釧網線鱒浦駅

 相も変わらず世間様は他者との関わりを極力避けようとする一人旅に大変厳しいので、毎度のコトながら遠方旅する場合の宿の確保は大変な労力なのです。もちろんその事実と旅先で駅寝を繰り返す事実との関連性は殆どありません。

 網走市内、特に網走駅から一駅戻って風光明媚な網走湖沿いにある呼人駅周辺の温泉街にはいくつかリーズナブル且つ独り旅にも優しい宿屋さんが点在しているのですが、相変わらず先を読まない旅程につき、当日朝4時小樽港着のふらふら網走まで道横断(バイク)することの時間が全く読めず、オホーツク海沿岸都市到着は恐らく夜中だろうとの目測から宿にご迷惑かけられずと敢えて宿の確保をしなかった、コトにしておきましょう。
 雑誌「とほ宿」の付録に網走観光ホテルの日帰り入浴割引券が付いていたので網走市内宿泊の折にはそこを使わせてもらおうと付いたのは夜8時頃。思ったよりも早い時間で喜び勇んで入浴の用意をしているとその肝心のとほ宿の割引券を忘れたことに気付き、まあそれでも入浴料500円、割引効いても50円引きと浮いた小銭でセイコーマートのPB商品のなんか細かいの買ったらお終い程度の、いやそれ考えると大きいなぁ50円、ポイント付かんけど。
 道内価格で言えば露天風呂つきのホテルの入浴500円と言うのが安いか高いかよくわかりませんが、私基準からするとすんごくお得だと思うししかも夜10時と云う眼下の国道に殆ど車の走っていない遅い時間まで入浴可と云う優しさに随分と甘えてどうせ今夜は硬イスの寝袋す巻きだと温泉の湯気の中夜10時丁度まで居眠りして、後は死にそうに眠くて眠くて網走湖畔の微妙なワインディングと網走市街の信号ゴーストップが辛くて900CCバイクのクセに時速40キロしか出さないという嫌がらせに近い走行のまま網走市街を通過、着いた先は

 網走駅から知床斜里・釧路方面に二駅目、釧網線鱒浦駅です。

 鱒浦駅の終電発車時刻21:44、既に行き去って辺りは駅の明かり以外は何もない郊外・・・と思いきや目の前は夜中につき交通量少ないと云えども立派幹線道路国道244号線、行動に沿って点々と住居、時々ドライブインとか海産物屋、その向こうは静かにオホーツク海。駅が階段上った少し高台にあるせいか落ち着きません。

 少し心落ち着けて駅構内を拝見。おっと、入り口にクモの巣。破ったり巣が頭に付いたりクモが耳の中に入って脳ミソを食い散らかしたりするのがイヤなので駅舎の中にはホーム側入り口から入ろう。そうです。ホームへは別に駅舎を介さなくても駅舎脇から進入できます。その駅舎脇、ホームじゃないところはまもなく秋とは云えぼうぼうの藪、その藪の向こう、線路に沿って謎の小屋が一つ。それにしても昔からの駅舎がそのまま残っているのは大変嬉しいことですね。当然の如く現在無人駅と化した駅舎内、改札、券売口窓口の類、駅員詰め所の類全て撤去(正しくは塞がれている)。その完全にお客待合専門と化した駅舎内に木造のベンチ有り。有り難い。そして駅内トイレ無し。これはキツいなぁ。仕方がないので寝る前に買い物がてら最寄りの(5キロくらい先)セイコーマートでトイレ借りてこよう。ともあれ曲がりなりにも今夜のヤサに着いたことだし荷を解こう。

 「ボンッ!」10時30分を回ったころでしょうか。突如自動電源が作動、あっという間に辺り一面の闇。最初すんげー驚きましたが、考えてみれば明かり避けにアイマスクする必要なくなったと、頼んでもいないのにああ便利。
 暗いをコレ幸い、ちょっとトイレ兼買い物、国道を、網走市内、には明日行くと思うので小清水方面に10キロほど、嗚呼国道沿いのセイコーマート、北海道の宝。

 帰ってみた駅舎は相も変わらず真っ暗のままで。海近く打ち寄せる波の音。中に入れといた荷物も当然そのまんま、人の近寄った形跡無し。海近いのにこうなれば後は早いもので直ぐ眠りに。大分駅で寝るに抵抗なくなりました。これは良いことなのだろうか?

