少々伊那行


 元善光寺に行こうと思ったのですが通り道と云うことで伊那の井上井月墓に寄っている間に拝観時間が過ぎてしまいました。時を忘れるほど伊那ヨイところ。

 さて、遅刻の元凶となった井上井月さんの墓所墓所があること先日ポレポレ東中野で上映された『ほかいびと 伊那の井月』と云う映画を観たことでの感化ですが、作中井月のお墓のイメージがことのほか寂しい印象であるいは河原近くにでも投げ捨てられたかのような場所、墓石もどこぞの大量殺人者のようにそこらで拾ってきた石でも置いて代わりとしているかのイメージだったのですが

 到着してみると周囲伊那谷を囲う雄大な峰々が遠すぎず近すぎずその手の内に抱かれいるような良い場所にあり

 「井月さん、ちょっとやっかみたいほど良いとこに眠ってますね」

 そう言って手向けるとちょっとほっこりした気分になって、井月さんを受け入れて最期こんな場所を供してくれた伊那の地は、たぶん、やはり、きっと、ヨイとこ

 帰り際、畦で擦れ違った地元の人が「いいとこでしょ?」と問いかけてくれたのと、伊那で道を尋ねた時全ての人が「井月さん」とさん付けしていたのも大変印象的。


 さて、伊那の次は飯田です。飯田と云えば川本喜八郎人形美術館です。伊那で井上井月を「井月さん」と呼んでいたの同じようにこちら訪れていた女子の皆様尽く「孔明さま」「周瑜さま」「孟徳さま」「馬超さま」「孟獲さま」「蓮司さま」と皆さま付けで呼んでいたのが大変印象的です。同じなのか!? 蓮司さまは武将なのか!?

 で、こちらの美術館、ちょっといただけないのは肝心のお人形が尽く撮影禁止と云うこと。撮影可が玄関先の特別でかい孔明(さま)&出師の表のみであるというのが大変いただけなく、せめてフラッシュ不可で撮影可にしてあげれば人形入れ換えの度にリピーターが押し寄せるような気もするがどうだろうか。

 もひとついただけないと云うかなんというか、展示物の中に紳々と竜々が飾ってあり、ネタ元が公の席からいなくなったのにコレどうよ、などと突っ込みたくなるような展示ですが、拝観者の方々、皆この人形の前は特に気にもとめず素通りしていたのが大変印象的です。いずれにせよ半年一回の展示替え後この人形がどうなっているのか楽しみで私は必ずリピーターになっているでしょう。

 伊那谷の最後を飾るのは映画館です。

 何となく飯田駅前をふらふら歩いていると現れた「千劇」の看板。名前、見た目から想像するに昔は多目的劇場であったこと窺える。昔多目的劇場、現在映画館。衰退した大衆演劇に見切りをつけて心機一転選んだのはその後を追うが如く同様に衰退産業の映画館。純粋に金儲けの手段を追求するやり方としてあまり利口とも思えない。が、娯楽の提供に対するひたむきさが滲み出る。「千劇」の看板に描かれた大黒様のお仕事は、皆様に福を福を運び、笑顔をもたらします。

 丁度地元で見逃した『ジョン・カーター(吹き替え版)』がかかっておりました。伊那行のシメとして不足はありませんと云うことで帰りの時間も考えず。

 色々あって上映5分程での入場。真っ暗の場内お客様はお子様姉弟の一組のみ。真っ暗な中暗闇の事故に見せかけて用事の体に触ったワケでもないのに何故お子様姉弟の一組だけしかいないか解ったかというと、そのお子様のより小さい弟の方、開演5分で既に飽きていて姉弟で陣取ってる最前席やスクリーンの前を走り回るわ大きな音を立ててジュースを飲むわ終いにはDS始めるわで要するにコレだけ鑑賞と反する動きをする物質が在りながら小さいお姉ちゃん以外誰一人として反応しない状況から私の入ってくるまで劇場この姉弟の独占状態であったこと容易に知れるというわけです。
 私はと云うと、例え小さな影がどんなに地べたを駆けずり回ろうとスクリーンそのものに干渉を与えなければ大した害にもならないと割り切り、昔の映画館はこうだったはずと特に気にせず鑑賞、その後姉弟はと云うと弟のあまりの云うことの聞かなさにいたたまれなくなった姉が音を上げて共に出て行ってしまった。姉の方は割に熱心に観ていたのに気の毒なことですもったいない。

 終映後改めて映画館を見るに、映画を愛する人達のためにとても多く努力している様子見て取れます。内部に入り受付に望めば一見シネコンのようでありまたスクリーン数こそそこらのシネコンに比べて少ないモノの、「そこらの」と云う言い方はよくないですね大都市圏でしか通用しない言葉ですね、ともあれスタイルは小さなシネコンと云った様相、一方で昔の劇場の名残か映画とは全然関係ないガチャなんか置いてあったりしてこのヌキ加減と云おうか、すごく素敵です。

 素敵と云えばこちらの映画館、都内ではとっくの昔に上映終了の『大鹿村騒動記』を上映中。今週が最後のクールと云うことでしたが、そう言えば舞台の大鹿村最寄りの映画館はこちらになるワケで調べてみると全国の映画館での本作来館者数は丸の内TOEIに次ぐ2位という記録を達成しているとのこと。ロビーの一角を割いて大鹿村コーナーを用意するトコなんかとても素敵です。もし、仮に、願い叶うなら、本作原田芳雄さんの遺作となるコトなかったとしても場所柄2位以上獲っていた気もします。そしてその時は原田芳雄さんきっとここまで舞台挨拶にきていたでしょう。とても素敵です、夢のような想像です。

 そして合掌。その姿が少しでもスクリーンに現れるやいつも期待以上の楽しみを与えてくれた偉大な俳優へ、おこがましくも筋金入りテツ大先輩へ。

 飯田、想像外によさげなところ、何故か駅舎がりんご色。

 飯田の映画館 センゲキシネマズ→http://www.sengeki.co.jp/

大鹿村騒動記【DVD】

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