造詣を十分すぎるほど語ってくれます。その構造のせいでしょうか、ホーム有効幅がやたら長く感じますがどうなのでしょうか。

 誰に向かっての案内だか、それでもきちんと名所案内

 誰に向かっての明かりだか、階段にはきちんと蛍光灯。

 ベンチはきちんと「駅寝仕様」。駅寝の辛くない時期が楽しみです。俺はやんないけど。

 無骨の一言。この光景に雅人の業平はさぞや呆れたでしょうもういいって。

 壁模様がおされ

 気後れせずに階段を上ると外の光が差し込んでくるのですが、その先の入り口が・・・もしかして行き止まり? やっぱこの造りは駅の外に出るようには出来てないと云うコト?

 心配御無用。反対側になにやら穴が開いている様子。

 それにしても本当に駅かよこのふざけた構造。全く信じらんねえよ。

 穴の外はいきなり道路、そして雨

 やっと駅舎(?)全景。正直駅とはわからん。
 
 秋風も避ける隙無し田子倉

 反対側から。塞がれている大きめの入り口。やはりこっちまで開けてしまうといらんもんまで入り込んでますます駅と判らなくなるからでしょうか?

 対岸、枯れた山にへばりつく廃墟のような国道252号線を望めますが、

 周囲の風景基本的にずっとこんなで線路や道路のあるかないかの違いだけ。 

 離れて再び撮影。

 ぐるっと回って「廃墟みたいだ」と言いたれたダム湖挟んで対岸の国道から眺めると、やはり異様、イヤもはや異常と言ってよいでしょう。

 裏から見ると壁なしの手抜き、ハリボテのセットとか顔出しパネルの裏側並に惨めな外観、ナめてるんでしょうか?

 もういい加減キリがないので田子倉駅についてはココで終わりにしますが、いってみて初めてワカルホンモノのスゴサ。所謂もうこれだけでおかずナシでご飯何杯でもイける状態と云うヤツです。お出での際は是非列車で。(つづく)

*1:正式には駅舎と云う→http://d.hatena.ne.jp/sans-tetes/20101125