西津軽の森林鉄道からはずっと海が見えるよ その1 七つ滝周辺

 昔々、津軽半島の西側に「森林鉄道」と名が付くのに何故かほとんどの距離海岸沿いを走っていた謎解きのような鉄道があったそうな。いかにそのなぞなぞのような森林鉄道と云えども世の流れに抗うことは出来ず他の全国の森林鉄道と同様に昭和40年代には役目を終え廃線の憂き目にあったそうな。ところが津軽半島の西側という所は人が容易に住まうような場所でなく都市住居化はおろかまともな道路さえつい最近になって開通したという状況で、結果的にこのなぞなぞ路線の遺構が今でもあちこち残ることとなったそうな。
 今回、特に由縁というモノはないのですがいつものように何となくそれら遺構跡を訪ねてみることにしました。

 出発点は国道339号線(竜泊ライン)が津軽半島の際の山地を越えて日本海が見える位置に差し掛かった辺りから。

  竜飛岬のを駆け抜けてく風も時には息もできないくらい容赦のないモノでしたが、こちら日本海側に出ても風の勢いは全くと言ってよいほど衰えを知りません。唯一の接続道路の竜泊ラインは三厩と小泊との境の峠から先、小泊方面へ向かって緩やかな下り坂を描くので歩くコト自体は大した苦行ではありません。

 よくわかりませんが山側いきなり石垣のような石を組んだ構造物。例の路盤跡かと思ったのですが単に崖崩れ保守のための石組みにも見えます。近寄れないので詳細判りません。

 北海道とか瀬戸内とか津軽とか、こんなとこばっか歩いたりバイク乗ったりしているのでこういった「海岸沿い、手つかずの自然」と言う状況に少々飽き飽きしてマヒしている感もありまして、段々と重視しなくなりつつある「風景」。大体なんもない海岸沿いだとなんとかの形に似ている「なんとか岩」とかくらいしか取り柄が無くなってしまうんで、それはそれでヨイのですが、その「なんとか」になにか囚人の予想を遙かに上回る文言が入るようにならないモノか、思いながら一応紹介しておきます名物「傾り石(かたかりいし)」。名前の由来不明。何がどう傾いているのかも不明。大体からしてコレが本当に「傾り石」かどうかも不明、半ば適当。問題は某検索エンジンでこの字句を入れると今年の2月に近辺で死体が上がって行旅病死人として処理されたという記事が5番目くらいに出てくると云うこと。なかなか洒落たことをなさる。

 その傾り石の山側にある「片刈石林道」。林道は「みちのく松蔭道」と名付けられた道と重なり、このまま山を越えて津軽半島の反対、東側の三厩へ至るとのこと。調べてみるとこの通、かつて吉田松陰陸奥を旅した時に利用した通った道と云うことで廃道化を免れ整備されているとのこと。つまり、わざわざ竜飛からタクシーを使ってここまで来ずとも三厩まで戻ってこの道を歩いて越えてくれば比較的経済的に短時間でこの場所へ至ることが出来たと云うコトで、やはりどこかに行く前にはきちんと調べましょうと云う戒めに他なりません。更に調べるとどうもこの道、一部が海岸側から山側へ至る森林鉄道の支線の一部として使われたこともあったと云うコトで、今回の目的から鑑みれば至れり尽くせりの贅沢な山道にも関わらず華麗にスルーしてしまったこと甚だ残念であった、返す返す無念であったと後悔しきりな今や私にとっては苦い道なのです。まあ、知らずにこの道の入口を覗いてみると行く先果てしなくむき出しの岩場でびびりますから知らなかったのならスルーして当然。

 はっきりしたことは判らないのですが*1今歩いている国道はその、今回遺構探しの森林鉄道の軌道跡に沿って大部分を作られたとのこと。土台となってしまっているのでその遺構が全く現れないのは当然のこととして、では只今国道を歩いていると云うコトはかつての森林鉄道からの車窓*2とあまり変わりない景色を眺めながら歩いているというワケで、その景色

