みわくのるべしべおんねゆみちのえきしゅうへん

 北海道の真ん中を西から東へ横断する北見街道こと国道39号線はその昔囚人やタコ部屋労働者やらを動員して無理矢理貫通させた道路だそうで、特に崖やら滝やらがうねるように迫ってくる間を抜けていく層雲峡の辺りなんか走っているとさもありなんとか思います。層雲峡にあるコンビニは看板がモノクロというコトでちょっと有名で、私もその見た目のインパクトに騙されて層雲峡内コンビニの一つセブンイレブンに入ってしまった口ですが、後で調べたら同地域内も一つコンビニがあってしかもそのコンビニはセイコーマートと云うことで、ああそっちに入ってればよかった失敗したと今も後悔頻りです。

 失敗したと云えばこの国道39号線層雲峡エリア、昔の崩落事故の影響でルーツ付け替えを行ったとのことで、噂によるとその旧道がエライキケンな状況らしく旧道這いの憧れなんだそうで、それを知っていれば一泊してでもちょこっと覗いてみたかったのに非常残念です。層雲峡内、国道39号線に沿って時折廃道だか廃線だかがちらちら見えて、竜の顎が剥き出しになったみたいな層雲峡の断崖と先頃の大雨で大激流と化している石狩川の濁流を背景に佇む由来不詳の*1鉄橋はなかなかの見ものです。

 さて本稿の話題はその見つめていると死にそうになる層雲峡のコトではなく、層雲峡の谷底から段々と高度を上げて上った先、石北峠を越えた先の留辺蘂周辺(北見市留辺蘂地区)で、石北峠を越えた後途中水銀鉱山の跡があったり道沿いの白樺林を抜けるとやたらキツネだのウマだのウシだの文字が躍る看板が見えてくる。キタキツネやらウマやらを見たり触ったりすることの出来るミニ動物園の様な設備が付属する土産物屋やらドライブインやらが多く沿線にある様子。立ち寄らなかったんですがその中の一つ、店の駐車場と道の間の花壇のような場所に浅い穴を掘ってそこにキツネが踞ってる、そんなお店があってそのぞんざいさに目を丸くしながらバイクに乗っていました。寄らなかったけど。
 沿線のトウモロコシ畑をほぼ直線に突っ切る却って惑いそうになる道をだらだらと流れて行きそろそろ休みたいなと思う絶妙の頃合いに看板が見えてくるので直ぐわかります、目的地の「道の駅おんねゆ温泉」。
 温泉と名が付きますので道の駅内に立ち寄り風呂でもあるのでしょう。「あるのでしょう」という投げやりな言い方はこれから挙げる場所以外に施設内何処にも行かなかったに他ならず、トイレ位は行ったでしょうか? ともかく行ってみて初めてわかるのですがここらの観光は中心の道の駅より周辺が濃い。

 濃いその一、巨大ハト時計「果夢林」
 一時やたらあちこち巨大サイズのカラクリ時計が作られて一時大抵の地方都市駅前では時間になるとなんかカラクリがにじり出て一定時間舞うカラクリ見たさに人が集まっていたのがその内飽きて人もまばらになっていつの間にか時計そのものが無くなって、と云うのが私のカラクリ時計のイメージですが、こちらにはその頃の名残と「世界最大級の木製カラクリ時計」と云う称号を携えて今でも燦々とその威光を照らしております。

 さすが大きい。この大きさで時を知らせるのださぞかし皆待ち構えているだろうと私も芝生に寝転がって待っていますと遂にその時は来て正午の合図に

 待ちかねていたのは私と

 お散歩途中どこぞの老人ホーム御一行様。

 例え私と介助者さんが引き下げてても間違いなく平均年齢余裕で60越えのギャラリーを前にファンタジックにカラクリ踊る、森の妖精舞う、謎の長老頭を下げる・・・

 最後に一番高いとこで待機してた巨大ハトがご挨拶して終わり。拍手しちゃいました−、ぱちぱちぱちぱち・・・盛り上がってまいりましたがハト時計故にショーはこれでお終いです。


 次は一時間後ですがその間カラクリさん達が何をしているかと云うコトは中に入れば判ります。見ての通り待ってます。ただ待ってます、ひたすら・・・


 次のステージをただじっと待っているだけにしてはとても大きいからでしょう、世界最大級の木製ハト時計の一階部分はなんか色々のカラクリ遊具の置き場になってます。全て単純なインプットで素朴な動きを見せるお人形さん達ですが、その全てが何らかの競争をモチーフに作られておりますので例えば私のような一人旅のヒマ人が一人でレバーを回してもなんも面白くない、お寄りの際は是非とも大切な人とお二人で。

 木のカラクリ時計を抜けるとその向こうにはログハウス風の建物内に木工品やらクラフト工芸やらの体験工房やらがあるようですがぶきっちょその他諸々の私は当然の如くトイレを借りただけでスルーです。真の目的は

