『寺島町奇譚 ぎんながし』

 部屋の中に、大量に放置してあるDVD-Rがある。少しづつ整理しているのだが、中身を確認しようとすると保管したことさえ憶えてない謎のデータ・録画した映像などなど出てきてつい見入ってしまう。今回の映画というかアニメはそんな経緯で我が家に眠っていて発掘したもの。
 オリジナルがどういう形で発表されたのか、謎(?)はいろいろあるものの、これを撮ったのが「NHK BS」で放送されていた「夏休みBSアニメ特選」なる番組からで、その番組内に詳しい解説は一切ない。内容についても「子供にお奨めできるか」と言えば大変微妙?関係キーワードから来られた方は当然ご存じでしょうが、原作の舞台は戦前の色街「寺島町」。その中に住む様々な人々のエピソードを、おそらく作者の少年期の姿だと思われる「キヨシ」からの視点を中心に、可笑しく、哀しく、愛情を持って描かれている。今回挙げるアニメは原作の中の「ぎんながしの巻」「げんまいパンのほやほや〜の巻」等初期の作品のいくつかを一つにまとめた感じ。
 とにかく原作に忠実と言ったところ。その意味で良くできているとは思う。滝田ゆう先生独特の「間」更にはアノ「絵吹き出し」まで忠実に再現。制作者は滝田先生の熱烈なファンなのか、原作を読んで「自分のカラーをつけることが出来ない」と思わざるを得ない程衝撃を受けたかのいずれかではないか?
 原作に忠実と言うことが満足と言うことは、その時点で原作を越えることは断念しているということであって、よって「アニメ独自」の感想というのが浮かばない。漫画「寺島町奇譚」については今後取り上げると思うし。むしろ「この映像を観たこと」自体が貴重なのか?
 漫画どの巻のどのエピソードも大変素晴らしい『寺島町奇譚』、一つ一つのエピソードとしてだけでなく、一つ一つ「コマ」に描かれた一瞬一瞬までも私の心を捕らえて離さない。その中でも私にとって「白眉」と思うのが最後のエピソード(「ほたるのひかり」)で描かれている「寺島町が東京大空襲の爆撃によって一瞬にして消えてしまう」シーン。今の時代から見ると「夢」の「また夢」の世界の出来事が滅びてしまった一瞬を視覚のみに集約して表現した『寺島町奇譚』最高のシーンだと思う。・・・一瞬なのだから動かない「絵」によってのみ最高に表現できうるのであって、当然アニメになると「やりたいことはよくわかる、だが残念」という言葉が最大限の誉め言葉になってしまう。