小河内線廃線行その1

 都心と5度くらい気温差のある奥多摩駅降りて直ぐの空気はとても澄んでいるかと言えばお世辞にもそうとは言えず原因は多分青梅線奥多摩駅の先にでんと乗っかるあの日曜お構いなく稼働している巨大な奥多摩工業の工場のせいで、だからといって皆が休日の日に一生懸命働くお父さん方を非難するつもりは毛頭ありません。むしろ万歳三唱して最大限に応援したいくらいです。労働者ばんざーい。平和日本ばんざーい。

 さて、終着駅ホーム端で万歳三唱しているところを冷たく突き刺す駅員の視線を感じたらその時はホームを離れる時です。何より本日の目的はなんか奥多摩駅から先に延びてる廃線跡を辿る旅なワケですから、埼玉から朝イチの電車を乗り継いで現在8時半、視線も冷たいし空気も冷たい足元当然の如く冷たくその時注意すべきは駅員乗客の視線ではなくホーム上の凍った水溜まりの方で、中央線でも同じ車両の走っているからと言って新宿駅と同じつもりでホームに降り立つとそのままホームの下にまで落ちることにもなりかねない、要するに奥多摩は本来山深く寒い寒いという事実、山深い奥多摩にあの様な巨大な工場があるとただそれだけで著しく秘密工場めいた景色が出来上がり子供心が途方もなく奮い立つという事実、本当にいい歳だけど。

 改札を出るや否や、同じ電車に乗ってきていたハイカー悉くバスに乗り込み奥多摩の更に奥の方に向かうのを尻目に私はといえばその反対の方向、どう見ても山のどん詰まりの方向へ。その方向に目立つのは先程奥多摩駅のホームからも強く異彩を放っていた巨大な工場、深く切り立った渓谷越しに横から眺めると尚その巨大さが見て取れます。休日にもかかわらず一部操業の様子を見せて所々白煙が吹き出して居る様などまるで私のために演出をしているようにしか見えない、などとそこまで横柄なコトは言わない。言わないが正直、この渓谷沿いによくぞとまでに膨れ上がった巨大な人造の実用本位の部品でのみ構成される建物の圧巻をもってもうおなかいっぱいになっちゃってそのまま青梅線中央線を下って吉祥寺で降りて本日男性1000円デーのバウスシアターで何本か映画観て帰ってついでにいせやで一杯やって帰ってもいいくらいのもんである。

 ここら本来なら深く穿たれた谷の一部、朝のうちはまだ日の当たらぬ寒冷地につき手の悴みから始まり足の先まで冷え切った身で眺めてみると巨大器機の醸し出す冷感が半端ない。おそらく冷酷な宇宙空間に突如として現れるデススターのような巨大構造物はこういう感覚で眺めるものなのだろうな。

 右手にデススターの隔壁を眺めながらそれに比するととても心許なくなる細い橋を渡ると先にあるのは釣り場か何か。もちろん朝だし冬だしで開いてる様子はないのだが、その釣りだかなんだかをするトコロの上の方に土を盛り、そのまま先ほど私が渡ってきた橋とは別の橋を介してやはり先ほどのデススターに向かって伸びていく道が一筋。奥多摩駅からデススター方面へ向かっていったん途切れると思わして実はデススター内を介して反対側へ密かに伸びていく紛れもない廃線跡。目的の小河内線廃線行、これより本格的に開始です。

 とは云っても道路から比べて結構な高さを通る廃線跡、どうやって合流しようか

 答えは意外に簡単。そのデススター脇橋・・・いい加減にその名称やめないと何が何だかわからなくなる・・・からそのまま道なりに行くと道路もやや高いところまで上がっていく

 もうどう見ても鉄道橋の下を通って、という道路になるわけですがさすがに廃線跡と同じ高さまで来ているワケではない。どうするか?