 ひどく海。ずっと海。本当に「森林」鉄道なのが信じられないくらい。ちょっと想像して、当時の情景を思い浮かべてみると、これ、ひどく楽しい。ゴトンゴトン・・・。

 さて、その遺構群で最初のお目当ては景観「七つ滝」傍らにある軌道の隧道跡。まさかこんな所でお手を合わせる偶像様似で会えるとは思ってもみなかったお地蔵様を過ぎて。

 もう春というのにまだ鳴り止まぬ怒濤の如き波の音、それに重ねてまた異なる水の音、恐らくはあの崖の向こうに滝がある・・・と言う辺りでその滝上に通じるその名もずばり「七ツ滝林道」なる林道が登場。林道入り口にロープを張ってはありますが、単に車の通行を禁止してあるだけの様子。遠慮無く進入します。此方の道に沿って坂を登っていけば間もなくその七つ滝の一番上、滝に通じる沢の畔に着くのですが、途中右側に逸れた脇道のようなそうでないような道が右側にありましたので行ってみますと

 お目当ての隧道跡が目の前に。あるいはこの「脇道」、軌道路盤の一部だったのかもしれませんが、目の前とは言っても隧道跡まで路盤跡が残っているわけではなくまた入口大分崩落が進み崖の中腹にある正体不明の洞窟のようにしか見えません。ここからこれ以上の近接は不可です。

 気を取り直しまして「七ツ滝林道」本道に戻って今度は滝を見下ろせる場所まで行きます。すると

 見ての通り流れ落ちる滝の飛沫が日本海側から吹き付ける風に負けて引力に反して逆らっているのが見えます。強烈な風に煽られているのは当然滝の水だけでなく人間とて同じで、

 そんな不安定な場所でがんばって撮ったことを酌み取って欲しい、軌道路盤跡。

 林道途中で脇に逸れて撮りました隧道とはまた別の隧道です。やはり入口部分の崩壊により天然の洞窟と間違えてしまいそうな現状、中は巨大な水たまり、隧道を出てすぐに崖崩れが起きており路盤が一部隠れてます

 崖崩れで途中隠れていますが、隧道真っ直ぐ先、川にぶつかって路盤が途切れている場所、昔は橋で渡していたことを示している橋台跡。一部木製の構造物が見えますが、当時のモノなのかよく解りません

 せっかくなので滝の一番上まで登ってみました。滝壺に通じる川は意外に小さく、川と言うより沢と言った感じ。

 その沢の向こうは未だ春の素振りさえ全く感じることが出来ない奥津軽の山奥に通じています

 沢、滝壺方面。飛沫がエライ勢いで逆立ってます

 同じく角度を変えて。沢が直接荒れまくりの日本海へ落ちるよう。例え滝が無く瀑布の轟音が響いていなくとも、ひっきりなしの荒波の音でやはりそれなりの轟音が響いていたことでしょう。

 滝上から一転所変わりまして、次に北側(先程の場所から手前)の隧道の下方、一見してわかりますように崩落防止用の網が張ってあります。この網を伝ってなんか隧道の近くまで行けそうなので

 近寄ってます、岩壁登ります

 結果、途中からちょっと崩れた場所と急角度になった場所、そして日本海からひっきりなしに吹きつける強風がこの時とばかり崖下の虫けらをはたき落とそうとする

 考えてみればわざわざ崖を登って近寄らなくても隧道正面方向に七ッ滝林道から繋がる路盤跡らしき足場があるのですから、そこから望遠レンズなりで覗いてみれば隧道正面の様子、崩落の様子、内部の様子等確認できそうなモノですがそこは・・・崖登って近づいてみたいじゃないですか、意味なんか無く。崖に虫が張り付いているような様を下の国道を通りがかりの車が何台か徐行していくのがわかる。その後強風に煽られて、結果これ以上の登崖断念。

 七ッ滝に到着してから結構長い相時間が経っているような気がしますが、ここに至ってようやく七ッ滝直下、正面に立ちその全貌を仰ぎます。滝属性の方々ならこれこそが待ち望んだ瞬間だと思いますが、私にとっては正直そんなに大事でない。