 日本国内で一番最後に夏が来て一番最初に秋が来る道東とは云え*1まだまだ夏のニオイの漂う季節ですから春夏用寝袋にくるまるだけで充分に暖気を得てぐっすりと・・・「ガッチャーン!ガッコーン!」夜中2時頃だろうか?ホーム側より突如物凄い機械音が通り過ぎる。寝ぼけていたのでこんな時間にああ貨物列車か位にしか思わずそのまま寝袋被って寝の続行を試みたのですが、寝呆けながらも今時釧網本線を走る貨物列車なんかあったか? ほんの少し疑問に思いましたがそこはまあ、眠いので面倒臭いのでそのまま寝の続行。
 寝てる時はなるべく外の気配を感じないように、感じても気付かない振りのダメに徹するコトをいつも試みているのですが、どうも、先程ホームの方でした機械音が少しだけ離れた場所で引き続き続行している気がする。こんな時間に道路工事だろうか? それに先程から駅舎の入り口、ホームの辺り、人の気配がする。おかしい、いくら何でも。ただ当方、震災被災地野宿中に余震が起きてもめんどくさくて寝てた手合いにつき、おかしくても寝る。

 「ガッチャーン!ガッコーン!」・・・この音はちょっとシャレにならんなぁ。とこの時点でようやく外で何が起きているのか見てみようと。線路の方が確かに明るい。何かヘルメット被った人が動いている。
・・・保線屋さんだった。するとあの光を発してる長い巨体はマルタイか。たぶんさっき駅の前を大音響を立てて走っていったのはアレか。僕は基本「乗り」と「駅寝」特化のテツなのでそっちの方は疎いのですがきっと「保線」に特化したテツなら垂涎モノの光景が今目の前で繰り広げられいるというワケか。と言うワケで、寝よう。

 オホーツク海は東側にあるので、その海に向いた当駅は比較的早くから光が差し込みます。私が寝ているベンチの直ぐ後ろ側に窓があるため寝袋してても比較的容易に朝の訪れたことがわかります。昨夜保線屋のおっちゃん間違いなくこの窓の直ぐ外を通ったと思うので今自分が無事にここにいるのは実は優しい保線屋のおっちゃんのお目こぼしのお陰であること漸く気付いて仕事に厳しく線路と駅寝者に優しい保線屋のおっちゃんに深く感謝。おっちゃんかどうか知らんけど。ついでに言えばマルタイにもこれ以上の興味沸きそうにもない。けど雨の日も辛い保線に作業に勤しむおっちゃんとマルタイにもう一度感謝。

 昨夜はただ暗闇の向こうに波打つ音だけが響くのみのオホーツク海ですが、夜が明けてみると泳げそうな泳げなさそうな微妙な砂浜が広がる鱒浦駅周辺。国道に沿って並ぶ家々、その悉くが裏口から直に砂浜海岸に出られるちょっとしたプライベートビーチを持つオシャレお家かと云えばそう云うワケでもなさそうで、何となく漁民漁民したお家が多くとても好ましく、一方で空き家空き家してるお家も多くちょっと悲しい。五軒に一軒位の割合で海産物屋さんが軒を連ねて住民の方の大切な駅を寝汗で汚したお詫びに日中再訪して買い物食事でもと思いながら、一番列車の来る前にご用足そうとバイクでちょっと山側の住宅地方面へ。コンビニでも行きましょう、当然の如くセイコーマート

 駅に戻って飯食い終わる。その頃からぱらぱらと一番列車目当てのお客様方、私とは違って本当の。正直こんなに早くお客様が来ること予想せず、コレは駅寝のルールに反してしまう。即ち「地元利用客に迷惑をかけてはいけない」。ああ迷惑だ。迷惑でいたたまれない。せめて早めに掃除しよう。駅舎の端にある箒で床を掃こう。乗客、列車待ちの高校生ますます駅舎に近寄らない。

 網走発の一番列車到着して迷惑ないたたまれなさから漸く解放される。嗚呼失敗だ。今回の駅寝は失敗だ。何をもってして駅寝の成功とするのかはよくわかりませんが。

*1:オホーツク海に面した網走は山に面した地域と比べるとそんなにすげぇ寒いわけではないそうです