東津軽郡外ヶ浜町三厩龍浜「民宿 津軽海峡亭」

 三厩駅前を出発したバスは嵐の中をひた走りに北の方へ。二人掛けのバス席に客が一人ずつ腰掛ける車内は半分くらい埋まっていて、当然のことながらと言うか私以外は皆地元の人。その地元の人たちが最寄りのバス停で少しずつ降りていく。気づいたらバスは竜飛灯台の麓、竜飛漁港の目の前のロータリーまで来ていてここで私以外で最後の客だった老婆を下ろし、ぐるりと反転するや再び元来た道を戻って行く。ここではたと気づいたが、目的の竜飛は帯島内にあるという今日泊まる予定の宿は先ほど老婆が降りた停留所が最寄りではなかったか? 現にバスの反転の際ちらりと遠くに見えたのは、駅に置いてあったガイド等に載っていた島のようだった。竜飛漁港の停留所から一区間ばかり戻った辺りで運転手さんに聞いてみると「なんだ、てっきり竜飛灯台へ向かうのかと思ってた」。観光客なので然もありなん、ではあるがよしんばそうだとしてもこの大嵐の中竜飛岬の先端まで登って何をすると言うのだ。そんなになんちゃって死にたい病者に見えたか?

 「風強いから気をつけて下さいね」運転手さんに悪気無く、却って気を遣わせてしまった事が今度の失敗なんだろうと思うが、ともかくこの嵐の中バスの一区間分を歩いて目的地へ向かうことに。三厩駅のストーブで乾かした服もあっという間にずぶ濡れになってしまった。覚悟していたこととは言えこんなに早く元に戻るとは思わなかった。この場所から遙かに宿のある場所を望むと、なるほど正に島の中にある。
 島へは舗装された道が通じており、帯島を含めてぐるっと漁港を囲むように防波堤の役割を果たしている。島へつながる道はそれこそ海の上に防波堤を築いてその上に載せた道なので、車道一本分の幅の橋、両脇は海、手すりがないとおっかない、とまあここで間違って落ちたら「(台風の時とかに)様子を見に行って行方不明」と報道があった時に背景に写る鹿島だか銚子だかの防波堤というのが大変分かりやすいと思います。ただし、その両脇の海は思ったほど荒れてません。防波堤と帯島を含めた人口の湾港の中にあるこの「橋」の周囲は予想外に穏やかなモノです。穏やかというのは言い過ぎですが。むしろ穏やかでないのが風の方で、今渡っている「橋」を伝って生えている電信柱と柱を伝う電線とが、物凄い勢いでそれはもうぐらんぐらん揺れている。私、かの震災を外出中に体験しまして、風もないのになにやら「ゴーッ」っと云う大風の時のような音が遠くから鳴り響いている、けど風は殆ど無い、おかしい思っている内にそれが遠くから迫ってくる地鳴りだというのが解る、や否や物凄い揺れに遭遇、周囲の立木電信柱が物凄い勢いで揺れているのが思いっきり眼に入り道の端に避けようにも倒木電線切断が怖くて端に行けない、と云う経験をしたのですが、この竜飛帯島の強風に揺られる電信柱があの時の電信柱と重なった! 所謂フラッシュバックというヤツで倒れるかと思い私、気付いたら何やら叫びながらこの「橋」を渡っていました。旅に来てまでトラウマ植え付けてどーすんでしょうか? 

 隠しても仕方ないので正直申し上げますが、お宿の場所が「島」にあると聞いた時ものすげぇ不安だったんですよ。アレ来たら終わりなワケですから。少しでも揺れ来たらいつでも逃げられるようにいっそ外着靴のまま寝ちゃおうかとか。こちらのお宿、WEBに落ちてる情報等ではなかなか評判良く、竜飛の辺りでは間違いなくアタリの宿と云うことは泊まる前から解っていたのですが、何せ今の時期「島にある」というこれほど不安をかき立てる条件は無く、はじめは仕方が無く周辺の他の宿に泊まろうといくつか連絡したところ、そのいずれもおそらく断れたらしかった・・・「断られたらし」いと言うのは電話の向こう余りに流暢で早口の津軽弁で対応されたためよくわからないけど光の如く早い電話の切られぷりっから「おそらく断られたらしい」と推測するしかなかった・・・中で、唯一開いていたのが当お宿だったと言う事情もあって*1、これはまあ縁と云うか運命なのでしょうと、半ば達観して向かったのがこの日のひどい強風と云うことで、凡人の達観など本当に当てにならぬ事だとこの橋で思わず挙げた叫び声はたしか「うぎゃー」だか「ひでー」とか、よく憶えてませんが凡人に相応しい内容に乏しいものだったと思います。ただ、この宿を選んだという選択そのものは非常に正しかったこと、後でよくわかることです。

 ひでぇ目に遭って「ごめん下さい、私・・・」、たかだか頭から水を被った程度に全身濡れたくらいなので対してひでぇ目とはちょっと大袈裟な物言いですが、ともかくな目に遭いながら這々の体で飛び込んだ本日のお宿「津軽海峡亭」、一階は部分は食堂。泊まり客だけでなく食事処としての機能もあるようで、外の客にも饗するということこれはお食事に期待が出来そうです。肝心なことは肝心なことは目の前の食堂電気が消えて真っ暗と云うコトとさっきから呼んでいるのに誰も現れないと云うコト。実は本日何か大変なコトがあってみんな避難してしまったのだろうか? にしては真っ暗の中テレビだけは付けっぱなし。多分近くに誰かいると思うのだが・・・「すいませーん」