 大事なのは滝正面から右側にどういうワケか軌道路盤まで上ることのできる木製の階段が設置されているコトで、この御厚意に甘えない手はないと近づいてみるが

 階段ほとんど使われていないのかもしくは何処ぞの変態共が使い込み過ぎた結果か或いはただ単に予算が下りない行政の怠慢のなす業か、ともかく木製の段殆どが腐り、欠落し、その殆ど原形を留めぬ姿に脚を掛けようものなら間違いなく滑る足が土にめり込みバランス崩すの要は階段としての役に立っていないこと、引き続き海からの煽り風、滝の飛沫が体にマトモにかかる、要は下半身不安定な状態で更に上半身も不安定な状態を強いる環境に置かれていること、このような状態でどうしたらよいかと思案が必要だと思われ

 ますが、目の前に転がる美味そうなエサを前にして躊躇するバカが何処にいるでしょう? そういう私を他の人は違う視点でバカと呼びそうですがともかく、両手でカメラを構え少し重心を足下に移そうモノならクツ毎ズブリと木製の段の間の土にめり込みそのまま膝から崩れて本当に落ちそうになりますが

 この木製階段もどきを登り切ると滝の脇、即ち軌道路盤跡まで出ることが出来、南側に崩壊しつつありついでに雨水溜まりの隧道、北側に石垣作りの路盤、更についでに七ッ滝の中腹を拝む絶好の位置。何度も言いますが滝はモノのついでです、ホンの。

 路盤上に出ることが出来たのだから常識的に考えるとそのまま路盤上を歩いて滝の側、路盤の途切れている*3場所までいけそうなモノですが、路盤上は始終滝の水に洗われているのに加えてご機嫌麗しからざる日本海の雨風、足場は泥土でグシャグシャ、おまけに土砂崩れと思しき崖上からの流土がそのまま放置、この天候でそんな場所を歩いていくのは大バカしかいませんでしょう。残念ながら私は大バカではありませんのでソレは断念。それよりも上るより遙かに過酷な下り路、下りに際しては滑る割れるめり込むの階段全く役に立ちませんので隧道の穿かれた岩盤の崖を手すり代わりにして下りました、それはもうずるずると。

 土剥き出しの崖にずぶずぶ足取られる前に急坂をずるずると滑り落ちようモノならそのまま冷たい日本海の荒波に浚われて、と現在は目の前の国道のお陰でそんなに勢い付いて下り降りても海に落ちるとこまでは行きようはずありません。最もこんな天気の中滅法に下り降りれば足取られたまま次の足が前に進まず顔から崖に突っ込むかうまくいっても隧道側の崖にぶつかる位で、まあなんと言おうか、よくこんな所に軌道を通したよなと。

 崖にぶつからず、滝壺に落ちず、滝南側隧道の向こう側へ国道を遣って上手く回り込むとそこから海岸線の傾斜を横切るように一直線に軌道路盤跡が残っているのが見えます。滝の傍で残っていた軌道跡と似たような材質の石垣が一直線に並ぶので七つ滝の所で軌道・隧道跡に気付かなかった人でもここに昔何か想像の付かないものがあったことよくわかると思います。

路盤跡の石垣は欠けた櫛の如く所々に崩落を見せながら更に南側崖土手っ腹に穿かれた隧道跡まで

 その隧道は見ての塞がれております。まるで何処かの愚か者の進入を防ぐかの如く。それにしてもこの隧道を塞ぐ蓋、気持ち悪い質感です。

 ここらの傾斜、一部は多少緩やかな部分がありますのでその気になれば軌道跡まで登って隧道のすぐ近くまで近寄ったりできそうなのですが、その気になりませんでしたので隧道の姿は望遠で横着。まあ、あの滝の高いところとかネットで塞がれた隧道近くの高いところまでよじ登ったのだから我ながらよくやっただろうと自画自賛しながら次の目的地へ向かっていたところ

 その軌道跡のより3倍位地面から高いところで普通に山菜採りする地元民様。やはり私のやること月並みだとつくづく思います。(つづく)

*1:面倒くさいから調べて無いとも言う

*2:ロッコ、精々が貨車なのだから「窓」とは言わんな・・・

*3:かつては橋が架かっていたと思しき