小幌駅その1 行けぬなら 来るまで待とう 小幌駅

 小幌駅の話題とは全く関係ないのですが、この記事の小幌駅訪問の前夜、当初の計画では礼文駅に駅寝しちゃって初電で小幌まで行ってしまおうと横着を決め込んでいたのですが長万部郊外の静狩〜礼文華山一帯の山地が迫ってくるにつれてなんだか急に恐ろしい気持ちとなってその心持ちのままとても駅寝などできない、駅寝できてもメインミッションの小幌駅行を達成できる気もしない、そう思えば思うほど恐ろしい気持ちは高まり遂に近くにあった安宿看板当てにして電話をかけてましたとさ。方々の体で選んだ安宿、まずご主人が明らかに介護保険で借りてきた介護ベッドに横になっていて気安いんだか声かけにくいんだかよくわからない雰囲気を醸し出していたり、その主人の説明の通りに入った筈の部屋が全然違う部屋で隣からうめき声が聞こえていたりとかあまりにうめき声が気になったんでその隣の部屋を覗いたらエライ汚部屋の辺り一面に散らばった布団には血だか嘔吐物だかの飛び散った跡があったりでその奥で横になってるダルマみたいな人に叫ばれたりといろんな意味で見てはいけないモノを見てしまった感で頭いっぱいになりこのまま逃げだそうかと思っていたら宿の関係者らしき別の人に「そこは違うこっち」と案内されたお部屋はかなりまともなお部屋だったのでやれやれ安心しました、と前座にもならないムダな一幕ありまして。

 ちなみに宿のご主人の言っていた「今風呂と飯食いに行ってるチャリダーな同部屋の客」の姿を見ることは遂にありませんでした。この程度の出来事をもってして「オレもつげ先生みたいな宿の体験するほど旅慣れてきたワケだ」などと驕ったコトは申しません。正直正確なお部屋に落ち着くまで余計な考えなど頭に浮かばずたとえば今経験していることが「リアリズムの宿」どころか「サイコ」とか「田治見家」ならまだ可愛い方でもしかしてソーヤー家レベルなんじゃないかとそんな恐怖が頭をよぎり自然導き出される死亡フラグガン立ちのその結末に緊張のしっぱなしであったワケですから。「おまえ話盛ってんじゃねえよ」とか指摘受けたり色々差し支えありそうなのでお宿の名前は明かしませんが、間違って裏側さえ覗かなければ結構ちゃんとしたとこです。こと程左様に北海道は広い。

 なるほどさすが自称秘境駅ランクナンバーワン、近づきもしないウチから楽しませくれるわいともういい加減秋とも言ってよい涼風を身に纏わせながら脱出の下見とばかりに国道35号線をよそ見しながらゆっくりバイク走。結果は「山と緑とトンネルばかりでまるで駅に行ける気がしねぇ」と不安いや増すばかり。危険な脇見も結局なんの脱出口の下調べにならなかった徒労を癒してくれたのは国道から離れて礼文の集落へ向かう途中牧草畑の脇道から飛び出して来たネコだった。ちなみによい子は北海道の国道でワキ見をしては絶対イケナイ。

 (件のネコでない、参考写真)

 初電の到着する前の礼文駅はひどく神々しい朝日に包まれているように見え、こんな朝早くからちょっと不純な目的で室蘭本線各駅停車に乗るのがとても恥ずかしく感じるほどです。この日朝早くに礼文駅を訪れる人は私以外皆無でしたが、駅周辺ちょっとした集落を形成しており日中そこそこの人通りは望めそうな景色です。駅の周囲に少しでも人の気配のあることの嬉しいことはありませんが、それにしても駅前明らかに駅へ向かう人を対象にしていると思しき入山届け箱はいったい何処の山中へ入る人を対象にしているのだろうか?

 ツーリング強行軍の大荷物のまま山入りの準備するのは結構面倒くさいんですよ。おまえの要領が悪いだけだというご意見も散見されますが。そして散見と言うか礼文駅の駅ノート、隣駅の気安さ*1小幌駅情報が散見されるかと思い紐解いてみればほとんどが「小幌駅行く〜」「小幌駅行った〜」な話題、礼文駅の存在価値と入山届け箱の存在意義がやや海側に流される。

 もはや小幌駅の出島と化し自身の存在意義となるとやや薄れるがちな礼文駅、駅にかかる霞を払うかのごとし一服の清涼ここに見つけたり。と云うか宣伝です、駅ノートの隣、冊子「礼文華観光案内」の案内。小幌礼文ひっくるめたただならぬ沿線愛を発する冊子名、小幌下車の前に是非手に入れておきたいもの。購入方法も書いてあるが何分朝7時前に購入を求めるのは迷惑というモノ。駅ノート秘境駅は鉄道会社・地元住民・乗客の三位一体の黙認合力あって初めて存在を許される。時間と命があったら帰りに購入して帰ろう。

 東室蘭方面なり長万部方面なり誰か一人でも客の来ればいいモノを、この日は一般客誰も訪れず。人気のない駅に差す影は絵になりそうでいて、実際は活気に満ちた駅のそれに敵おう筈がない。

 そうこうしているウチに東室蘭方面列車が到着。誰も乗らない誰も降りない、にもかかわらず通過を知らせる音声ガイドが無人の駅舎に鳴り響く。こりゃ駅寝は難しそうだ。ただしこの日函館本線大沼駅近辺貨物列車脱線事故の翌日で函館札幌間長距離列車運休継続中、昨晩に限っては駅寝しても差し支えなかったかもしれない。

 時刻は7時を回って、さてそろそろ乗客としての私の出番である

 普通列車は定刻通り礼文駅到着。念のため「小幌駅着」を運転手に確認。運転手明るく「停まります」の返事。

 こーしてはじめに声をかけておけば例え自分以外乗客が皆無の列車であっても如何に小幌駅が常識的に考えて乗降客皆無の駅であっても一応「降りるバカ客がいる」と運転手に認識させれば旧国鉄国労崩れの不良運転手のように勝手に駅を飛ばされたりすることはありません。つか今ではそんなことはありませんよ。そしてもう一つ、運転中に話しかけてはイケナイ。

 誰もいないし隣駅だからどうせすぐ着くだろうしで最前列に陣取りしばし車窓を楽しむ。正直景色からはこれから何処へも行けなさそうな駅へ向かっているんだという様子は伺えない

 ふと頭上の運賃表を見ると「小幌」の文字。嗚呼、本当に行くんだ、都市伝説じゃないんだな、と一瞬不穏な気持ちになる

 そのうち列車は長いトンネルに。このトンネルを抜ければ目的地に着くのだろう。列車内右側頭上に室蘭苫小牧・室蘭周辺路線図あり、カニが手招く管内周縁長万部から二つ隣に「小幌」の文字。遠くにあるのか近くにあるのか、いまいちよくわからない。

 そうこうしているウチに列車の向かうずっと先の方にほのかな日の光が。同時に列車が速度を弱める。やはりトンネルを出てすぐ小幌駅か・・・って、え?あれ? トンネルの先に現れたホームのあまりの頼りなさに思わず口をついて出た言葉・・・(続く)

*1:実際は気安くも何ともない