『鬼畜大変態』於浅草東洋館

 真面目な落語記事っぽくレポートしてみよう。

 毎回意欲ある前衛的な面々が集うこの会、他ではお目にかかれない演者・演題ということもあり、なかなかの盛況振り。本日もほぼ満員の会場は席と席の間が狭すぎて移動に手間取るほどであった。
 さて、演者は出演順に 立川三四桜(前座) 元気いいぞう 立川談笑 (中入り) 立川談之助 川柳川柳 快楽亭ブラック

 では前座の三四桜から。当初前座を予定していた立川キウイが先日の二つ目昇進試験において改めて自らの不勉強を悟りせっかくの二つ目昇進を一時返上して、自らに更なる試練「昭和歌謡曲500曲、歌詞をすべて憶える」という荒行を課して、その修行のため行き先を告げずに旅立ったとのこと。急な出演とはいえ、落語史に残る大前座キウイの代役を見事に演じきった感の三四桜、なかなか他でお目にかかれない落語を披露してくれた。先代正蔵以来耐えて久しい道具仕立ての小道具を遣った「芝居噺」、久々に復活かと思われる彼のごとき見事な道具の使い方。残念ながら芸としての未熟さがせっかくの道具を生かし切れてない感が大いに感じられるものの、伝統復活への意気込みを感じられ、それを更に進めて新しいものとする三四桜の今後が見逃せない。

 ここから大名跡のお歴々、トップは元気いいぞう。鳴り物芸はどうしても寄席の伝統の中で「色物」扱いとなってしまうためこのような席になるといいぞうのように素晴らしい芸を持つ芸人であっても、出演順的にこのような位置に甘んじなければいけないが、それはそれとしてトップバッターの役割を十分果たし、良い意味で色物の意義を再確認させてくれた内容である。珍しく見せた弾き語りに合わて時事ネタを語る正当芸と観客も参加できる「きょうさんとーへにゅーとー」「おどらされんなーよー」等のスタンダードナンバーの融合は、いいぞうの芸人としての懐の深さを改めて感じさせられる。かつて唯一色物で寄席のトリを取った花月亭九里丸の後、再びトリを取る色物がいるとしたらこの人しかないのではないか。

 お次は談笑。演題は十八番「ゲロ指南」。汚物を描かせれば落語界一、その技量を遺憾なく発揮できる本作、期待に違わず見事に演じきっていた。最後近くの指南屋がゲロまみれになる描写、回を増すごとにますますリアリティに磨きが掛かり、今後の精進の後、一瞬にして臭いまで感じさせることのできるゲロを吐けるようになる名人上手となる日が楽しみである。

 中入り入って。真打ち連の登場。まずは談之助。
 落語家限らず芸人の最も大事な核となるのは「権力に対する反骨」を元にした笑いである。談之助はその意味で正当な系譜を次ぐ優れた落語家の一人である。今回声高に演じられた赤尾敏先生へのオマージュといえる本作は、先生への限りない愛と簡単に世間と迎合することのないその反骨心、世の中の矛盾を鋭く突きながら、今は亡き赤尾先生に代わって訴える談之助の姿勢に落語家としてだけではなく愛国者としての気概も大いに感じられた一席だった。

 川柳川柳。演目は久々の「ジャズ息子」。しかも無修正バージョン。トリに控えるブラックの「演歌息子」の露払いを勤める粋な計らいである。先程見事な引退を飾った三遊亭円楽のすぐ下の弟弟子に当たり、大名人三遊亭円生の二番弟子に当たるその確実な芸は、歳を得てなお味わいを増す珠玉の芸である。かつて大円生に認められて「二つ目止め」のお褒めを頂いた当時のエピソードに加えて円楽の悪口、やがて「キチ」「くろんぼ」「ろせん」「けとう」等、現代では滅びてしまった美しき言葉と共に三味・サックス・トランペット・ベースを巧みに演じ分ける様、なかなか余人に真似のできる芸当ではない。噺家としての根本に、古典を元にした確かな芸が息づいている証左である。老いてますますの活躍を期待できる川柳の今後も大いに期待。

 トリはブラック。演題は先程述べた通り「演歌息子」。川柳の「露払い」が功を奏して「本歌取り」の方も十分以上の大受け。川柳に負けない演じ分けはなかなかのものである。














 演る方も 観に来る方も 皆キチガイ