拾遺 八戸市鮫町蕪島『蕪嶋神社』(ちょっとグロ注意)

 「鮫」と云う地名はそれこそ誰かが思ったまま、思いの丈をぶちまけているようでなかなかよい地名ですね。誰に言うともなく言ってみます。その「鮫」町内は八戸南東の太平洋に面した一帯で、この度の東日本大震災津波の被害を被り、八戸市内で最も被害の大きかったところです。この鮫地区に含まれて八戸漁港の南側、今は陸続きで繋がっていますが「蕪島」と云う昔からウミネコの繁殖地として有名な島には天辺の所に神社があって、なんだか神様を奉る傍らで物凄い数のウミネコが人に全く警戒せず繁殖行為を営んでいると云うコトで昔から有名なところだそうです。Wikipediaに「(地震で)壊滅的被害」との記事が出ていたにもかかわらず現地八戸市の情報等に特に蕪島への参拝を自粛するよう旨の情報もなくどうも普通に行けるらしいと云うこと、Wikipediaも遂に某掲示板のようにウソをウソと見抜けない人が利用してはいけなくなってしまったか、とこの真意を確かめるべく行ってみると、地震とか津波とかそういうこと以前に結構ヒドイ事になっていたので報告します。

 蕪島最寄りの駅は八戸線の鮫駅なのですが、朝早く宿を出て(追い出されて)八戸名物の朝市をウロウロしていたため、結局そのまま陸奥湊駅辺りから八戸線にほぼ沿って歩いて行くことにしました。経路は八戸線を目印にしやすい比較的低い場所、海岸線と八戸線との中間辺りをとぼとぼと歩いて行ったのですが、白金駅を過ぎて海産物加工場が多く見えてくる辺り、建物の下部が尋常でないことになってることがニブイ僕でも解ってきます。冒頭のネコはそんな場所を忌々しげに徘徊していた可愛げのないヤツでした。けど僕は嬉しいよ、君が難を逃れることが出来たことを。

 旅行に出かけたのは震災から一ヶ月以上過ぎた頃で、テレビ等で見せつけられたアノ状況がそう簡単に忘れられるはずもなく、それ以来続いているいたたまれない気分が旅行程度で緩和するとは端から思ってもなく、

人的被害の比較的軽微であったと聞いてた八戸市内、それでもとても軽微とは思えない状況にいたたまれない気分はいや増します。岩手、宮城の方はこの比ではないわけですから。

 テレビの画面越しのあの様子が再び蘇ってきて少し現実感が希薄になりながらとぼとぼ歩いていると周囲イヤにウミネコの姿が増えていることに気付きます。つまりここらではアレがノラネコなんだな

 的確に、周辺の優位図ウミネコ>カラス

 人の前でさえ物怖じする様子を見せませんウミネコ

 そうこうしている内に見えてきたのがコイツらが大挙して住まう今回の目的地です。

 鮫漁港から蕪島へ至る道々、海産物屋さんや食い物屋さん、更に民宿、もちろん一般の民家さんが軒を並べる観光地と市街地とがごっちゃになった好ましい町並みなのですが、その尽くが軒並み津波にやられていて、震災の直後はおそらく膨大な瓦礫に埋もれていたであろう鮫漁港の市場がほぼ綺麗に撤去が終わり、にもかかわらず人気の全くない*1ただただがらんとした空間が広がっていたのに対して、個人宅ではまだまだ片付けが終わらずこの日も早くからおそらく避難先から通ってきているであろう人たちが多く黙々と作業をする様子、一方で蕪島種差海岸と八戸有数の観光地を要するこの鮫漁港沿いの道路を行き交う観光目的らしい自動車との対比がなんだか複雑な景色を描いていました。非常に奇妙ですけど、現実。

 瓦礫の撤去、整備の優先順位が大後回しにしなさい「不急不要*2」の観光地との態度が見て取れます、蕪島足下は

 ひどいことになった状況が

 最低限、危険でないことの確保だけしておいて

 ひどい状況はまだまだひどいままでした

 さていよいよお目当ての蕪島とそのてっぺんにあるお社に参拝しようと思います。写真を見て解るようにこの時点でもうどうやっても鳥どもを避けてフレームを構えるなんて芸当は出来ない有様になってます

 と云うのも「蕪島内」においては「天然」ウミネコ保護のためエサやりは禁止。ただし目の前の駐車場等「蕪島外」はその限りでなく、物売りのおばちゃんがウミネコ用のエサ(かっぱえびせん)を売りに来ているため、そのエサ目当てのトリども、袋を持った人が来ると集まって待機

 そうなると収拾付かなくなるのでエサやる気のない人はさっさと島へ入るの正解。鳥集まってきてるのにぼーっとしてると食後のトリが容赦なくなんか落としてきますし

 羽あるから普段は油断してますが、近づいてみると思いっきり爬虫類顔だと云うのが解ります。更にウミネコの場合嘴の先が赤い、眼も赤いと完全に人殺し顔でコワイ。

 ここもう既に蕪島とてっぺんにある蕪島神社への参道に入っているのですが、すぐ目と鼻と先で人がいようがいまいが関係なく、所かまわず堂々と抱卵してるのが蕪島ウミネコの特徴です。横から見た人殺しみたいな爬虫類顔は怖いけど正面から見た顔は結構可愛かったりします。

 正直言ってトリの怖いのは顔だけじゃなくて病気。インフルエンザとかの超大物でなくても鳥の羽で顔なでられたのがきっかけで気管支喘息が再発した話なんか聞く。その怖い鳥が飛んだり跳ねたり卵暖めたり

 ・・・ケンカもしてる、一応神域だろうが当然のごとくお構いなし。
 
 狛犬涙目

 この手水場はちょっとイヤだった

 境内入っても熱心な親鳥所かまわず巣作り抱卵、この場所にベンチを置く意味がわからない

 一方で時々こんな風に育児放棄してるヤツもいて笑えない。

 ウミネコ愛で建てた像碑も鳥にかかればただの足場。それにしてもなぜわざわざソコに止まる?

