『ニーハオ訒小平』

 すげーおもしろかった。ちゃんとした形で社会主義国プロパガンダ映画観たことなかったので、すごく新鮮。冒頭の製作会社のロゴが人民解放軍の兵士が前方を指差して進軍している絵なのでいきなり大爆笑。劇場内で私一人が・・・。「同志」訒小平に対するこれでもかとばかりの持ち上げ振りは恐らく制作に政府内部の上海閥の関係者がいるからなんだろう。江沢民退任後、著しく影響力が失われつつある連中が、「政権獲得の原点回帰→訒小平の権威による後ろ盾」をもう一度クローズアップしようとしてる様が透けて見え、一癖も二癖もある映画に見える。
 当然、「第二次天安門事件」は描かれていない。西側からかの人を評価する場合、良かれ悪かれ絶対に避けては通れない大切な出来事なのだが、本場中国での扱いの微妙さと、真の意味で訒小平の評価付けの終わってないことの証明となっていることを表しているのだから皮肉と言えば皮肉である。ちなみに最後のシーン近く、「訒小平から権力を正式に移譲される様子を強調するように登場した江沢民」に対し、途中まで重要な側近で、国家・共産党としても幹部だった胡耀邦趙紫陽両氏の映像は一瞬たりとも登場しない。
 しかしまあ、死後三十年経ってその怪物的所業の洗いざらいを暴露され、「建国の父」という本当に表面的でしかない虚像を、とてつもなく凌駕する新たな実像が定着しつつある「皇帝」毛沢東に比べて、屈託のない笑顔が本当によく似合い、妻を始め家族を殊の外慈しみ、厳しい政務の中にもユーモアを欠かさない数々のエピソードは、客観的視点から描かれてないことを差し引いても、映像から十分に伝わる。行ったことの結果として、最終的な結論に現在も達せず、手法そのものについて賛否はあるものの、常に国と国民を良い方向に持っていこうと真剣に考えていた、尊敬に値する施政者の姿は大変印象に残る。この偉大な指導者を改めて見直すきっかけとするにはまずまずな内容だと思う。
 あと20年後、彼の指導者としての評価が真に行われる時が来るまでの中間評価として、その時代の温度を測る、という意味で貴重な資料とはなるのでは。