『クイーン』

 トニー・ブレアが退陣を表明する記事が載った新聞が出た日にこの映画を観たのは全くの偶然。

 内容について、特にダイアナ王太子妃の死を巡ってのロイヤルファミリーのメンバーそれぞれの反応がそれぞれ事実に基づくモノなのか、よくわからない。当然フィクションであることを前提にしているんだろうが、それにしてもそれぞれの「正確」を如実に反映していて興味深い。「さもありなん」というところだろうか。受賞に当たってエリザベス女王・ブレア首相共に祝辞を送ってるので当たらずとも遠からずといったところか。

 それにしても、これが現代においても厳然と存在する階級社会というヤツか。冒頭から始まる、庶民階級からしてみれば理解に苦しむ非常に馬鹿馬鹿しい?しきたりの数々。良い意味、悪い意味「伝統」に縛られそれに基づいて生きていくことでしか自分たちの身分を維持することはできないと信じる「陛下」のお立場は良く理解できる。時代を背景として変化する大衆の考え方の変化との乖離に苦しみながらも、常に自らの立場「国民の為に」という前提に健気に徹しようとする姿、それに触れたが為に結果的に「王室の守護者」を演じた労働党出身の首相の動き、結末を好意的に描いている。なんとなく、昭和天皇マッカーサーの邂逅に似てなくもない。

 これもよくわからないのだが、随所に現れる「貴族の生活」、時たま対比される(主にブレア家との)庶民生活との対比。これもある意味好意的に描かれているのでおもしろく感じられる。庶民の「殿様ってどんなもの食ってんだよ」ってな感覚。ただ単に、私も「成金が嫌いで貴族が好き」な典型的な日本人であっただけなのかもしてないが。その意味で、「君主」が伝統的しきたりを頑なに固守し、その生活振りが「民衆」の生活とあまりにも乖離していること、もしくはそれを示すことは、君主制を守る一番単純な方法なのだろう。一方で「国民の価値観」(或いは「自由と呼ばれる価値観」)を骨の髄まで謳歌する側の人間が、「国民の規範」(或いは「しきたりと呼ばれる自己抑制の中で伝統的に認められた貴族的特権」)に当てはめられた時に生じる激しい自己矛盾が、奇しくも西ヨーロッパと東洋の長きに渡って君主を頂く二つの島国の「太子妃」を、苦しめ続けるという事実。

 けど、貴族の生活、見てる分なら好きですよ。単純におもしろいし。自分が貴族になってみようとは決して思いませんが。