 濃いその二 山の水族館・郷土館

 ヘンな工房と工事の壁とに遮られて正面から建物の全容が全く窺えない「山の水族館・郷土館」です。ここら周辺は石狩北見の峰々より流れ落ちる川の水が集まるところですから豊富な水に集う淡水魚が多く集められているのでしょう、そんな期待を込めて玄関を潜ると

 最初にいたのはカメでした。

 しかも何故か「マタマタ」と云う日本に生息していない種。デカイ。このデカさで何故か微妙な角度に傾いたまま微動だにしない。

 確かに玄関前の幟に「イトウ」等どう見てもこの周辺には生息しないお魚展示の文字が躍って、まあイトウなら北海道にいないワケじゃないしその意味で珍しいしよいのかなと大目に見ていたけど

 やっぱマタマタはねぇだろ

 その他恐らく某ディスニーアニメに触発されたと思しきカラフルなカクレクマミノにグッピーのつがい、入り口をキラキラの魚で飾って、ここまで言わないいましたがやたら地味な印象の水族館を少しでも盛り上げようという気概が伝わってすごくイイ。

 マタマタがどーした言ってないで早く本題というかメインの展示物に移りましょう。言わずと知れた幻の魚コト道内釣り人垂涎の的「イトウ」です。確かに淡水魚でこの大きさ、一見の価値はありますね。けど幻の割には結構な数。まあこれがお値打ちなんでしょう。

 数揃うとなると結構冷静になれるものでよくよく観察してみるとイトウさん、目の焦点悉く合ってない。大丈夫?

 大丈夫と言えばこの「イトウ」の水槽、移動の他に同じサケマス仲間の、けどイトウさんと比べるとずっとちっちゃなニジマスちゃんがイトウの巨体に並んで時には張り付くように、鼻先をかすめるように、尾ビレの一撃を縫うように、なんか一生懸命泳いでる。トラとネコを同じ檻に入れるかのようなこの展示、一体どういうコトなのでしょうか?

 けどこのでかいのとちっちゃいの、互いのせめぎ合い? が見てるととても楽しい。ご紹介の如くイトウさんが焦点の合わない目でぼんやりと口を開けて泳いでるもんでそのあんぐり開いた口にニジマスちゃんが間違って入り込みやしないかと、ちょっとハラハラしながら見ているとなかなか巧いこと避ける避ける。






 動きのあるモノを意味もなくひたすら目で追い続けるのは病みかけの証拠だとだれかに言われたことがありましたが、面白いモンは仕方がないので、そうこうしているウチにメシの時間らしくまともな飼育員と思しき職員さん登場、思い切ってこのでっかいのとちっちゃいのと同じ水槽で飼っている理由について訊ねると一言、「エサです」。エサかよ! 食いモノかよ! 生け餌の名前標作って食う方と並べて展示するかよ!



 数日前までもっと沢山いたのですが本日はコレだけに数になってしまったと云うコト、明後日くらいにはみんないなくなってしまうだろうコトそうなったらまた新たに追加すること、飼育員さんはとても詳しく教えてくれました。ついでに言えばこの食う方のイトウさんは全て天然モノで、それはちょっとした自慢らしい。繁殖には一応成功していて養殖モノも出回ってますが何故か頭だけが体に比して巨大でヒレにやたら裂け目ができてしまう恐ろしく不格好な個体ができるそうで、ちょうどこの真向かいの水槽には言葉通り体に比して巨大な頭が絶滅した甲冑魚を思わせる不思議な姿、おまけにと云うかダメ押しというかアルビノ個体で中途半端な白、とてもイトウには見えませぬ。ついさっき目の前で見たイトウとしての面影皆無な格好で川床に横たわっているその姿はあたかも生前犯した唯一の悪行のため畜生に生まれ変わらざるを得なかった聖者の後世を彷彿とさせます。その前世の悔いを生涯抱えなければいけない悔悟の念を宿す無気力な目付きがとても印象に残りました。手塚治虫の『ブッダ』に出てきそうなエピソードですね。ねえよ。

 そのアルビノイトウはあんまりにあんまりなんで写真は無し、代わりまして水族館を彩る水棲生物の数々を

 っとその前に再びマタマタさん。同じ体勢で疲れませんか? この姿を「お前生きてて楽しいか?」とツッこむか「これだけなにもしなくて生きていけんだからオレもマタマタになりてぇ」と嘆息するかお前の人生、動く不幸動かざる幸福さああなたはどっちだ?

 前座のやるきなさと真打ちのガツガツ振りとにあまりにインパクトあり過ぎて(しかも真打ちが最初の方に登場・・・)毒気を抜かれて気付く何の変哲もないドジョウの動きに一喜一憂する自分。最早これ以上の展示水棲生物を探索する気持ち皆無。このままではイケナイ。

 御同役、ご案じめさるな。こんな事もあろうとこの水族館には水棲生物に酔った者どもの酔い覚ましのために郷土資料館が併設されていていつでも水棲ゾーン郷土ゾーン行き来できる。郷土ゾーン目印は野生動物の剥製と昔からの農機具、もはや北海道では当たり前だね!