 もうさ、境内になんか建てるの止めた方がイイ、と思うのに神社も意地になっているんでしょうか?

 そもそも神社に来たわけですから、周囲のお使いなんだか眷属なんだかよくわからないで傍若無人カマしてるウミネコ様に気を取られることなく当初の目的を達します。こちら蕪嶋神社、観光地として有名なだけあっていろいろなウミネコ系お守りとかある様子でした。「ある様子でした」とか何となくやる気がないのは、やはり屋根のないひとつ所に留まっているといつフンの餌食になるか分からず、上を見ながら真上のトリに注意しながら動こうにも上を向いた瞬間にフンを喰らえばそれはもっと具合がよくないと、一方で足下所かまわず抱卵しているトリ共を踏んでしまうのもの申し訳ない、とヘタに動けず当然止まれず右往左往しながらまたこれがそこそこの数が訪れるそんな広くも境内、気付けば辺りの注意観察あまつさえ参拝さえもおざなりになんとしたことか肝心の御祭神の御名を見忘れてとある、今挙げたウミネコ害、神域でウミネコ害と云われるのは甚だ心外だろう、ウミネコ禍、これもキツいウミネコおいたとしておこう、このおいたを避けるに丁度良い場所を見つけて必死で移動したので。後でWEBとか色々見ると御祭神はスサノオさんの娘神の市杵嶋姫命(イチキシマヒメノミコト)と申します女神で、弁財天の本地仏かとも思われます。

 さて、御祭神の御名の確認さえ怠って逃げ込んだ先は社務所のおとなりにありますガラス張りの格子戸、こちら「ご休憩場所」と貼り紙が付いていますがどういうワケか誰も利用していない。せっかく屋根あってトリのおいたを避けることが出来るというのによくわかりません。ともあれ私は利用させてもらうこととしましたが、中に入りますと

 なんかこのような冊子が置いてあります。文字通り蕪島周辺ウミネコの観察記録を兼ねたアルバムなのでしょう。面白そうなので開いてみます、すると

 最初のページからでなく途中のページをいきなり開いたのがいけなかったのでしょうか? いきなりこんな写真が飛び込んできました

 こちらの冊子、どうやらただ単に表層的にウミネコたちの様子を写したモノではなく本当の観察記録として文字通り真に迫ったウミネコたちの実情を余すことなく写真に収め、そしてそれを余すことなく参拝者の皆さんにもお見せするという非常に学術的な側面を持って、真面目に、ある意味非常に正直な意図を持ってこの場所おかれてご披露されているのでしょう。その直向きさと無神経さにはとても笑えません。

 笑えないと云えばこの一文なんかさすがというかやはりというか、ネコはネコですな、連れてきちゃいかんですよこんなとこに。画はさすがに自粛。

 これもちょっと・・・。けどもっとぐちゃぐちゃもありましたので、これ以上は自粛。

 襲われて一番にワリ食うのは弱いヒナですが、成鳥だと言ってもそこは自然界、油断も隙もなく3羽で1羽をボコってる図。

 バカにしてるみたいに淡々としたコメントにストイックさと深読みを感じずにはいられない交尾の図。

 これらの記録、実際は春夏秋冬四季を彩る蕪島のとその周囲の様子を写しながらそこに住まうウミネコたちの生活の様子を丹念に余すところなく追った観察の記録となっていて鳥類限らず生き物好きならなかなか興味を掻き立てる内容、私が紹介するとこうなりますがちゃんとした内容です。

 お茶もお菓子も出ることもありませんがコレだけで充分お腹いっぱいに楽しめてふと外みると早速なんか始まってます。実は只今の時期、産卵と子育て真っ最中の時期で、ウミネコさん達の所かまわずの所作は大きなサイクルの一端として現在非常に大いに意味のある時期を過ごしているというワケなのです。本来なら菜の花が一面に咲く時期と重なりそれは絵になる景色となるはずなのですが、今年は開花が少々遅れている様子とこの日の曇り模様のせいで結構殺伐とした景色になっていたのが非常に残念です。

 邪魔しちゃ悪いので終わるまで待ってたらなかなか終わりそうもなかったのであんま近づかないようにそっと出てもあんまり気にならない様子で気を遣って損したらお外は大粒の雨。本当ならこのまま種差海岸の方まで歩いて本数少ない八戸線で帰ってこようかと思いましたが、止めました。止めて鮫駅から乗ろうと思ったらこちらも充分本数少なくて非常に難儀しながらも、車窓から蕪島が見れないのを非常に残念に思いながら、バスでなく本数少ない八戸線を使ってわざわざ陸奥湊駅まで行くことを駅員さんに不思議がられながら列車を待っていました。がんばれ鮫駅以南。

*1:この日は祝日でしたが

*2:今や鉄+歴だけが使う死語です