 知れたコトよ。人ん家の庭先と廃線跡との微妙な境を上るのよ。幸いにして休日の朝、近くの住民の朝はゆっくりのようで

 なんだかんだで無事廃線跡合流。線路は残っているものの近くの住民が侵略して一部畑にしていると思しき様子も見え、例えうるさい住民に見つかっても多少の言い逃れにはなろうか。線路跡と合流できたのでこのまま山側に向かうのがまあ本来のセオリーと云えばセオリーなのですが

 なんとなく元来た方面、つまり奥多摩駅方面へ、線路跡を伝い橋を渡りデススター内を通って行けそうな気もしますが

 もしもデススター内にベイダー卿が視察に来ていようモノならそくフォースグリップで昇天なのでココはデススター内侵入はあきらめて・・・ハイ、単にダース・ベイダーに登場してもらいたくてしつこくデススター連発してました。以降「デススター」という言葉を使ったら舌噛んで死ぬ。

 いずれにせよ工場→奥多摩方面のトンネルは通行止めなので、素直に山側に向かうとしましょう。

 ちなみにトンネル内は通行止めを良いことに工場のなんか物置になっていたことがあった様子。路線すべてが工場の持ち物なのだからそれは問題ないとして、この奥深物置にモノを置きに来るのにあのガーター橋を使うのはとても怖いと思うがどうか。

 方向変わりまして線路跡山側。蹴り入れれば簡単に倒れてしまいそうなやる気のない立ち入り禁止柵が立ち入り禁止を警告するのはちゃんとワケがあってこの先

 川にかかる比較的眺めのコンクリート橋になってるからでして鉄道現役時の景色を是非とも拝みたかった一品であり現在でもその姿に優美の一言を捧げても良いと思われる構造物なのですが

 橋上藪に覆われその藪を避けようと橋の端に行こうとすれば

 当然の如く柵などなくせいぜいが時々現れるせり出した待避場だけ

 鉄錆ガビガビで触れただけで落ちそうなあんな待避場に足を踏み入れようなどとは『執炎』の浅丘ルリ子でもなければ出来ない芸当なワケで

 かといって伊丹十三ならばそのまま飛び降りてしまいそうでもっとヤバイと確かにあの立ち入り禁止柵の存在は理にかなってます

 さて私はと言えばここで秘密兵器の存在を・・・何かといえばナタだ。廃線廃道山歩きには欠かせないアイテムだが

 手入れしてないのでガビガビで役に立たないから素直に藪を漕ぐ

 まあこれくらいの苦労は覚悟してましたから。それにしても敷かれたまんまのレールにおびただしい植物、その他おびただしい瓦礫に積もった土にひどく足場が悪くどれかにつまずいて大きくつんのめる事態にでもなれば橋の幅を飛び出して落下してしまう事態にもなりかねない。もしも落下死体で私が見つかったら伊丹さんみたいに色々と陰謀が取りざたされるかな?

 イイエ多分、間違いなく、「バカ」の一言で済まされてしまうだろうから注意しよう

 みたいなことを考えていると足下の家々からガラガラと雨戸を開け始める音。この場所でウロウロしていることは何気に目立ちそうだね

 などとしているウチに橋の先、トンネルの姿が見えるが

 またもやどう見ても物置状態。イヤ今度は本格的に倉庫の様子でタチが悪いなこれは。

 タチの悪いのはおまえじゃぁ!

 それは認めますが、認めた上でどうやってこのトンネルをパスするか考えなければ目的も達せないホントウにタチの悪い奴になってしまいます

 一応トンネルを直接通る方法も考慮したのですが、あのシャッター付き蓋(?)の向こう何の倉庫かわからないのに入っちゃうのはヤバイだろ。イヤそれ以前にヤバイのはそういう理由じゃないだろ。

 第一シャッター付き蓋に到達する前に目の前プラプラしてる巨大なパイプが落ちてきたらどうしよう。さっきから風に関係なくゆらゆら揺れているからこうしてる間にも落ちてくるかも

 実際落ちてるし

 ではトンネルの脇から抜けるのどーでしょか?

 行けなくもなさそうですが、

 「ハシゴが広いではないか」

 「サビであふれてますよぉぉぉ」 
 
 「関係ない 行け」

 どうも早くも運を使い果たしてしまいそうな・・・(続く)