 などと舐めた口効いてるとこの謎の展示物に少々つまずく。「マンガ」。昔談志の噺のマクラに「上野動物園には『ハナシカ(鼻鹿)』がいる」と云うネタがあったが、「留辺蘂郷土館には開拓時代のマンガが置いてある」と林家とんでん平師あたりにマクラで振ってもらいたいと考えているのはこの水族館に来た全ての落語ファンの願いであろう。それにしてもやっぱ彼の御仁は天才に違いない。一目瞭然で出身地がわかるバカみたいな名前を弟子につける三平師は。談志師? ありゃ天災ですよ。

 「どうです?おわかりかな?」

 水棲生物を離れて早10分。この展示物の登場に至ってもはや水棲生物のことなど頭の片隅からも無くなる。交通博物館が大好きだった元子供たちにはおなじみの鉄道模型ジオラマ模型。どんなに渋い展示物を誇る僻地の郷土博物館でもこの展示セットが登場するだけでパッと光が灯ったように明るく輝いて見えるのは私だけではあるまい。

 「ボタンを押すと動く」「音が出る」「光る」この模型のすばらしさはこれだけに止まりません。ここで私はある展示物の登場に関してその展示物の十分な説明をする前にワケのわからぬ情緒でもってかき混ぜる典型的駄文を晒しているワケですが、遅まきながらこの模型が何かと云うことを説明させて頂くと、まずかつて留辺蘂を支えた主要産業として存在した水銀鉱山「イトムカ鉱山」その盛りなりし頃の様子、同様に栄えた林業とそれを支えた森林鉄道の様子を忠実に再現。「イトムカ鉱山」については上川側から留辺蘂へ向かうと途中ででっかい記念碑が見えるのでその存在はよほどのバカでない限りわかるのだが肝心の鉱山跡へは現在も同地にある別の工場が操業中である関係から立ち入ることができない、にもかかわらず鉱山創業時のプラントが一部そのままで残されているとの大変残念な情報。関係者以外拝むことができない*2施設の面影を模型からうかがい知ることのできる貴重な展示物であると同時に、今の今までバイクで走ってきた道が実は森林軌道の路盤の一部を使っていたのだという事実も知り、とても得したような気分になる。

 ああそうだ、当初の目的を忘れるとところだった。目的は「山の水族館」だった。そのことを教えてくれたのは色々脱力のあまりへたり込んでぼーっと眺めた水面からたまたま顔を覗かせたカメさんだった。

 気を取り直して水棲生物の皆さんをご紹介・・・

 その1、ハイギョ

 その2、ピラニ

 その3、なんか人間不信なのか水槽の端に頭を突っ込んだまま顔を見せないスッポン

 その4、水槽のヘリにへたり込んで微動だにしないナマズ。もちろん目を合わせてはくれない

 その5、エイだかナマズだったかチョウザメだったか、すいません忘れました

 ユルいなぁ〜。この北海道の山ん中にあんのにこの無国籍さは嬉しいなぁ。まさに時の経つのを忘れてぼんやり、ぼんやり見学してるのがこの水族館にすごく似合う。

 もっと本格的にぼんやりできるようにな窓際に畳スペースとちゃぶ台。幸いにしてここに至って私が先を急ぐ旅人であることを知ったのですが。よって、ちゃぶ台に感謝。さあ帰ろう。

 所であれから2時間ほど館内をウロウロしていたけど件のマタマタくんはさすがに少しは動いただろうと

 ・・・全然変わってねぇ。亀は万年生きるとは本当かもしれない、そんなユルい時間の流れる間にもイトウが同サケ科のニジマスにがしがし食らいついてる、なんだか天国とも地獄とも判断つきかねるいずれにせよあの世で流れる時間はこんな一見ユルい感じなのだろうと錯覚させる不思議な水族館でした。(続く)


 付 この記事は2011年9月に北海道を走り回った時の記録です。記事に登場する「山の水族館」は2012年のリニューアルによって訪問当時とは似ても似つかぬ壮大かつ学習意欲に溢れた施設に生まれ変わり各所で高評価を得て旧館を大きく上回る規模の観光客が押し寄せているとのこと。私みたいなバカな訪問者のワケのわからぬ質問にも笑顔で真摯に答えてくれていた熱心な学芸員さんや職員さん方の地道な努力の賜だと思う。そぞろ行の末足跡を残してきた場所のその後の発展はとても感慨深い。一方で旧設備時代の「山の水族館」に足を運べたこともとても幸運なコトだとも思う。

(新しく生まれ変わった「山の水族館」→http://onneyu-aq.com/)

*1:後で調べると元々森林鉄道だった軌道を林鉄廃止後木材運搬用の林道に直した道路、らしいっす

*2:考えてみればほとんどの廃鉱山が山ん中とか私有地に放置されているのが現状なのだから用もないのに近づく一部の好事家は間違いなく「関係者以外」と括られるワケだが