 「近くに何かいる気配」と云うのは気のせいでなく足元を見るとアヤシイ遺留物の存在。コレはますますもって・・・。

 「にゃ〜ん」頭を上げてそちらの方をみるとほら、いたいた。店番ですか。ご苦労様ですね。

 「あのすいません、今日泊まりに来たんですけど・・・」「にゃ〜ん」「お店の人はどちらかに行かれたんですか?」「にゃ〜ん」「あなたのご主人様がやはりお店の人ですか?」「みゃー」「もしかしてあなた様がご主人様ですか」「にゃー」「ちょっとおさわりさせてもらってイイですか?」「ふにゃ〜」・・・なんか立派に客あしらいが出来るねこのおもてなしを受けて、けどこれからどうしよう、とか撫でながらねこに話しかけてると。
 「○○さん?」「あ、はい」なんかいきなり真っ暗の食堂の方から宿のおかみさん登場。油断してネコといちゃついてるのを人に見られるというのは結構恥ずかしいモノです。「▽≒※←●○お部屋二階の〜」「お風呂は先入る?」と前半せっかくキツい津軽弁で話しかけられたのに理解不明なのが大変残念。
 とりあえずお風呂頂きました。その後すぐ飯です。なぜなら「風が強すぎて電線切れて停電になるかもしれないから」、時々あるらしい。いずれにせよ本日お客私だけ。おかみさん、結構乱暴な物言いに聞こえるのは津軽弁のせいで、すごく気のいいおばさんです。トシで足腰痛くて動くのが大分億劫で、なおかつお客が私一人しかいないので結構ぞんざいな扱いを受けたのですが、全然腹が立ちません。第一自分から「こーいうワケで扱いがぞんざいになってすまん」位なこと言って憎めません。食事は一回の食堂で、ウニとかカニとか刺身とか、周囲で取れたであろう海の幸づくしのお食事は大量で美味い。私が飯食ってる斜め向かいでおかみさん、なにやら勘定しながらいろいろ津軽弁でお話。こんな風強いのはちょっとない。流石に漁はお休み、こんな日に出かけて遭難でもすればみんなに迷惑だから、とちょっと違うのでは? ここら辺地震の被害なし、だからむしろ地震よりこの風の方が怖い、と平和な仰りよう。一方で地震後予約客のキャンセル続出、連休前半こんなに客が少ないことはない、となんだかんだで地震の被害。そして飯食ってる間、おかみさんと話してる間、さっきの店番ねこは玄関で外を見ながらひっきりなしに鳴き続けている。このねこ、実はノラだとのこと。辺り4匹ばかりのいつも屯するネコの一匹であるとのこと。夕時に来て飯食って夜中に出て行くと。なぜ外見てそんなに鳴くのか? それはお友達を心配してとのこと。本当に、ひっきりなしに、外の方を向いてネコは鳴き続け、この大風に戸はネコのためにほんの少し開けてあり。私はと言えば停電になってはかなわんのでさっさと寝ました。

 朝起きると一応晴れ。ただし「天気は変わりやすく雨大風に注意」と云う推定。なぜ「推定」なのかというとこの場所、テレビが青森東北ローカルでなく北海道ローカルが映るもんで天気等情報を集めようとNHKニュースをつけると麿が出てきたりして、麿はイイんだが今はイイんだ、いくら何でも今ここで釧路の情報仕入れても仕方がないし。見たいの東北情報だし。ので、東北情報天気予報、北海道天気予報の端っこにオマケで付いてる「大間」と「青森」のみ、後は「函館」「松前」から総合的に推定。

 それにしてもやっぱ島の中、岩の向こうは常に津軽海峡の荒波。結構な場所にあるんだなと、夕べの、真っ暗闇の向こうでびゅうびゅう風の音遠くで波の音が聞こえる様子が思い浮かびます。

 どらとねぶた。こういうセンス好きです。

 夕べ食事の時間を聞かれた時に早く出たいので早めにの旨伝えておりましたのでもうお食事は出来てきてます。お食事の用意をするやおかみさんは奥の方へ入って海藻だかウニだかを小瓶に詰める作業をしています。こーいう所作の端々からなんだかんだ言ってすごく働き者なのが伝わってくるのでナマケモノの私はすごく尊敬します。夕べのお話の中で本日私が人のいなさそうな所に行くこと話していたので、お宿を出る時頼んでもいないのに作ってくれたおにぎりを渡されました。塩の効いてる漁師のおにぎりです。ありがたいことです。連休の後半は再び予約が入って少しはましになりそうだと仰ってました。ありがたいことです。

 民宿「津軽海峡亭」→http://www.aominren.jp/minsyuku/31tugarukaikyou.html
 食堂「津軽海峡亭」→http://r.tabelog.com/aomori/A0201/A020103/2000785/・・・表示の地図がいいかげんです。最寄り駅が「竜飛海底駅」とこれもむちゃくちゃで何も考えてないです。

*1:予約が取れたこちらのお宿も半分くらいは言葉がわからなかった